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/Dance with a dragon fifth story 「天使との邂逅」



8月7日 PM 4:46 時空管理局 本局 戦技教導隊



ゴッ!


バスターモードのレイジングハートから放たれたディバインバスター・エクステンション。
桜色の集束魔力が、蒼穹の空を駆けてゆく様は、地上に堕ちる流星が如く。
2km以上離れた射撃地点からの超遠距離砲撃が、浮遊していた標的を貫き砕く。

かつて『闇の書事件』において、ヴォルケンリッターが一、鉄槌の騎士・ヴィータへ行われた超遠距離砲撃。
魔力砲撃に有るまじき、凶悪な射程を誇るその技は、以降の訓練や戦いを通して更に磨かれ、それを操る
なのはの様は、まごうことなく「スナイパー」そのものだった。

『闇の書事件』での実戦と、以後の実践で、幾度と無く喰らい続けた紅の鉄姫は語る。

『アイツの砲撃が、そのまんまの威力で、とんでもねー遠くからぶつかってくんだぞ!? 
何度死んだと思ったか……遠距離から魔法撃ちこんでる時のアイツの顔、じっくり見てみろ。 
獲物を見つけた狩人の目で薄笑いを浮かべてやがんだ(((((ガクガク"((`へ´;))"ブルブル)))))』

本人に言わせれば“集中して緊張維持してるから、頬が引き攣っているだけなの!”という事だが、
その言を信用するかどうかは受け取り手の問題である。
付け加えるなら、かなり身近な友人たちですら明言を避けているという事実があったりなかったり。

『よし、高町。今日は上がっていいぞ』
「はい!」

ヘッドマウントディスプレイのバイザーを上げ、通信機から聞こえた指示に従うなのは。
傍に控えていた技術者達は、チェックシークエンスを行った後、レイジングハートに接続されていた各種ケーブルを
取り外してゆく。

『お前さんの長距離砲撃は、相変わらず、とんでもない威力だな。
迂闊に夫婦喧嘩なぞしたら、旦那さん、逃げ切れないぞ?』
「そ、そんなことしません! 第一、“旦那さん”て誰のことですか!』
『はははは。何を今更スッ惚けてるかな、お前は。 無限書庫の司書と、アレだけいちゃついてやがるくせに』
「にゃ!? ゆ、ユーノくんとはそんなのじゃありませんてば! “いちゃついて”もいません!」
『ほほぅ? アレだけラブ臭を放っておきながら、いちゃついていないと?』
「なんですかその『ラブ臭』って!?」

通信機から聞こえる言葉の主は、明らかに面白がっているようだ。
なのはは顔を真っ赤にしながら、頬を膨らませ、必死に反論する。
そんな彼女の様子を伺い、聞き耳を立てるもの多数。中には密かに魔法を展開し、聴力を拡大している者まで
いたりする。

“白い悪魔”だの“覇王降臨”だの、異名と共に弄られている なのはだが、教導隊を含め、管理局所属の
若手からすれば、人気実力共に間違いなく『アイドル』であり、年配者からすれば『娘や孫』のようなものだ。

そんな乙女の恋愛事情。興味を抱かぬ者は無し。
周囲の出歯亀連中に、まったく気が付く事も無く、反論に必死な高町なのは13歳。
今日も今日とて元気一杯全力全開であった。

「違うんですってば〜〜〜〜」


*       *       *       *       *



「ううう、ヘルマン教官てば。わたしの事、毎回毎回からかって」

管理局本局の通路を、“とほほ”といった表情でボヤきながら、無限書庫へと向かうなのは。

「はぁ(溜息) ユーノ君とは、そんなのじゃないのに。ね? レイジングハート」
《…そうですね (その話を私に振らないで下さい。どう答えろというのですか(汗)》
「フェイトちゃんやクロノ君、はやてちゃん達と同じ、大切なお友達なのになぁ」
《(マスター……頼みますから、ユーノ=スクライアの前で無垢な笑顔で『大切なお友達だよ』とか
 云わないで下さいね。元マスターとはいえ、彼が余にも憐れですから)》

己の相棒が戦々恐々としている事も気付かず、なのはは考え込む。
自分とユーノが一緒にいる時、他人からは『恋人同士がイチャイチャしている』ように見えているのだろうか?

無限書庫の各書籍を整理している時、お手伝いに行くこともある。
寝食を忘れて没頭しがちなユーノに、お弁当を差し入れている時もある。
翠屋のシュークリームを差し入れに持っていくこともある。
極稀にお互いのスケジュールが調節出来れば、一緒に出かけることもある。

「う〜ん……別に唯それだけなんだけど」

すぐに無理をする彼が心配で、暇をみつけては様子を見に行っているだけなのに、皆は何で『恋人』扱い
するんだろう?

ユーノと自分が『恋人』同士な姿を想像してみる。

出掛けに交わす情熱的なキス。
誰憚る事も無く、腕を組みながら歩き、頬を摺り寄せる自分。
そんな自分に困ったような笑みを浮かべつつ、髪を梳きつつ頭を撫でてくれるユーノ。
公園の芝生で一緒に寝転がり、寝息を立てている自分達。
ユーノの腕を枕代わりに、もう一方の腕に抱かれて安らぐ自分。
そして……etc.etc


(ポムッ!)

オーバーフロー


(む、無理無理無理絶対無理! 恥ずかしすぎてそんなこと出来ないよ〜!?)

真っ赤になりながら、無限書庫へ向かう歩みを速めるなのは。
想像しただけでこうなのだ。恋人同士なら出来ることも出来ないんだから、恋人じゃない。
第一、“好き”だとか“愛してる”とか、そんな類の事も何も言われていないんだし!

赤い顔で納得したように頷く己のマスター。
待機状態のレイジングハートは、肉の体があったのなら間違いなく深い溜息を付いたことだろう。

《(マスター……それは恋人同士になってからのやり取りです。第一、行為の基準が桃子と士郎、
 恭也と忍の段階で間違っています)》

胸元でゆれる相棒の、声にならない声が聞こえないなのは。
彼女が目的地に到着するのは、それから直ぐの事だった。



8月7日 PM 3:48 時空管理局 本局 無限書庫



ユーノ=スクライアは思う。

“一回、本気でナシつけなきゃ駄目? 駄目っぽいよね? やっぱりそうだよね?!”

『……というわけだ。アースラの改装が一段落するまでに、リストのピックアップをよろしく頼む』

眼前に展開されたウィンドウに映る人物が告げる、いつも通りの無情な依頼。
こっちの時間・体力・精神力に、真っ向から喧嘩売るのはデフォルトですかああそうですか。

「クロノ! こっちの人手が致命的に足りないってわかっているよね!?」
『だからこそ、「アースラの改装が終わるまで」と期間を長めに設定したんじゃないか』
「その間にこなす仕事の量を考えてくれ! なのはの世界の諺にある、≪無い袖は振れない≫って状態
なんだから!」
『≪成せば成る≫という格言もあるそうだ。 まぁ、頑張ってくれ』
「そんな言葉、どこで覚えて来るかな!?」
『(フッ)』
「このやろぉぉぉおおおお!」

画面に映る顔を、殴り飛ばしてやりたくなったのは、これで何回目だろう?
時空管理局所属巡航艦・L級アースラ艦長・クロノ=ハラオウンが浮かべる笑みが、非常にムカつく。

「大体さ、なんだって今頃アースラが改装なのさ。新艦艇が配備されるとかいってなかった?」

ユーノが苦々しく呟いた内容。
それは一昨年に起きた、ロストロギアの暴走による第3方面艦艇群の消失に伴う、新規艦艇への刷新に
ついてだった。
各方面の現行艦艇を新規の物へと、随時変更していく中で起きた事件。
その事件以降、新機軸の艦艇が建造されているのはユーノも知っていた。

『R級の事か? あれは各方面の旗艦として少数だけ建造される艦艇だ。 現状では年間一隻がいい所だぞ』
「あれ? アースラの代替艦じゃなかったの?」

首を傾げるユーノに、呆れたような顔を向けるクロノ。

『誰に聞いたんだ、誰に……ほいほい艦艇を建造出来るほど、管理局の予算は潤沢じゃない。
第一、アースラの改装は今回だけじゃなくて、艦齢を伸ばすために何度も行われていることなんだぞ』
「じゃ、クロノは当分、アースラの艦長のままなんだ」
『「当分」て……僕はアースラの艦長に成り立てなわけだが?』
「そうだったね」

昨年行われた、≪祝! クロノ君! アースラ艦長就任おめでとう!≫ と題した、仲間達でのパーティー。
その時の阿鼻叫喚振りを思い出し、あははと苦笑する。
クロノも“やれやれ”とした表情で溜息を吐く、御なじみのポーズをとっていた。

『とにかくだ。 リストの件は、しっかり頼む』
「……善処はする」
『了解だ。 もし何か報告があるのなら、海鳴の方に連絡してくれ』
「今日は向こうなの?」
『ああ。 アースラの改装が終わるまでは動けないしね。 フェイトが夕食を作るって張り切っていたから、
今日はあっちに戻るつもりだ』
「へぇ。“お兄ちゃん”してるじゃないか」
『もう4年近く“兄妹”やっているんだ。君たちへ、からかいのネタを提供するような無様は晒さないさ』
「よくいうよ」
『うるさい』

画面の中の彼が憮然とした表情を浮かべ、通信を切った。
閉じられたウィンドウがあった位置を眺めながら、“クスッ”と笑みがこぼれる。
クロノも、出会った当初に比べて、随分と表情が出るようになったものだ。
まあ、それを云ったら、自分だって似たようなものかもしれないが。

ユーノは漫然とそんな事を考えつつ、検索魔法を起動する。
クロノからの依頼はこなす為にも、今抱えている仕事はさっさと済まさなければならないのだから。

「スクライア……お〜い、聞こえてるかぁ〜?」

しばし作業に没頭していたユーノに向け、同僚の声が掛かった時、クロノの通信を受けてから、
既に二時間ほど経過していた。

“あちゃあ、また時間の感覚がふっとんだよ(汗)”

己の所業に苦笑いを浮かべるユーノ。
どうもこの頃、以前よりも作業時の時間間隔の欠如が見られる。
気をつけないと、日干しになってもおかしくないかもしれない。

「どうしました?」

声を掛けてきた同僚に返事を返したユーノだったが、同僚は、“にやり”とした笑みを浮かべ、
からかうように用件を告げる。

「お姫さんのご来訪だ」
「ちょ、“お姫さん”て」
「何照れてやがる。 ほら、待たせてないで迎えてやれ」
「あ。 じゃ、じゃあここお願いします」
「はいはい」

にやける同僚の男性職員に、礼を言いつつ、入り口に向かうユーノ。
程なくして到着したそこには、満面の笑みを浮かべて手を振る なのはの姿があった。


*       *       *       *       *


「やあ、なのは」
「ユーノくん、お疲れ様」
「あはは。まだ仕事だらけだけどね」
「そうなんだ」

ちょっと残念そうな顔をする なのは。
だが、彼女は気を取り直すと、ユーノへとバスケットを手渡した。

「えへへ。今日はサンドイッチにしてみました♪」
「へぇ、どれどれ」

ユーノの手により開けられたバスケットには

“カマンベールチーズ・ルッコラ・玉ネギ・薄切りハムをはさんだバケットサンド”
“スモークチキンと卵サラダ・アスパラ・ツナをはさんだブリオッシュサンド”
“厚切りベーコンとレタス・トマトをシリアルブレッドにはさんだBLTサンド”

と、三種類のサンドイッチが彩りよく並べられ、とても美味しそうな感じであった。

「ありがとう、なのは」
「どういたしまして」

微笑み合う彼らが纏うフィールドは、何人たりとも打ち壊せない、絶対無敵の領域と化し、周囲の連中が送る
殺意という名の強烈な視線すら弾き返していた。

「ち、ちくしょう! 毎回毎回手作りのお弁当差し入れなんてうらやましすぎるぞこん畜生ぉぉ!(泣)」
「抑えろ! 俺だってな、俺だってなぁ!(号泣)」
「た、隊長ぉぉ! 我々に希望は無いのでありますか!?」
「そうです! 暗い穴倉(無限書庫)に日々もぐり続ける我々に、光差す未来は訪れないのですか?」
「いっそ、禁書コーナーに放逐して儚く散って貰うことも考えて…」

外野において、何やら深刻な謀略が紡がれつつあるようだが、当事者たる少年の耳には(幸いにも?)入っていない。
幸せ一杯な笑みを浮かべ、バスケットを閉じるユーノ。

「相変わらず美味しそうだね。これ、翠屋の新メニュー?」
「えっと、このバケットサンドは、そうなの。後の二つはなのはオリジナル♪ メニュー自体はありふれたものだけど」
「そうなの? 凄く綺麗に出来てるし、お店に出してもいいんじゃないかな」
「そ、そうかな?」

ユーノが微笑みながら告げた言葉に、頬を染める なのは。
翠屋二代目の座に就くかどうか微妙な自分では在るが、こういう風に喜んでくれる姿を見ると、
心が“じんわり”と温かくなる。
この感触は、とても好きだ。

“ユーノが浮かべる表情だから”という事実を、彼女が自覚するのは、一体何時になるのだろう?


*       *       *       *       *


開いていたウィンドウが閉じられ、パネルを踊っていた指が離れる。
これでアースラの改装に関しての手続きは、口頭での申し送りだけとなった。

「ふぅ。ようやくか」
「クロノ君、お疲れ様」

アースラブリッジで、各種手続きを行っていた二人ークロノとエイミィは、“ほっ”と一息ついた。
リンディが艦長職を辞し、クロノが引き継ぐまでの間に、近代化改修を行ったアースラ。
今回の改装は、段階的に行われたそれらの〆にあたり、同改修が行われた7番艦『アゲイラ』で確認された
不具合の調整を兼ねていた。

本来なら、改修がおわるまで係留しておき、代替艦による任務従事となるわけだが、新規艦艇のM級は
刷新が急務で、代替艦として廻す余裕が無いこと、代替艦といっても旧式、それもランク下のJ級などを
当てるわけには行かない事、ブロック式の改修であり、一工程にさほど時間が掛からない為、任務終了後の
整備時に随時行うとした事など、様々な要因組み合わさり、「改修しながら任務従事」という、訳の解らない
状況が出現していたのだ。

「ま、それもこれで終わりだ」

艦長就任時より、実に馬鹿馬鹿しい事態に付き合わされていたが、ようやくその荷も消えてくれる。
実際の任務で苦労するのなら兎も角、こんな出来事での苦労は勘弁して欲しい。

「エイミィさんとしてはですねぇ、二回目の更新での『運用ソフトバグ混入事件』の恨みは晴れていないわけですが」
「ああ、危うく次元回廊内で消滅しかかった、あれか」
「担当者の首を『物理的に』飛ばしてやりたくなったからね」
「エイミィ」
「冗談冗談♪ 1割くらい本気だけど」
「あのな」

溜息を吐くクロノが立ち上がると、席を回転させつつ、エイミィが上を向く。

「クロノ君。帰り際に飲み物買っておいてね」
「自分で買え」
「あ、ひっどいなぁ。2リットルのボトルを、か弱い女性に持たせていいと思っているのかね、君は」
「エイミィだからいいんだ」
「ひどっ!?」

“がーん”と態々口に出していうエイミィを冷たい目で見てから、踵を返すクロノ。
だが、3歩ほど進むと、足を止め、肩越しに声をかける。

「……希望は?」
「んと、烏龍茶とジンジャーエール♪」
「……はいはい」

結局は希望を聞いてしまう、クロノ=ハラオウン18歳(現アースラ艦長)。

ピピピ

「? 緊急通信!?」

不意に明滅したコンソールに、素早く向き直るエイミィ。
開いたウィンドウに映ったのは、前艦長のリンディ・ハラオウンの姿だった。

「あ、あら?リンディ艦長。 どうしたんですか?」
「エイミィ、クロノは?」
「あ、はい。まだいますけれど」

エイミィの声に振り向き、艦長席のシートに戻ったクロノは、そのまま眼下のウィンドウに映る母へと声を掛けた。

「母さん。一体何事なんだ? 通信のプライベートな使用は禁止されてい…」
「フェイトが戦闘行動に入ったわ」
「な?!」

母の言葉に耳を疑うクロノ。
非番であるフェイトは海鳴にいるはずだ。
それなのに何故戦闘が起きる?!

「どういうことなんだ?!」
「詳しくは解らないの。ただ、空間のゆらぎを感知して調査に向かった先で、戦闘に成っているらしいのよ」
「ばかな……『戦闘になるような相手』がいるっていうのか?」

AAAクラス、そろそろAAA+にならんとしている魔導師であるフェイトと『戦闘』になる? 
魔力を持つものが殆どいない、あの管理外世界でそんなことが? 
なのはの父や兄のように、人間とは思えないような戦闘力をもつ人間も、確かに存在してはいるが…
それとも、どこかの次元世界から逃げ込んだ犯罪者の類か?

「アルフが今、現場に着いたみたい」
「わかった。なるべく早くそっちに戻る。母さんは状況の把握を頼む」
「ええ」
「エイミィ、なのはに連絡。彼女にも戻って貰う!」
「わかったけど、アースラの転送ポート、使用までに時間が掛かるよ!」

コンソールを叩き、なのはに通信を繋ぎながらエイミィは叫んだ。
改装の為に各種装備をシステムダウンしている状態のアースラからでは、直接跳ぶことは出来ない。

「エイミィ! 本局の次元間跳躍ポートの確保!」
「始末書ものだね クロノ君!」
「しったことか!」
「…クロノ。こちらのポートは起動させたわ」
「ありがとう、母さん」

踵を返しブリッジから駆け出すクロノ。

「なのはちゃん! 突然ごめん! 今、海鳴でフェイトちゃんが……」

通信の繋がった なのはにエイミィが事情を説明し始めた声を背に走るクロノ。
遠い転送ポートへ短時間で到着する為に、魔力による身体強化で走る速力を跳ね上げる。
禁止されている本局内での魔力行使をも辞さず、クロノは疾走していった。



*       *       *       *       *


突然だった。

『なのはちゃん!』
「うみゃ!?」

ユーノへとバスケットに入れたサンドイッチを渡せた事に、それを褒められたことに頬を緩ませていた なのは。
そんな彼女に、いきなりエイミィからの通信が繋がれた。

「え、エイミィさん?」
『突然ごめん! 今、海鳴でフェイトちゃんが交戦してるの!』
「え!?」
『クロノ君も動いたけど、なのはちゃんも戻ってもらえる!?』
「わ、わかりました!」
『ごめんね。 転送用ポートの手配、大至急おこなってるから、本局L-24の次元間転送用ポートへ向かって!」
「はい!」

エイミィが通信を切ると、なのははユーノへと顔を向ける。
ユーノは、軽く頷くと なのはの肩を“ポンッ”と叩いた。

「いってらっしゃい、なのは。これの感想は戻ってきた時に、しっかり聞かせるからさ」

バスケットを抱え、微笑むユーノに頷きを返すと、なのはは駆け出した。
親友を助けるために!



8月7日 PM 6:15 藤見町



夜の街を疾走する影があった。
見た目は唯の人間でしかない。
欧米人の容姿をしたその男は、しかし唯人というわけではなさそうだ。

壁を蹴りつけ跳躍し、家々の隙間を縫うように駆け抜け、曲がり角を折れた時さえ、その速度は
殆ど落ちることはない。

速度自体も尋常ではなかった。
直線スピードであれば100m7秒程度は出ているだろう。 明らかに『人間』の限界を超えている。

時折、空の様子を伺っている男性。
彼の視線の先には、羽ばたき空を飛ぶ影があった。
夜に飛ぶ鳥?いや、それは人の背に白い翼を生やした『天使』の姿。

『天使』は傷を負っているのか、不規則にふらつき、高度も高くは取れない様子だった。
それでも暫くの間、飛翔を続けていた『天使』だったが、とうとう限界になったのか、ふらふらと眼下の公園へと
降りていく。

バサッバサッ

夜の空気をかき乱し、公園の芝生の上に、その身を降ろす『天使』
それと同時に、緑なす芝に赤黒い斑点が浮かぶ。

骨が飛び出した右腕と、上半身に受けた爪傷から流れる血。
芝を染めるその流れは、今だ止まらず、後から後から溢れて来ている。

「お、のれ……まさか…カラミティ……だった…とは(ゴフッ)」

吐血し、倒れこむ『天使』
身体を横たえたまま、無事な左腕を使い、己の懐をまさぐる。
ブルブルと震える左手を懐から引き抜くと、その手には携帯電話と思わしきものが握られていた。

「はぁ……はぁ……『P』へ……はぁ…報…こく……はぁ…はぁ」

力が抜ける。
パネルを開き、ボタンを押すことすら、残った力を総動員させなければならない。
時間をかけ、ようやく連絡すべき相手の短縮を選択した『天使』は、どうにかこうにか携帯を持ち上げ、耳に当てた。

呼び出し音が鳴る。
1回
2回
3回

『私だ』

3コール目で繋がった相手に、喉にこみ上げてきた血を飲み下しながら、言葉を発しようとした『天使』。

だが。

ガウンッ!

暗がりに響く発砲音。
それと共に、携帯を手にした『天使』の左腕が、肘から千切れ飛び宙を舞う。
クルクルと廻り、5mほど離れた場所に落下した己の腕を、信じられない思いで見つめる『天使』。

ガウンッ!
       ガウンッ!

呆然とした『天使』に向かい、追撃の魔弾が放たれる。
“はっ”とした『天使』は、身体を捻り回避を図るが、魔弾はその行為をあざ笑うかのように腰と肩を抉り弾けさせた!

「ぎゃぁあああ!」

『天使』の絶叫が公園に響く。
のたうち、地面を転がる『天使』が、発射した方向を睨みつけると、そこには両手に巨大な銃を持つ男の姿があった。
先ほどまで疾走していた男だ。
あの速度で延々と『天使』を追跡したのであろう男は、しかし、息を切らすでもなく自然体で佇む。
両手にした銃は『デザートイーグル50AE』
映画などでも良く見られる、自動拳銃の最高峰。
まさしく映画のように二丁のデザートイーグルを構えた男は、『天使』へとゆっくりと歩み寄る。

「き、貴様ぁぁ! よくも私にこのような事をぉぉ!」

男へと、憎しみに満ちた声を掛ける『天使』
だが、彼はそんな『天使』を馬鹿にしたような顔で見た後、両手の銃を眉間と胸部へ“ピタリ”とポイントした。

「ひっ!? ま、まて! わ、私を殺すなど、この上なく罪深い事なのだぞ! 私は『レリエル』!夜を司る天…
『天使』の言葉を完璧に無視した男は、一切の躊躇無く、引き金を絞る。

ガウンッ!
       ガウンッ!

言い募る『天使』の後頭部と背中が弾け飛び、辺りの草木に破片を撒き散らす。
“クシャッ”っという感じで地面に潰れる『天使』の身体。

男は、それに見向きもせず、吹き飛んだ左腕に歩み寄ると、握られた携帯を手にした。
履歴を確認しようとしたのか、操作キーに男が触れた瞬間、天に轟雷が弾ける!
思わず振り返り、背後の上空に視線を飛ばした男の視界に、空を白く染めた雷が消えてゆく様が映った。

『レリエル!? レリエル! 返事をなさい! レリエル!!』

しばし上空を見つめていた男は、漏れ出す声を無視しつつ、改めて履歴を含む携帯のデータを確認した後に、
そのまま携帯を『握りつぶす』

ベキバキと音を立てて残骸となった機械。
彼はそれを地面に転がる『天使』の死体の傍に向けて放り投げる。
残骸が落下した傍にある、背と後頭部に大穴を空けた死体。
だがそれは、急速に塵に変わっていく。
砂山を風が吹き散らすが如く、見る間に消えてゆく屍骸。
その様を無表情に見ていた男は、不意に視線を上に向けた。

“バサッ”とした羽音と共に、男の傍に降りてくる女性。

“トンッ”と軽い音を立てて着地した女ー沙耶香は、己が傍に立つ男ーウェインへ視線を向けた後、塵になってゆく
『天使』の屍骸を見やった。

「倒したの?」
「ん。ま、ボロボロだったから、僕でもどうにかなったよ」
「……そう」
「?……元気ないね? そういえば、さっきの雷。あれって何だったの?沙耶香のいる所で発生してたみたいだけど、
沙耶香って、雷操れたっけ?」

不思議そうに聞くウェインに、溜息を付きながら、沙耶香は答えた。

「……女の子。レリエルに止めさそうとしたら、飛び込んできた娘がいてね。戦闘になったのよ」
「………え??」

ウェインは頬を引き攣らせた。
沙耶香の強さは十二分に知っている、その彼女と戦闘出来る女の子って一体??

「そ、それでどうしたのさ?」
「どうしても邪魔しようとしてくれたから、倒してきた」
「……殺したの?」
《運が良ければ助かるかもしれぬ。そのくらいの傷は負わせてきた》

沙耶香が答える前に、鞘に収まった月晶姫が云った。

《仲間がおったのでの。こちらを追われぬように、息のある段階で置いて来ておる》
「『天使』連中との係わり合いは?」
「それは無さそうだったけれどね」
《かなり大掛かりな組織が裏にいそうではあったの》
「ってことは?」
「それを敵に廻した可能性、大」
《そうじゃの》
「……ねぇ、その娘が『天使』連中の手駒になる可能性は?」
「……正直なんともいえないわ」

沙耶香が疲れたように答える。
実際に、戦闘でかなり疲れたのは事実であるが……。

《『天使』共の甘言に引っかかるようには見えんかったがの。私見としては、の》
「…精神干渉系にも耐性あったみたいだし」
「なんで解ったの?」
《人払いの結界内に侵入して来おった》
「うそ?!」

ウェインが驚くのは無理も無かった。
月晶姫が口にした『人払いの結界』とは、効果範囲内の人間に対して、『ここにいてはいけない』と思わせる、
強制力の非常に強い妖術なのである。
通常、人間は妖術・妖力に対しての耐性は皆無であり、殆ど抵抗すら出来ない。
だが、件の少女は、結界内部に侵入してきたばかりか、そこで戦闘行為すら行っていたのである。

「ねぇ、その娘って、本当に『人間』? 僕みたいになってるとかじゃない?」
「それは……断言は出来ないけど、多分違うと思う」
《そうじゃな。あの娘は強力な魔力を佩びておったからの。おそらくそれが精神障壁となったのであろ》
「え?じゃあ、4年前の魔力って……」
「姫、そこの所はどう?」

沙耶香とウェインが、少女の魔力の強大さから、月晶姫に確認を取った。
分体を出現させ、沙耶香の肩に乗った月晶姫は、一瞬考え込むしぐさをした後、首を振った。

《あの時の魔力は、桁が違いよった。東京近辺におった妾が感じ取れるほどの強力さであったからの》
「そうかぁ……」
「……なんか、実はトンでもない世界だったりするのかしらね、ここ」
《かもしれぬの》
「やれやれだねぇ」

困ったように頬を掻くウェインが視線を向けた先で、太陽がその身を地平線に没する。
混迷していく未来。
それを象徴するが如く、暗闇が街を覆う。

星も見えない

暗い夜が

降りてきた



8月8日 AM 10:15 時空管理局 医療センター ICU



ピッ ピッ ピッ

白く清潔なシーツに横たわるフェイトの肢体。
身体に繋がれた医療用の各種機材が痛々しい事この上ない。
浅く早い呼吸をする彼女の顔色は蒼白で、見舞う者達の心に“不安”の二文字を浮かべさせる。

ICU併設の部屋からフェイトの様子を伺うなのはは、膝の上で揃えた手をギュッと握り締め、
横たわる親友を見つめていた。

「フェイトちゃん……」


*       *       *       *       *


ハラオウン邸の転送ポート内に光が充ち、なのはの体が顕現する。
正面の防護スクリーンが開くまでの間が、もどかしい。
なのはは、開き始めた防護スクリーンを、自動ドアをこじ開けるように手を添えて、押し開く。
勝手知ったる他人の家。
通信機材や各種測定機器の溢れる部屋を駆け抜け、リビングへと駆け込んだなのは。

そこで彼女は、紅に染まった親友の姿を……見てしまった。

「ふぇいと……ちゃん?」

クロノとリンディが応急処置の治癒魔術式を起動させている。

完全に弛緩しきった肢体は、腹部からの出血で真紅に染まり、吐血による汚濁が愛らしい顔を汚し、
金の髪に赤黒いシミが纏わりつく。

「これ以上は医療班に任せるしかないわ!」
『手配完了してます!』
「僕が運ぶ! エイミィ! 転送ポートで即引き継げるように医療班に連絡頼む!」
『了解!』

あまりの凄惨な光景に硬直した なのは

「なのは! 直ぐにフェイトを運ばなきゃならない! どいてくれ!」

なのはの身を押しのけるようにして、フェイトを抱えて転送ポートに乗り込むクロノ。
呆然とした なのはが見送る中、転送ポートが起動し、クロノとフェイトの身を光が包む。
次の瞬間、僅かな燐光を残して、彼らの姿は掻き消えていた。

「ふぇいと…ふぇいとがぁ……」

リビングでは、崩れ落ちたように膝を付き、号泣するアルフの姿があり、出血で染まりきった床やテーブルを手早く
清拭してゆくリンディが残された。

どのくらいの時間が流れたのか。
二時間にも三時間にも感じたが、実際の所、5分程も無かったらしい。
リビングから姿を消したリンディは、フェイトの部屋から荷物をより分け、バックに詰めて現れた。

「なのはさん、アルフ。行きましょう」
「……え?」

“凛”とした声が空気を震わせる。

自分の娘が傷つけられ、死に掛けていたという、惨劇といってよい光景を目の当たりにし、
それでも自分を保っている。
リンディ=ハラオウンという女性の『剛さ』は、何も優れた魔法技術を持つ事や、艦長としての能力が高い等の
事柄とは関係無いのだと、なのはは思い知らされた。

「大丈夫。私の娘は、友達を泣かすって解っているのに、むざむざ死ぬほど弱い娘じゃありません」
「りんでぃ……さん」

なのはは、微笑みを浮かべてキッパリと告げる彼女の言葉を聴き、初めて己が泣いていたことを自覚した。

「ほら、アルフもそんな所で蹲っていないで。フェイトの事を思うのなら、傍で勇気付けてあげなさい」
「わ、わかってるよ!」

涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、溢れた涙をゴシゴシと拭うアルフ。
なのはとアルフはお互いの顔を見合わせると、頷きあい、リンディへと視線を戻す。

「……行きましょうか」
「はい!」
「ああ!」

彼女達が乗り込んだ転送ポートに光が溢れたのは、それから直ぐのことだった。


*       *       *       *       *


「なのは」

ICUのフェイトを見つめていた なのはに、背後からクロノの声が掛かった。
振り向くと、明らかな憔悴が見て取れる顔をしたクロノが、部屋の入り口に立っていた。

「……クロノ君、酷い顔してるね」
「君も、人の事は言えない顔をしてるぞ」
「…そっか」
「ああ…」

お互いに自嘲の笑みを浮かべる。
全力で急いだにも関わらず、間に合わなかったのだ。
義妹が、親友が死に掛けたというのに。

「それで、どうしたの? 教導隊には、暫く休むって書類も提出済みだけど?」
「ああ、それに関してなんだが、なのは」
「?」
「今回の事件、アースラが調査担当となった」
「え?」

ぱちくり、と目を瞬かせる なのは。
そんな彼女の様子に構わず、クロノは言葉を続ける。

「仮に、執務官襲撃事件という名前でも付けようか。今回の事件では、AAAクラスの魔導師が殺傷されかかる
という事態が起きている。犯人というか、対象の目的はわからないが、次元犯罪組織が絡んでいる可能性も
あると、上が判断したんだ」
「じゃあ…」
「武装教導隊 高町なのは准空尉」
「はい!」

居住まいを正したクロノにあわせ、なのはも立ち上がり、正対する。

「アースラ艦長及び執務官、クロノ=ハラオウンから、本件への協力を要請します」
「高町なのは准空尉 協力要請を了解致します」

お互いに敬礼をしながら行う儀礼的なやり取り。この時点で、武装教導隊への書類上の手続きは
申請済みである為、口頭での申し送り以上のものではないが、必要なことではあった。

「では、早速今回の事態の把握を図ろう。アースラが使えないから、第11会議室に集合だ」
「はい!」

踵を返し、部屋から退出する寸前、どちらともなく、フェイトへと視線を向ける。
蒼白な彼女の顔を見つめた後、二人は会議室へと向かう。

彼女をあんな目に合わせた相手は、必ず捕まえてみせる。
二人の意思は、一つだった。



8月9日 PM 1:28 遠見市 アパート「雑賀荘」203号室



ガチャッ

部屋の扉が開き、沙耶香が入って来るのを横目で確認したウェインは、デスクトップを構築する作業を再開した。
手馴れた様子で鞄から様々な機材を取り出しながら、見る間に『箱』を組み上げていく。
ウェインは、沙耶香が手荷物の整理をしている間に、組み上げた『箱』の動作確認を終えていた。

《相変わらず、その手のことは得意じゃの。お主は》

沙耶香の肩に乗りながら、月晶姫の分体たる少女が、呆れたように呟く

彼らがこのアパートに居を置いたのは、サンダルフォンから引き出した情報から、ポテンティアテス一体の足取りを掴む
きっかけを得た事と、そいつが向かった先が、月晶姫が感知した魔力発動地点に程近い事が判明した為である。

それは同時に、『異能力者を手駒にする画策をしている』という、ウェインの予想が裏付けられたという事でもあった。

「さてと、連中が、こっちに向かったという情報は、一昨日にレリエルが居た事で裏付け取れた。『けれど』、と」
《実際、どこで何をするつもりなのやら……ターゲットを絞り込めれば楽なのだがの》
「『元の世界』でなら、現地の妖怪ネットワーク*1)で情報収集できたんだけれど……元気かな、みんな」

少し遠い目をする沙耶香。
『元の世界』での日々。家族の笑顔、友人達との語らい。
妖怪が起こす事件の解決に飛び回る中、パートナーたる月晶姫との出会いもあった。
そして『神』との最終決戦の最中、『この世界』へと飛ばされた自分。
思い返せば、なんともはや凄まじくも密度の濃い毎日を送っているものだ。

《……妾としても、この場所に又来る事になろうとは、思いもせなんだ》

月晶姫も同じ記憶を思い返していたのか、沙耶香と酷似した光を瞳に浮かべていたが、苦笑をしつつ
首を横に振った。

4年前の沙耶香の来日の理由。
『この世界』の暮らしの中で、ふと「『元の世界』で』自分達が過ごしていた所を見たい」と思い立った沙耶香が、
一週間だけ滞在した日々。

そして『やはり違う世界なのだ』と思い知らされる事件に遭遇した1週間だった。
原因はそれだけではなかろうが、以降、沙耶香の口から日本の事が語られることは無くなっていた。
……何の因果か、再び来日する羽目になったが。

《ここの土地ならば、妖怪ネットワーク『藤代』があったのだがの。さすがに存在しておらなんだが》
「吸血種の一族が中心の広域ネットワークだったわよね」
《うむ。沙耶香の父上殿も世話になったと、姉上から聞いたことがあったが》
「その『キュウケツシュ』ってなんだい?」

沙耶香達の会話に、『?』を浮かべるウェインに、苦笑を浮かべた沙耶香が説明をした。

『吸血種』とは、他の生き物から体液を摂取するもの達の総称である。
妖怪であれば、有名どころの『吸血鬼・ドラキュラ』や『呪われた柳』『血桜』といった植物系の妖怪。
また、先祖が吸血種であった為、遺伝的にその体質を受け継いでしまった人も含まれる。
人型の場合(純潔の妖怪ならば)、『ドラキュラ』に類する能力と弱点をもつものが多く、ハーフ以降の
場合は格段に能力が落ちる代わりに、そういう弱点を持たない者もいる、とも。

「へぇ〜。でもさ、そういうのってやっぱりヨーロッパが本場じゃない?」
「まあ、そうでしょうね。トランシルヴァニアには吸血鬼の本国である隠れ里*2)もあるっていうし」
《じゃが、人間でありながら先祖の妖怪の血と力に目覚めてしまった者ならば、違う土地に暮らしておる
場合もあるであろ?そういう場合の保護も、ネットワークの役割であったからの》
「ふ〜ん……で、何でこんな話になったんだっけ?」
《お主が質問してきたからであろ! その頭は飾りか!? 脳みそはスポンジか!?》
「ヒメ、怒りっぽいのはカルシウム不足?」
《妾にカルシウムなぞ要るわけなかろうが!》
「好き嫌いは良くないな……」
《この大馬鹿者ぉぉぉ!》

じゃれる二人に溜息を一つ。

「はい、そこまで」

二人の間に割って入った沙耶香は、双方をジロリと睨んだ。

「時間も無いんだから、遊んでいないで調査に出かけるわよ。ウェイン、本国(ステイツ)の皆とも連絡を取って
 メタトロンの動きを追って。私と姫は、ウェインが携帯の履歴から当たりを付けた場所探ってくるから。
 もし、そこに連中がいたなら連絡入れるわ」
「了解、了解」
《あい解った》



8月9日 PM 2:40 海鳴市 ホテル「ベイシティ」 316号室



「ふむ……捗々しくありませんね。ここ5年での調査がこの程度ですか?」
「申し訳ありません」

テーブルの上に広げられた資料に目を通し、傍控える男に、蔑みの言葉を掛ける外人男性。
資料に書かれている内容は、いわゆる『裏側』に属する資料であり、かなり踏み込んだ内容も記載されていた。

しかし、外人には不満のようで、舌打ちをした後、手にした書類をテーブルに放り投げる。

「よいですか?現状は、まだまだ予断を許さないのです。神の軍団を再興する為に必要な様々な案件は、未だ形にも
ならないものも多く、更には同胞が滅ぼされる事件まで起きています。悠長なことは言っておれないのです」
「し、しかし『Mr.P』 あまり強引に動けば、その『敵』にも嗅ぎつけられる事に……」
「ふん。それならばそれでよいのです。弱体化した同胞を滅ぼした事にいい気になっているのなら、この私と相対した時に、
『絶望』という言葉を学ばせてあげられますから」

酷薄な笑みを浮かべる『Mr.P』と呼ばれた外人。
彼の雰囲気に圧倒された男の身体は恐怖で震え始め、冷や汗が背筋を伝う。
そんな男の様子には全く頓着せず、外人は部屋の窓へと瞳を向けて外を見つめた。

彼は、己の視線が向かう蒼穹の空に『エデン*3)』の威容を幻視する。
『敵』を打ち倒す光景を思い浮かべ嗜虐的な笑みを浮かべていた顔が、徐々に敬虔な喜びに満ちた表情へと移ってゆく。
『神』を想う心という物が、外人にとって、如何に絶対的なものなのか、その様子を伺えば一目瞭然であった。
しばしの時が流れ、視線を男性へと戻した外人は、改めて指示を出す。

「……さて、いつまでもこうしてはいられません。ピックアップした者に接触を取り、可能ならば『入手』しなさい」
「ははっ!」
「いかなる工作も許可しますが、不必要な目撃者は出さぬよう、『適切に処理』を。よろしいですね?」

外人の言葉に、深々と頷いた男は踵を返し部屋から出て行った。
部屋に残った男は、改めて資料に目を通してゆく。

それら“各種諜報組織のデータ”や“国立研究所”と銘打たれた資料。部外秘と大きく書かれたものも在る。
一体どのくらいのコネクションがあれば、ここまでの資料を入手出来るのか……。
外人は、ページを括りながら、思考する。
 
(現段階の“ヘヴン”は、特殊能力者以外への投与では、大した効果は無いようですね)
 
 
『眷属化』に必要な因子を取り込ませた場合、その血に妖怪の因子を持つ対象の方が効果は高いというデータは、
ザ・ビースト*3)の研究で明らかだった。それを踏襲する形で研究を進めた以上、只の人間に投与した所で、
高い効果は望むべくも無いのだ。

先日、レリエルが滅ぼされた為に、日本での活動が非常に制限されてしまっている。
電話に出た『P』へ内容を伝える前に、何者かに殺されるとは……。
敵は足元まで迫っていると見るべきだろう。
そいつに対応する為にも、強力な眷属を任意に生み出すこの計画は、なんとしても成功させねばならないのだ。


(強過ぎず弱過ぎず……手ごろな駒にする為にも、似た形質を持つ対象を手に入れたいものです)



8月7日 PM 6:55 海鳴市 ホテル「ベイシティ」周辺



それを捕えたのは僥倖だった。
月晶姫の妖力探査範囲内を僅かに掠めた妖力。
ウェインが当りを付けた場所を見て廻っていた沙耶香達は、ホテル内部に妖力をもつ相手を確認したのだ。

(まさか、こんなに堂々と居るとは思わなかったわ)
(《ふん。妾たちにとっては好都合。ここは一気に攻めるべきであろ!》)
(そうね)
 
沙耶香は頷くと、ウェインへと意識を繋ぐ。
 
(ウェイン)
(沙耶香? 見つけたの?)
(ええ。ウェインの云った所がビンゴ。これから突入するわ)
(了解。 フォローにいくよ)
(お願いね)

ウェインとのリンクを絶つと同時に月晶姫の柄を握る。 

(《いくぞ、沙耶香!》)
(ええ!)
 
鞘から引き抜かれた月晶姫が、淡く輝きを放つ。
月からこぼれる光彩に似た、儚いまたたき。
 
(《人払いの結界に重ねて、位相結界も構築する!相克と対術防御は行えなくなる事を忘れるでないぞ》)
(おっけ!)
 
月晶姫の結界展開に併せて、茂みから飛び出した沙耶香は、人通りの途絶えたホテルへと疾走した。

「『餓竜覚醒』」
 
沙耶香の呟きと共に、肢体が白き鱗に覆われ、髪は紅蓮の色を佩び、瞳孔が縦に裂けつつ真紅に輝きだす瞳。
異形の力を現出させた女は、ホテルの一室へと強襲をかけていった。
 
 
*       *       *       *       *

「空間歪曲、確認しました!」
「よし。 いくぞ!」
「うん!」
 
黒き衣の青年と、白き衣の少女が空へと駆け上がってゆく。
 
 
*       *       *       *       *

 
ゴゥッ!
 
壁が弾け飛び、外へと破片が落ちてゆく。
海鳴で一・二を争う高級ホテルは、見るも無残な様相を呈していた。
破砕された窓ガラス。
吹き飛ぶ配管、折れた支柱。
いくつも穿たれ、なお増えてゆく壁の穴。
 
この様を写真に撮って見せたとしたら、100人中100人が『どこかの紛争地域ですか?』と答えるであろう事
請け合いの惨状である。
 
破砕口の一つから飛び出してくるいくつかの影。
夜空に舞い上がった其れらは、白き翼を背に、おのれ等が飛び出してきた破砕口を憎憎しげに見つめていた。
 
「おのれ、カラミティ。 まさか、貴様がこの世界に来て居ようとは、思いもしませんでしたよ」
「はっ。私だって、あんた達がコッチに存在してたなんて、悪夢以外の何者でもないわよ」
 
破砕口から姿を見せた沙耶香は、上空の『天使達』に向かって、忌々しげに言い放った。
 
「だからね……あんた達は消えなさい!」
 
強烈な殺気を乗せた沙耶香の声。
彼女はその声と共に、腰溜めにしていた右腕を上空に振り上げ、赤光の斬撃波を解き放つ!
 
「散りなさい!」
 
中央の天使の言葉に、周囲の者たちも回避行動を行う。
しかし、宙を疾駆した斬撃波の幾筋かは、回避し損ねた天使の羽根や手足を掠めてゆき、彼らを地へと
堕としていく。
 
「貴様!」
「次はアンタよ!」
 
『天使』の怒気に充ちた声など、どこ吹く風といった様子で、沙耶香は空へと舞い上がった。
飛翔速度では、明らかに沙耶香に分があるようで、あっさりと間合いを詰められる『天使』
 
振り上げられた沙耶香の鈎爪を、『天使』の持つ鞭が弾き、絡みつく。
『天使』は、開いた左腕で沙耶香を指し示そうとするが、沙耶香は絡んだ鞭を振りほどき、
『天使』から距離をとった。
 
(ちっ、相変わらずやっかいよね、あの力)
(《迂闊に近づくでない! 直撃を喰らったら、いくら沙耶香とはいえ、洒落では済まないであろ!》)
(わかっているわよ、姫)
(《時間を掛けずに、素早…… ッ?!》)
(どうしたの? 姫)
(《何者かが結界に侵入しおった。数は2》)
(『天使』の増援?!)
(《いや、妖力は感じぬ……これは》)
 
訝しげな月晶姫の呟きに、『天使』の動きを注意しながら周囲へと意識を配る沙耶香は、右側上空に
光を確認する。
 
徐々に近づくにつれ、詳細を見て取った沙耶香は、頭痛を感じた。
沙耶香達の上空までやってきたそれらは、金の少女が纏っていた雰囲気と酷似する『何か』を持っていた
 
(……)
(《このタイミングで来おったか》)
 
青年と少女の形を成したそれらは、沙耶香と『天使』へ向かい、凛とした声で告げた。
 
「双方とも、速やかに戦闘行為を中止してください!時空管理局戦技教導隊所属 高町なのは!」
 
その手にした金色の杖を眼下へ向けて言い放つ!

「お話を聞かせてもらいます!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白き衣の少女 黒き衣の青年
 
彼女達は 問うて来る
 
貴方たちは何者か、と
 
目的は何なのか、と
 
さあ、天使と餓竜の答えは如何に?
 
 
/Dance with a dragon Next story 「アヤカシ」






/Dance with a dragon sixth story 「アヤカシ」



8月9日 PM 6:46 海鳴市 藤見町



上空に佇むは、赤き宝玉を抱く金の杖を構えし白き少女と、蒼き水晶を組み込んだ、
白き杖を携えし黒衣の青年。

彼らが見下ろす先に居るのは、天使の如き羽翼を持ちし金髪碧眼の男性と、同じく羽翼持つ者達が
地に臥せっている姿。
そして、真白き皮翼を背に生やし、白鱗に身を包んだ女性であった。

既に戦闘が行われてしまっていたのであろう……大地に伏せる者達の中には、翼を両断された者や、袈裟懸けに
受けた切傷から噴き出した血で、辺りを染め上げている者もいる。

白い少女ーなのはは、惨状を引き起こした、そしてフェイトを害したのであろう白き女性への怒りと嫌悪感を
懸命に飲み込み、務めて冷静さを保とうとしていた。

(あの人が、フェイトちゃんを……!)

胸の内には激情が渦巻き、何かきっかけがあればあふれ出しそうだった。
フェイトを殺しかけた相手を、叩きのめしてやりたい。
彼女を傷つけた事を後悔させてやりたい。

だが、その想いとは別に、なのは本来の心根は、理由の無い行動や悪意の存在を認めていない。
PT事件のフェイトや、闇の書事件でのヴォルケンリッターの事例を出すまでもなく、
相手にも譲れない何かがあるのではないか? 事情を理解できれば、不幸な事態を招かずに
解決出来るのではないか?
常にそう想っているからこそ、事情を聞くことを優先し、相手に接するのだ。

鬩ぎ合う己の心が、視線を険しいものに変えている事を自覚しつつ、なのはは沙耶香を見つめ続けた。


対して、黒衣の青年ークロノは、義妹のフェイトを傷つけた相手に対する感情を「それはそれとして」、と
切り離して行動する事が極自然に出来る自分に、僅かに自嘲の想いがあった。
隣にいる なのはが、必死に冷静さを保とうとしている姿を横目に“もう少し精神修養がいるかな”などと
考えれる自分。
事件に付随する惨状や犯罪者が引き起こした惨劇に、一々心が引き摺られていたら、解決への
足かせにしかならない。
もちろん怒りも悲しみもある。
だが、それに囚われる事が無い様に、自分を律してきた。
元々、大した才能も無い身だ。そんな所に思考を裂いている余裕は無い。

だが、それでも……眼下に佇む女性へ向ける視線に、氷の気配が混じるのは仕方が無い事なのだろう。


激情を隠した視線と、冷気を放つ瞳。
沙耶香は、己に向けられる二つの視線を感じ取り、なんとは無しに小さく溜息を吐いた。

(《恨まれておるの》)
(当然でしょうね。私だって身内を害されたら、その相手に100倍返しするもの)
(《しかし……あの金髪の小娘と互角の魔力を持つ者と、実戦慣れをしていそうな小僧か。
 随分と人材豊富な組織を敵に廻してしまったようだの》)
(ほんと、予想外。『トンでもない世界』だったりしたみたいね、この世界は)

先日のウェインとの会話で言った己の言葉を思い出す。
『神』に喧嘩売っている自分達は、幸運とか奇跡って言葉に、如何に縁遠いか解ろうというものだ。
思わず遠くを見つめたくなる沙耶香に、月晶姫の声が掛かる。

(《どうするのだ? 眷属連中は無視できようが、それでも3対1になる可能性は否定出来ぬ》)
(……ポテンティアテスのヤツだけは何とかしたい所だけど、上の二人が邪魔してくる事を考えると、厳しいわね)
(《戦闘中に邪魔なぞされてみよ、元素変換能力の直撃を喰らいかねん》)
(ま、なんとかしてみるしかないわね。あの似非天使が妙なことする前に)

沙耶香の視線の向いた先で、『天使』−ポテンティアテスは、なのは達に向けて何事か、言葉を発しようしていた。


(このような人間がいようとは……リストアップしていた者達より、いい手駒に成ってくれそうです)

上空で佇む なのは達を見つめ、内心で“二マリ”と哂う。
女などという汚らわしい存在と、十代後半の青年だ。
所詮、両者ともエデンに招き入れるには値しない存在。

ならば、精々、我々の役に立ってもらおうではないか。


「『我らは神の使徒たる天使。 そこにいる、汚らわしき獣と戦う、聖なる使命を佩びた存在です』」

ポテンティアテスが、声に『神霊力*1)』を乗せて、なのは達に語りかける。
全身が、淡い光に包まれたその姿は、神々しいばかりの雰囲気を放ち、敬虔なキリスト教徒であれば、
十字をきりつつ、感涙に咽ぶのではないだろうか。

だが、その光は聖なるものではない。
声に乗りし力もしかり。

妖力を乗せたそれらは、対象の精神に『神への献身』の思いを植え付け、意のままに操る、忌むべき力。


《ッ!! 沙耶香!》
「この似非天使!」

『力』の発動を感知した月晶姫が上げた声にあわせ、沙耶香がポテンティアテスに向けて斬撃波を放つ!
だが、ポテンティアテスに届く寸前、上空より飛来した青い光弾と桜色の光弾が、斬撃波を砕き散らせた。

「ちぃっ!」

忌々しそうに頭上の二人を見やる沙耶香。
白き杖の先端に青光を灯した青年と、桜色の球体を浮かべた少女。
彼らは、沙耶香の動きを咎める様に険しい顔をして、彼女を見つめていた。

「ククククッ、形勢逆転といったところですか。カラミティ*2)」
「……」
「まさかまさか、このような駒が手に入るとは想像もしていませんでした。未完成な“ヘヴン”を投与しなくとも
これだけの魔力を持つ人間が下僕になるとは」

顔を愉悦に歪ませ、嘲るように告げるポテンティアテス。
先ほどの『力』の影響を、微塵も疑っていない様子だった。
沙耶香は、そんなポテンティアテスの様を無視するように、なのは達の様子を伺う。

「……見た所、そちらも全力は発揮できない様子。ならば、ここで因縁の清算と参りましょうか!」

沙耶香の様子に気分を害しつつ、頭上のなのは達に腕を振り上げるポテンティアテス。
彼は、嗜虐の色を浮かべつつ、沙耶香を指し示し、なのは達に叫ぶ!

「さあ! この汚らわしいバケモノを倒すのです!」 



















「……盛り上がっている所すまないが。 そちらも動かないでもらえるだろうか」
「……先ほどからお話されていた内容ですが、どうも理解が及びませんでしたので、系統立てて
お話していただけると有難いのですけど」

強烈な頭痛に苛まれているかのように顔を顰めながら、杖を構えるクロノとなのは。

頭上の二人から帰ってきた声に、ポテンティアテスは呆然とし、固まった。
“驚愕”という題名の彫刻があったとしたら、その表情は、正に今のポテンティアテスそのものだろう。
ポテンティアテスが固まるのも無理は無いのかもしれない。
まさか、『人間』が妖力の影響を受けないとは思いもしなかったのだろうから。

(やっぱり精神干渉系の妖力は、内包魔力の大きさで遮断されてるみたいね)
(《そのようだの。 外部からの影響には、かなりのレベルまで抵抗できるのであろ》)

チラリ、と上空をみやれば、こめかみを押さえる青年と、プルプルと首を振る少女の姿。

(……今ね)
(《応》)

「…妖力開放」
《是》

ゴッ!

突如として高エネルギーを放出した沙耶香は、硬直していたポテンティアテスに向け、凄まじい速度で
間合いを詰める!


ゴキンッ!


響く打撃音!
凝固するポテンティアテスは弾き飛ばされ、悲鳴を上げる間も無く地面に激突した!

「なッ!?」
「えッ?!」

ポテンティアテスの妖力による影響で頭痛に苛まれていたクロノとなのはは、一瞬対応に遅れ、
気が付いたときには、沙耶香の右腕から放たれた灼焔が、地面に叩きつけられたポテンティアテスに
直撃する所だった。

爆発音が響き、衝撃波が辺りを揺らす。
地に臥していた多数の者達も、沙耶香が放った爆炎に巻き込まれ、消し炭と化していく。
舞い上がる火の粉と煙を背後に、地上の様子を無表情に見つめていた沙耶香は
徐に上空の二人へと向き直った。


なのは達へと向いたその顔には、苦悩も喜びも何も浮かんで居らず、ただ『殺した』という事実を、
淡々と捉えているようにしかみえなかった。

「……終わったわ」

呆然としていた なのはは、その言葉が自分達に向けられたのだと気付くまでに、数瞬を要した。
もし今、先ほどの動きをもって襲い掛かられたならば、対処出来るか怪しい程の動揺が なのはの身体を満たす。
身体に纏った灼光が、ゆっくりと消えてゆく沙耶香を見つめ、 なのはは混乱したまま彼女に問いかけた。

「……ここまでする必要がどこにあるんですか」


*       *       *       *       *


「……ここまでする必要がどこにあるんですか」

頭上に浮遊する少女ー高町 なのはと言ったかーが、どこか呆然とした表情で言葉を掛けてきた。

「殺し殺される間柄なのでね。至極当然の結末」

妥協なぞ、どこにもありえないのだと意味を込めて返事をしつつ、沙耶香は月晶姫へと小声で疑問をぶつけた。

(で、姫。なんでこの娘達に補足されたわけ? 位相結界*3)、張ってたでしょ?)
(《張っておった。 だからの、何故ここに現れたのか皆目見当がつかん》)
(人払いの結界だけなら、魔力量がそのまま精神防壁になってるっぽいから、わからなくも無いんだけど)
(《……気に喰わん》)
 
憮然として答える月晶姫。
実際、彼女はクロノ達がこの場所に来られた理由が解らなかった。
人払いの結界と、位相結界。
双方を展開していたというのに……
 
(この間の娘といい……なんなのよ、この魔力量……実はやっぱり妖怪じゃないでしょうね)
 
沙耶香が改めて なのはを見る。
彼女達の中には物体が発する“オーラ”を感知できる者がおり、沙耶香にも視覚でオーラを判別できる能力が
備わっている。
だが、彼女がいくら目を凝らして見ようとも、なのはの発する“オーラ”は人間の物にしか見えなかった。
 
(《沙耶香。この小娘は、お主の炎を止め、あれだけの戦いを見せた娘の仲間ぞ? ただの人では無いであろ》)
(それはそうでしょうけど)
気が抜けたような溜息を付いた後、沙耶香は なのは達へと問いかけた。

「で? 貴女達はどうしたいのかしら?」
 
 
*       *       *       *       *


「で? 貴女達はどうしたいのかしら?」

しばし無言でいた女性が、ひとつ溜息を吐いた後に、そう語りかけてきた。
泰然と佇むその身からは、殺気の類は感じ取れず、尋ねられた側の なのはは戸惑うしかなかった。

今の様子だけを見れば、あれだけ残酷な事を躊躇無く平然と行った人には見えない。
気が付けば、変質していた右腕も普通の人の腕となんら変わらぬ形になっている。
 
「先に言っておくけど、金髪の娘を倒した事は、謝らないから。私の目的を果たす邪魔をしたから
排除しただけで、個人的な怨恨は無いので、そこは誤解しないで」
「……解った。では改めて問おう。貴女の目的とは?」
 
クロノの問いに、沙耶香は眼下を指し示した。
 
「さっき吹き飛ばした連中の掃討。対象はあの連中だけだから、普通の人間には被害が出ないように
してるわよ」
「……この奇妙な結界は、その為のものなのか」
《小僧?! 奇妙とは何じゃ! 奇妙とは!》
 
クロノの言葉に反発し、沙耶香が左手に握る月晶姫が声を上げる!
更には分体を現出させ、沙耶香の肩の上からクロノに指を突きつけた!
 
《これでも1000年規模の宝剣ぞ! 妾の50分の1も生きておらんような小僧に、
とやかく言われる筋合いは無いわ!》
「……姫(溜息)」
 
大憤慨中の月晶姫を眺め、思わず額を押さえる沙耶香。
なにか、色々台無しになった気分に囚われている彼女である。
 
「……デバイス?」
「……リインフォースちゃんみたい」
 
クロノとなのはは、月晶姫の分体を見て、呆然として呟いた。
まさか先年誕生したばかりのリインフォースIIの如き存在を目の当たりにするとは思わなかったのだ。
 
「まさか、ユニゾンデバイス……なのか?」
「は? なにそれ?」
 
クロノの問いに、今度は沙耶香がキョトンとした。
彼女の知識の中に“ゆにぞんでばいす”なる物は存在していないのだから、当たり前なのだが。
 
(なんにしろ、これ以上邪魔されない為には、多少の情報提供をしないと、駄目かしらね)
(《妾は賛同できぬがの。 後々厄介な事にしかならぬのは、目に見えておる》)
(それはそう…わかってるけど、もしこの娘達が敵に廻ったら、厄介じゃすまなそうだし。今回は助かったけど、
 天使連中に取り込まれるのは、もっと駄目でしょうが)
(《……確かに、の》)
(向こうには、まだ例の『薬』があるし)
(《……云いたくは無いのだがのぅ》) 
(私だって、邪魔してくるのが、金髪の娘だけなら言う気無かったわよ。でも、こうも次から次にこられちゃ)
(《………仕方がない…いうか》)
 
「……そこで妄言を吐いていたのが『天使』って幻想で生まれた妖怪。で、私は妖怪と人とのクウォーター」
「…何?」
「…え?」

突然、訳の解らない話をし出した沙耶香に、怪訝そうな顔を向けるクロノとなのは。
沙耶香は溜息を付きつつ、燃えているポテンティアテスを“チラリ”と睨み、クロノ達に向き直る。

「私もそいつも『人』じゃないの。 そいつらが自分達の勢力拡大の為に色々やってくれてるから、
迷惑を被った私が駆逐してるというわけ。お判り?」
「ちょ、ちょっとまってくれ!  『人』じゃない、だと?」
「言ったでしょ。『妖怪』だって」
「よ、ようかいさん??」
「なのは? 『ヨウカイ』を知っているのか?」
「ふぇ?! え、ええと…」

突然の展開に、先ほどまでの葛藤はどこかにいったのか、素の状態に戻ったなのはが、
“あわあわ”としながら、たどたどしく説明しようとした時、眼下のポテンティアテスが、ゆっくりと身を起こした。

焼け焦げた全身から光が溢れる。
燐光が集束し、爛れた体が急速に癒されていくと共に、その身を黄金の鎧が覆ってゆく。
右手に携えた鞭に紫電が走り、振るった軌道に沿って流れた光が、地面を抉り砕いた。

「へぇ……まだ生きてたの。随分しぶといじゃない、似非天使」
「……ここまで私をコケにして、楽に死ねると思わないことです」

沙耶香達へ、怒りに歪みきった顔を向けるポテンティアテス。

「な、なんてヤツだ」
「……うそ、あんな怪我が、あっという間に」

ポテンティアテスの高速再生を見て、呆然とするクロノ達。
まるで『闇の書の闇』たる、防衛プログラムの再生を見ているかのようだった。

「カラミティよ、そして私の矜持に泥を塗ってくれた人間よ……死になさい!

『神霊力』を最大開放したポテンティアテスは、上空に向かい鞭を打ち放った!
金色に染まった鞭は、沙耶香・なのは・クロノの三者を一気になぎ払う軌道を描き、
視認すら許さぬ速度で迫り行く!


「ッ!」
「このっ!」

クロノと沙耶香は一気に後退し間合いから外れるが、なのはの動きが一瞬固まる。

バルディッシュのデータを見た。
アルフからも話は聞いた。

だから、レイジングハートが相手を認識出来ないのは解っていたはずだった。
しかし、瞬時に迫った鞭に対して、無意識にレイジングハートの自立防御を期待してしまった。
アクセルフィンでの緊急回避。
プロテクションの自動起動。

だが、「サヤカ」という女性だけではなく、あの『天使』までレイジングハートが認識出来ないなんて!
迫り来る攻撃も、見えなければ防ぎようが無い!

「ッ! レイジングハート!!」
《…プロテクション・パワード》

なのはの声より、一瞬遅れて展開される防御フィールド。
その表面に触れ、閃光を発した鞭は、そのままフィールドを取り巻くように絡みつき、ますます閃光を強めていく!

「くっ!? ううううううっ!」

感じたことのない圧力。
ヴィータに砕かれた後、プロテクション・パワードへと強化されて以来、幾多の攻撃を防いできた
なのはの堅固な防護フィールド。

だが、この不快感はなんなのだ?!
閃光を浴びているだけで、体の芯から悪寒が湧き出し、力が抜けてゆく感覚。
レイジングハートを握る手も痺れ始め、相棒たるデバイスが、酷く……重い。

「れ、レイジングハート!」
《…バリア……バー……》

なのはの声に、バリアバーストを行使しようとしたレイジングハートの電子音声にノイズが混じる。
まるでヴィータとの初戦闘で砕かれた時のようなレイジングハートの声に、
苦痛を堪え相棒を見た なのはは愕然とした。

レイジングハートのフレーム全体に、微細なヒビが入りだし、サラサラと白い粉が舞い落ちていくではないか!

「レイジングハート!!?」

なのはの悲鳴がフィールドを通してクロノと沙耶香の耳に響いた!


「なのは!」
「離れなさい!」

間合いを外れたクロノと沙耶香の声が重なる。
デュランダルから放たれた光弾は鞭へと向かい、沙耶香が放った斬撃波は、ポテンティアテスを断ち切る軌道で
襲い掛かった!

ポテンティアテスの鞭へと向かうは[スティンガーレイ]
クロノが得意とする射撃魔法。
S2Uを使用していた時のものに比べて、更に弾速が向上させた光弾は、フィールドに絡みつく鞭へと
一点に集中して着弾し、鞭をはじけさせた!

沙耶香の放った斬撃波は、斜め上から鞭を切り裂き、そのままポテンティアテスに向かって襲い掛かる。
その斬撃波を身を引いてかわしたポテンティアテスは、短くなった鞭を引き戻し、間合いをあけると
忌々しげに舌打ちをした。

「ええい! 邪魔を!」


「なのは、無事か?!」
「クロノ…くん、レイジングハート…が」
「ッ!」

身体を苛む悪寒をも上回る衝撃に、蒼白になった なのは。
彼女の手にするレイジングハートは、全体に走る微細なヒビから白い粉を零し、沈黙しかかっていた。
コアユニットである紅玉部分も、くすんだ色合いとなり、力なく明滅するばかりだ。
クロノは、フレームから零れる粉に手を伸ばし、触れてみる。
“ジャリッ”とした手触り。
覚えがある感触だ。

“塩”

レイジングハートのフレームから零れるものは、塩だった。

「なんだ、これは……」

「元素変換」
「何?」

レイジングハートの様子を見、訝しげに眉を潜めたクロノへと、背後から声が掛かる。
振り向いたクロノは、ポテンティアテスへと視線を向けたまま、自分達を庇うかの様に浮遊する
沙耶香の横顔に視線を合わせた。

「元素変換。あの似非天使が持っている力の一つよ。対象の元素を自由に組み替える事の出来る能力。
その気になれば、人なんて10秒もかけずに塩やガラスの塊に変えれるわよ」
「なんだって……」
「その杖も影響を受けたみたいね。でも、私としては、あれだけ変換光を浴びてるのに『気持ち悪い』程度で
 済んでる、その娘の方が信じられないんだけど」

目の前の女性が告げた内容は、驚愕どころの話ではなかった。
魔法というものは、物理・数学的に構成するプログラム上においての作用のことでしかない。
金属を劣化させることは可能だし、逆に魔力をコーティングすることで強度を引き上げる事もできる。
だが、金属を別な金属にすることも、ましてや、全く別な物質に変換するなど、出来るわけがない!

しかし、レイジングハートは実際に、フレームの構成物質を“塩”に変換されてしまっている。
己の常識というものを、疑いたくなってしまう事態だった。

「なんなんだ、一体……」
「だから云ったでしょ、『妖怪』だって」

どこか無機質な声で沙耶香が告げる。
『ヨウカイ』というものがなんなのかは、まだ解らないが、少なくとも人にあらざる『力』をもつ存在であることは
確かなようだ。

(何かのロストロギアで生み出された、魔導生物の類なのかもしれないな。それともロストロギアを
埋め込まれでもしたか)

クロノは、己の持つ知識の中で納得出来そうな答えを導き出すと、この事は一旦保留する。
何しろ、天使と名乗りレイジングハートをボロボロにしてくれた存在は、今だ健在なのだから!


ポテンティアテスは、沙耶香達が会話を交わしている間に、妖力を全開にし終えていた。
全身を覆う金の鎧、背部の羽翼にも覆いかぶさる様に装甲が施される。
携える鞭はクロノに破壊された箇所が修復され、流れる光も光度を増していた。

「ククク、殺してあげますよカラミティ。それに忌々しい人間も!」
「……ぶち切れている所恐縮だけど。アンタ、手駒増やせってメタトロンに言われてるんじゃないの?」
(『メタトロン』?)

ポテンティアテスの様子を、呆れ返ったように見つめた沙耶香が発した言葉『メタトロン』
クロノは訝しげに眉を潜めるが、そんな彼に構わず、天使は沙耶香に向かい言葉を紡いでゆく。

「貴女を殺してから、ゆっくりと探すことにしますよ。もう、候補は挙がっておりますし」
「大きく出たわね」
「全力を出せない貴女なら、私でも十分殺せます」

端正な顔を禍々しく歪め、鞭の光度を更に上げるポテンティアテス。

その鞭は

滅びの光を纏いつつ

沙耶香とクロノを滅ぼさんと

空を切り裂き放たれた!
























天使 妖怪 異形の力

凌ぎを削るは 魔力と妖力

天使の光か 餓竜の焔か

アヤカシが舞う 戦場で

青年は 蒼き氷嵐を 撃ち放つ



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8月9日 PM 6:56 海鳴市 藤見町



縦横に振るわれる金色の鞭。
人の身で振るわれる鞭の長さは『ブルウィップ』でも精々8m程だが、ポテンティアテスが振るう黄金色の鞭は、
シグナムが振るうレヴァンティン・シュランゲフォルムの如く空を駆け、クロノと沙耶香の回避空間を削り取る。

「絡みつかれたら終わるわよ! 避けなさい!」
「無茶を言ってくれる!」

沙耶香は、右手に妖力を集束させて鞭を弾きつつ、クロノへと声を掛けた。
その指示に、クロノは宙を蹴りつけ上空へと身体を逃がす。
だが、やり過ごした鞭は蛇のように撓むと、追尾機能をもつ魔力弾の如く、再度クロノに襲い掛かってきた。
物理的にありえない軌道とスピード。
ポテンティアテスが特別に鞭の扱いが優れているというより、振るう鞭自体が特殊な能力をもっていると
考えたほうが良さそうだった。

「やっかいなだな!」

己の背後から強襲してくる鞭を、ギリギリまで引き付け、一気に左に回避。
鞭が風を切り裂き目の前を通り過ぎる瞬間、腰の位置で開いた手のひらに魔力光を灯すクロノ。

一瞬の遅滞も無く放たれたスティンガーレイが鞭の一点に叩き込まれ、そこから千切れた金色の鞭は
明後日の方向へと吹き飛んでいく。

デュランダルを使用し始めたクロノが、己の使用魔法をS2Uから移す際、
処理能力に余裕のあるデュランダル用に再構築したいくつかの魔法。
このスティンガーレイも、その内の一つ。
弾速と貫通性能が強化され、目標地点への集束機能が付加されたこれは、
もう別な魔法といっても良いかも知れない。

蒼い、針の如き鋭い魔力弾が鞭を弾いたと同時に、クロノは背後のなのはへと念話を繋いだ。

((なのは! 下がるんだ!))
((でも、クロノくん……))
((レイジングハートがそんな状態で何が出来る! 第一、君自身ダメージを受けている状態だ、
無理をするな!))
((……ごめん、くろのくん))
((君まで怪我をしたら、フェイトが起きた時に何をいわれるか解らないからな。))

念話で軽口を返しつつ、再び迫り来た鞭を見据える。
左右からの挟撃。
ちぎれた箇所から再生したのか、二股に分かれた其れは右上と左下からクロノを襲った。

(右が疾いか!)

僅かな速度差を見て取ったクロノは、あろう事か、疾く迫る側に向かい身体を飛ばす。
一瞬にして間合いを詰めてきた鞭。
叩きつけられてくるそれへと右手を差し出し、クロノはラウンドシールドを展開した。

防ぐ? だが、片方を止めても、左下から迫る物はどうする気なのか?
第一、なのはのプロテクション・パワードでも遮断できなかった鞭を、通常のラウンドシールドで防ぐつもりなのか?

しかし、クロノは迫り来る鞭に、只、正対したわけではなかった。
ラウンドシールドの展開面に鞭が叩きつけられた瞬間、ラウンドシールドが『動く』

いや、正確には『ラウンドシールドの展開面が、クロノの腕の動きに併せ傾斜』したのだ。

傾斜の付いたラウンドシールドの展開面を、滑るようにズレていく鞭。
その様は、騎士が盾を操り剣を受け流すが如く。
クロノの身体を捕えられず背後へと抜けていった鞭は、左下からクロノを捕えんと迫っていた
もう片方の一本の鞭と衝突し、絡み合いながら方向を違えて行った。

それを一瞬眺め、クロノは右腕に持つデュランダルを一閃する。

「[スティンガースナイプ]」

放たれたのは、彗星の如く蒼い尾を引く魔力弾。
空間を蹂躙する金色の鞭の嵐の中を、蒼の魔弾は駆け抜ける。
正面に迫る鞭を、右に急加速し回避したかと思うと今度は左にクイックし、下方の僅かな隙間へ滑り込む。
クロノの思念で縦横無尽に疾る蒼き流星は、黄金の嵐を掻い潜り、ポテンティアテスへと向かって往く。

「うぬ!?」

『結界』を駆け抜け飛翔してきた魔弾に、驚きの表情を浮かべるポテンティアテス。
だが、まだ魔弾とは距離がある。魔弾の進路に向け、鞭の一部を撓ませ壁とするなど造作も無い……

「[スナイプショット!]」

青年の声が響いた。
その途端、蒼の魔弾は、己が発する光すら置き去りにする程の加速をもってポテンティアテスに到達!
鞭を持つ右手首に着弾し、弾け飛んだ。

「…貴様」

声を上げるポテンティアテス。
彼の右手首を襲った魔弾。
しかし、それが齎した衝撃は微々たる物で、僅かな痺れも直ぐに消えた。

憎憎しげに己を睨むポテンティアテスを無表情に見返すクロノ。
ピンポイントで手首に当てたというのに、鞭を離さないとは……。

「効いていない……か」
「精神ダメージを与えてるくらいじゃ、無力化なんて出来ないわよ」

そんな彼に、右手側から沙耶香の声が掛かる。
クロノが“ちらり”、と彼女を見やると、右の翼の翼端が白色に染まって崩れていた。
かなり大きな翼を展開している沙耶香が、あれだけの鞭の嵐を回避するのは困難なのだろう。

崩れきった翼端は、見る間に再生していったが。

「……そちらも随分と丈夫だな」
「そうね。 お陰で死ぬような目にあっても、しぶとく生き延びてるけれどね」

軽く肩を竦めて答える沙耶香。
鞭の『結界』を展開し、こちらに叩き付けてくるポテンティアテスから視線を逸らさず、
彼女はクロノへと言を重ねる。

「あの金髪の娘もそうだけど、貴方達って攻撃を精神ダメージに変換してるみたいね」
「非殺傷設定のことか?」
「『非殺傷設定』?」
「魔法を純粋魔力攻撃に変換した場合の事だ」
「器用だわね……多分だけど、それだと殆ど通用しないわよ」
「なに?」

怪訝そうなクロノの声に、沙耶香は溜息を付きながら答えを返す。

「金髪の娘から一撃もらっても、大したことの無かった私より更に防御高いもの……今のアレはね」

忌々しそうにポテンティアテスを睨みつけつつ、告げてきた沙耶香の言葉に、クロノは強い眩暈を感じた。
アルフの報告にあったことが、本人の口から事実として告げられたのだ。

(スプライトザンバーの直撃でも「大したことない」だと? どういう防御しているんだ!?)

確かにフェイトも非殺傷設定で攻撃していた。バルディッシュの記録からもそれは明らかだ。
だが、結界破壊効果があり、雷撃ダメージは別個に入るあの斬撃を直撃されて……しかも、あの『天使』は
更に強力だというのか!?

「あの鎧、妖力の結晶体みたいなものでね。 外部からの影響を遮断する効果があるわ」
《アヤツであれば、そうさな………先ほどのお主の技で100発程度は楽に凌ぐであろうの》
「精神攻撃に近い『非殺傷設定』とやらは、効果減衰が著しいでしょうね。 結構な硬度あるけれど、
攻めるなら物理的に影響を与える方が効果あるわよ」
「どこまで出鱈目なんだ……」

『この世は、「こんなはずじゃなかった」事ばかりだ』という、己の言葉が虚しく心に響く。
なのはの魔力の出鱈目さを見たときよりも、遥かに強烈な脱力感。
勘弁してくれ。
襲い来る鞭を凌ぎながら、そんな思いが脳裏を走る。

「まあ、対魔防御も、理の違う貴方達の魔法に100%働いているかは解らないけれど」
《それにしても……殆ど『減衰』しておらなんだとは……誤算であったの》

沙耶香達の言葉に含まれた『理の違う』『減衰』という内容に眉を潜めるクロノだったが、
そこに“隙あり”とばかりに、更に速度をあげて襲ってくる黄金鞭。

左右に弾けるクロノと沙耶香へ追いすがり、空を汚す穢れた金色の嵐。
滅びの光を放つ濁流は、ますます猛り狂っていった。


*       *       *       *       *


なのはは、待機状態に戻したレイジングハートを胸に、上空で舞う二人を見上げた。
鞭が身体に触れる寸前に、逸らし弾くクロノ。
強引に薙ぎ払い、吹き飛ばす沙耶香。

対照的な双方の動きを見ながら、レイジングハートをそっと握り締める。
 
「レイジングハート、大丈夫?」
《……問題…ありま……せん》
 
ノイズの走るレイジングハートの声。
なのはの瞳に悲しみの色が浮かぶ。
ヴィータとの初戦で大破した時のようなパートナーの様子が、心に……痛い。
 
「ごめんね、レイジングハート……わたしがちゃんと回避してたら」
《……マスターが……気にされ……必要あ…ません》
「レイジングハート…」
《私……大丈……か…ら》

機体の損傷も無視し、マスターを励ますレイジングハートの様子に、目じりに浮かぶ涙を堪えるなのは。

『なのはちゃん!』
「エイミィさん」
 
なのはに、海鳴での本部であるハラオウン邸から通信を繋いだエイミィの声がかかる。
闇の書事件で設置した機材は、依然としてそのまま設置されている為、簡単な調整で機能を使用できる。

『転送準備出来たよ! 今、跳躍とばすから、その場で動かないでね』
「…わかりました」
 
躊躇はある。
戦っているクロノを置いていくのはイヤだ。
あの女性から、ちゃんと話を聞きたい。
だが、今この状態の自分がここに居ても、どうしようもない。
それに一刻も早く、レイジングハートを整備班に見てもらわなければならない。
 
         と ば
『じゃあ、跳躍すね』

なのはの足元に展開されるミッドチルダ魔法陣。
光で編まれたそれが、一際強い光を放つと転送が完了する。
 
転送前に、なのはがもう一度上空を見上げた時

突然、視界が反転した。
横凪の一撃が なのはのバリアジャケットを強かに打ち据え、彼女は民家のコンクリート壁に叩きつけられる。 

「きゃあああああ!」
『なのはちゃん!?』
《…マス……ター》

転送陣が消失し、エイミィとレイジングハートの声がなのはの耳に届く。
 
「う…うう」
 
バリアジャケットが、激突の衝撃をかなり抑えてはくれたが、先ほどの『光』によるダメージがあるのか、
酷く体が重い。
 
僅かに眩んだ視界の中を、自分に接近してくる『ナニカ』
コンクリート片を零しながら立ち上がった なのはの目に映ったのは
 
半身を焼け焦がし、白い翼を真っ赤に染めた『天使』の姿。

沙耶香が“眷属”と呼んだ者たちの生き残りが、なのはに襲い掛かろうとしていた。
 
 
*       *       *       *       *


器用に鞭を回避するクロノを横目に、沙耶香は内心、かなりの焦燥を覚えていた。
月晶姫は『減衰』していないと言っていたが、それどころか強力になっているように思える。
現に、別なポテンティアテスを駆逐した時、そいつは高速再生も鞭への元素変換付与も
出来なかったのだから。

(こいつ、なんだってこんなに……)
(《自分自身に『薬』でも盛ったか、メタトロンめが何かした、そのどちらか……又は両方であろうの》)
(余計な事をしてくれるわ! ホント!)

上下左右から迫る鞭を身を捻って回避する。

「このっ!」

己を囲むように展開する鞭。
斬撃波を放ちつつ、動きの乱れた鞭の隙間を抜ける沙耶香。
その彼女を追い、再び檻を形成しようとする鞭達は、螺旋を描くように迫り、追いすがる。

「破ッ!」

寄り集まった鞭に向け灼焔を放ち、焼き尽くす。
だが、鞭が消えた空間を埋めるように、左右から新たな鞭が襲い来る。
檻が崩せない。

ポテンティアテスへと向かいたいのに、鞭が進路を塞ぎ、自分に絡み付こうと踊り狂う。
焦燥感が、じわじわと己の心に染み出そうとしていた。

(くぅ!! 近づけない!)
(《沙耶香、焦るでない! 結界の維持を放棄せねば、『相剋』も『破術』も出来ぬのだ!解除を…》)
(今更解除するなんて出来ないでしょ! あの子に余分な情報を与えたくはないわよ!)

沙耶香は鞭を回避しながら、クロノの様子を伺った。
先ほどのように円状の障壁を使い、巧みに鞭の軌道を逸らしたかと思えば、手から放った光の鎖で
鞭同士を絡みとり、他の鞭にぶつける。
時には光の粒を放ち、単体の鞭を弾き飛ばす。

(巧いわね……鞭に触れるのを最小限に抑えているわ)
(《あの小僧、ソツの無さは勇樹並みだの》)
(性格も近いかもね)

クロノの立ち回りに、別れた家族を思い出す。
あの弟の苦労性は、少しは改善されたのだろうか……

(沙耶香!)
(ウェイン?)

脳裏によぎった過去の光景。
その映像に僅かに心を囚われかけた沙耶香を叱咤するかのように、ウェインから思念が繋がれる。

(もう直ぐホテルに付くけど、状況は!?)
(最悪)
(え?)
(例の女の子のお友達出現)
(……あちゃぁ)
(で、ポテンティアテスと戦闘中。アレが馬鹿やってくれたお陰で、なんとなく共闘してる感じだけど)
(なら、僕が介入してどうなる感じでもないか)
(ん。 ウェインは、眷属の潰し残しが無いか確認して)
(了解)

ウェインとの念話を終わらせ、何とはなしに彼の来る方向に視線を向けた沙耶香。

「鈍りましたね、カラミティ!」

その一瞬の気逸を見逃さず、ポテンティアテスの鞭が、瀑布の如き勢いで沙耶香に叩きつけられた!

「ッ! 妖力開放!
《是!》

灼光を放ち、鞭の流れから身を逸らす沙耶香!
底上げした反射と体捌きをもって、鞭を弾き、回避し、叩き落とす!
しかし、寄り集い、爆流となった鞭達は、弾かれた先から本流へと戻り、沙耶香の周囲に纏わり付く。

振り切った右腕を戻し、真下から迫る鞭を避け、左腕に絡み付こうとする鞭を、月晶姫の柄で叩き落す。
下方の鞭を右腕から放った灼焔で弾き飛ばし、逃れた沙耶香。

だがその時、背後から3つの鞭が襲い掛かっていた!

強襲を受けた沙耶香は、半回転しつつ右手から斬撃波を放ち斬り飛ばす。

1つ

胴に絡み付こうとしたものを、左手の月晶姫を振るい、弾き飛ばす。

2つ

だが、もう一つ襲い来た鞭は、沙耶香の肩口を通り過ぎ、右の翼へと絡みついた。

「しまっ!?」
《沙耶香!》

鞭に絡み付かれた箇所を襲う極寒の気配。
翼は、まさに『あっという間』に真白く染まり、侵食は翼の付け根から背中に及ぼうとする!
沙耶香は、強引に身を捻り、鞭が絡んだ翼を砕き散らしながら、逃れた!

『ボシュッ』っと異音を放ち崩れ落ちる右翼。
苦痛を喉で殺しながら、下方へと加速して包囲の突破を意図した沙耶香に向かい、
今がチャンス! と ばかりに襲い来る鞭達。

だが、その鞭の嵐が、突然乱れる。

「えっ!?」
《何っ!?》

停滞した鞭の嵐を訝しげに見つめた沙耶香の視界の先。
地に向かって落ちながら見たそれは、白き杖をポテンティアテスに向けて佇むクロノの姿。

「くっ!」

地面に激突する寸前に、身体を入れ替え着地した沙耶香。
右の翼は、元素変換の影響を受け根元から砕け散り、背中の一部も白色に染まっていた。
体の芯を極度の冷気で嬲られるような感覚を、無理やり押さえ込み上空に視線を戻した沙耶香は、
ポテンティアテスの様子を伺う。

「……うそ」
《なんと……》

自分の見た光景が信じられない……
あれって一体……
彼女の視線が向いた先には、身体全体に青白い鎖が巻きつけられ、鎧の表面が白く氷結し始めている
ポテンティアテスの姿があった。


*       *       *       *       *


クロノの周囲に蟠る鞭達が、光を纏い蠢く。
行く筋にも分裂し、あらゆる角度から襲い来る鞭。
それらを回避し、逸らし、時にはチェーンバインドで縛り上げて他の鞭に叩き付ける。

寄り集い、注連縄のごとく膨らんだ鞭が頭上から叩き付けられてくるが、空間に突然発生した
魔力の鎖が締め上げ、千切り飛ばす。
 
ディレイドバインド・ストラングル

捕えた鞭を破砕したクロノは、開いた空間へと身を躍らせ、追ってきた鞭から身をかわした。

(全く! どこまでもしつこい!)

内心で毒づくクロノ。
打開策を模索する為に思考に集中しようにも、回避をおろそかにした瞬間、人型の塩の塊が出来上がる。
縦横無尽に駆け巡る鞭をどうにかしない限り、ジリ貧になるのは確実だが……

脚に絡み付こうとしていた鞭を、ラウンドシールドを足底に展開し蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした勢いを利用し身体を捻ると、背後から襲おうとしていた鞭にスティンガーレイを叩き込んだ。

(あの『天使』とやらの意識が、少しでも逸れてくれれば……)

クロノの脳裏に、先ほどまでの『天使』の動きが描かれる。
なにか、付け入る隙はないか?
スティンガースナイプを弾いた時の姿。
縦横に鞭を振るう姿。
幾筋にも分かたれた鞭の嵐の中で佇む姿。

……鞭の嵐の中で、『天使』の背後はどうだった? 全周を覆っていたか?
……いや、覆われていない。
この大嵐は、あくまで自分達に対しての『檻』!

(だったら!)

素早く思考を纏め、戦略を立てたクロノ。
だが、それを成すために必要な事が一つあった。

『「多分だけれど、それだと殆ど通用しないわよ」』
『「あの鎧、妖力の結晶体みたいなものでね。 外部からの影響を遮断する効果があるわ」』
『「精神攻撃に近い『非殺傷設定』とやらは、効果減衰が著しいでしょうね」』
 
脳裏をよぎる沙耶香の言葉。
彼女が本当の事を言っているとは限らない……限らないが、実際にスティンガースナイプが弾かれ、
殆ど影響を与えていないのは事実。
……いや、認めよう。
この事柄に対しては、嘘は言っていない。
それは、己の今までの経験からも解る。
あの弾け方は、AMF(アンチマギリンクフィールド)に対して魔力弾を撃ち込んだ時の反応に酷似していた。
 
『「攻めるなら物理的に影響を与える方が効果あるわよ」』
  
彼女の言葉が再び脳裏に浮かぶ……
殺傷設定での攻撃ならば、効果が見込めるというのか……
 
覚悟は……ある。
己が手を下した経験も………ある。
 
その場面に遭遇するたびに、もう二度と無い事を祈っているが、それは適う事は無いのだろう……
 
クロノは……僅かに軋む心を押さえつけ、デュランダルを振るった。
 
杖先から飛び出した蒼の魔弾[スティンガースナイプ]
クロノは思念誘導によって、己の背後へと魔弾を停止させつつ、襲い来る鞭を指し示すように右手を伸ばす。
その動きに連動して生み出される蒼の光刃。
紡ぎだされた刃は、腕の動きそのままに鞭に向かって射ち出された。
更に手刀を繰り出すように、幾度も右腕を振るうと、その度に生み出される光刃が、迫る鞭へと向かい
放たれていく!
 
接触!
炸裂!
 
魔力を散らし、爆発する光刃。
蒼の刃[スティンガーブレイド]は、鞭を切り裂きながら炸裂し、クロノへ向かう軌道を描く鞭達の動きを阻害する。
 
(いけっ!)
 
クロノの思念を受け、魔弾が背中から放たれる。
スティンガーブレイドの爆煙に隠れ飛び出した魔弾は、遥か下方へと向かうと、そのまま大きな弧を描き、
ポテンティアテスの背後へと回り込んで往く。
 
詠唱開始。
デュランダルのクリスタルが蒼く煌いた。
 
『蒼き氷雪纏いし妖精 大いなる悲しみを持ちて 戒めの抱擁を彼の者に与えん』
 
発動待機。 
 
爆煙を引き裂き迫る鞭がクロノに襲い掛かるが、狙いが甘い。
首を逸らすだけであっさり回避し、魔弾のコントロールに集中する。 
 
「鈍りましたね、カラミティ!」
 
その時、喜悦に満ちた『天使』の声が響いた。
同時に鞭達の動きが一気に重くなる。
何事かと、回避をしつつ視線を廻らせたクロノの視界の端に、鞭に纏わりつかれ、
防戦に追われる沙耶香の姿が映った。
 
(こっちを片手間にあしらえると思ったか!)
 
[スナイプショット]
クロノの意識がはじけると共に、コマンドワードを受け加速した魔弾が背後から『天使』の羽根に食い込んだ!
装甲の施されていない箇所に、抉りこむように着弾したスティンガースナイプは、左翼の半ばを吹き飛ばし、
『天使』の体勢を大きく崩す!
 
硬直し、鞭の制御が停滞する『天使』
クロノはその隙を逃さず、待機状態にしておいた魔法を解き放つ!
 
【[アイシクル・バインド]】
 
デュランダルの蒼いクリスタルが煌きを放つ同時に、『天使』の周囲の空間から蒼白い鎖が躍り出し、
全身に絡みついた。
ギシギシと締め上げながら、付属効果の「氷結作用」を働かせ、黄金の鎧を白く覆い尽くしていくバインド。
四肢に力を込め蒼の鎖を引きちぎろうとする『天使』だったが、その足掻きは、鎖を肉に食い込ませ、
しぶいた血を凍結させる効果しかなかった。
 
「き、きさまぁあああああ!」
「それ以上動かない方がいい。無理に動けば、体中の肉が削げ落ちる事にもなりかねないぞ」
 
淡々と告げるクロノを、『天使』は憎悪と怒りに満ち満ちた視線で睨みつける。
 
(これでチェックだ)
 
クロノは内心で、安堵の息をついた。
特殊な能力をもつ相手だ。バインドを極めたとはいえ、油断は出来ない。
だが、今回の事態の重要参考人である片方は確保出来たのだ。
あとはあの女性と、何とか話を付けれれば……

エイミィからの通信が入ったのは、そんな思いが脳裏に浮かんだ時だった。
 
『クロノくん!』
(エイミィ?)
『なのはちゃんが!』 
(!?)

 
*       *       *       *       *

 
「……どっちが出鱈目なんだか」
《あの小僧、洒落にならん能力を……》
 
上空のクロノと、蒼の鎖に囚われたポテンティアテスにを交互に見つめ、半ば呆然と呟く沙耶香達。
 
能力全開のポテンティアテスを、しごくあっさり拘束した魔法。
効果を見る限り、凍結・もしくは氷結の呪文というところか。
 
(あれ喰らったら、フェンリル族の馬鹿犬に押さえ込まれた時よりキツそう)
(《ポテンティアテスが下手を打ってくれたのがありがたいの。 舌先三寸で丸め込まれて敵対しておったら、
こちらがアレを喰らうことになっておったのか》)
(やめて死ぬから)
 
癖になった溜息一つ。
再生の始まった右翼を眺めつつ、上空の様子を伺う。
もがいているポテンティアテスを、このまま確保されても困るのだ。
あの状態なら、外すこともない。
 
沙耶香は、右腕をゆっくりと肩口まで引き上げると、焔を集束させ……

彼女の背後で、壁を吹き飛ばす音が響いた。
 
 
*       *       *       *       *

 
なのはの正面に立つ『天使』
だが、その姿を見て『天使』だと思う者が、一体どれだけいるのだろうか?

最初に沙耶香の斬撃波を浴びたのだろう、半ばから削げ落ちた翼と肘までしかない左腕。
地面に叩きつけられた為に拉げた右半身。
全身を焼け爛れらせ、朱に染めた「彼」の顔は、皮も肉もこそげ落ちた右半分と、腫上がった左半分で
構成されていた。
 
その姿は、まさしく『ゾンビ』以外の何者でもなく、白濁した左の瞳を なのはに向ける様は、
おぞましい事この上ない。
 
「ひっ!?」
 
生理的な嫌悪感から、小さく悲鳴を上げる なのは。
いくら様々な事件を経験してきたとはいえ、動き出す死体と間近で接する体験なぞしていない。
ましてや彼女は13歳の少女なのである。
至極まっとうな反応といえよう。
しかし、可愛らしく硬直していられるような場合ではなかった。
 
ホラー映画の一シーンが如き状況だが、なのはは映画の登場人物でもなければ観客でもない。
これは、今、彼女の目の前で起こっている『現実』なのだから!
 
“wiiiiggoaaaaaaaaaaaaaaa!”
 
人の喉から出せる声とは、とうてい思えない叫びを上げながら、なのはに踊りかかってくる『天使』
片方しかない、拉げて血肉を撒き散らしている右腕。
どうみても動くはずも無いそれを持ち上げ、なのはの顔をめがけて伸ばす。
 

「プ、[プロテクション!]」
 
顔色を無くした なのはが左手を突き出しつつ展開したプロテクションに、『天使』の腕が触れる。
  
“ビシャッ”と、濡れたタオル幾重にも巻き、壁にたたき付けたような異音。
プロテクションのフィールドに触れた腕は、グズグズと肉を爛れ落としながら鮮血を振りまき、骨を砕きながらも、
更に押し込まれてくる。
 
プロテクションは撓まない。
半球状に展開した桜色の光は、飛沫しぶく血からも弾けた肉からも、しっかりと なのはの身を守る。

しかし、強固な光の繭は……なのはの精神までは守ってくれはしなかった。
 
奇声を上げ、己が身を省みず粉砕された腕を幾度も叩きつけてくる相手。
その度に舞い散る血が、裂けた肉が、周囲の地面に降り注ぐ様が なのはの瞳に刻まれてゆく。
 
その時、上空から舞い降りた閃光が『天使』の背に着弾した!
状況を察したクロノが放ったスティンガーレイは、確実に『天使』を捕えた。

だが、『天使』は小揺るぎもしないどころか、一切構わず、なのはのプロテクションを殴り続ける!


怖い
 

コワイ
 

こわい
 
 
血の気の引いた顔が歪む。
辺りは僅かの間に真紅に染まり、地獄のような有様だ。
 
「いや……いやだ……もう、きちゃやだ…」
 
うわごとのように漏らす言葉。
目じりに溜まった涙が、頬へと零れ落ち、バリアジャケットの胸元にはじける。
 
“wiiiiyyuuuuuuuu Gyoaaaaaaa!”
 
そんな なのはの追い討ちを掛けるが如く、黄金色の光を放ち始める『天使』
その光は、レイジングハートを痛めつけた先刻の鞭の光に酷似していた!

呆然とする なのはの目の前で徐々に強まっていく光。
『天使』の足元のアスファルトが、なのはの周囲のコンクリート壁が。
光が侵食してゆく場所は、徐々に白く染まりながら“ボゾッ”っと音をたて、崩れていく。

 
このまま、自分も塩に変えられてしまうんだろうか?
 
そんなの…… 

(……やだ……やだよ……フェイトちゃん………クロノくん………ユーノくんっ)
  
フラッシュバックする少年の笑顔。
 
 
なのはを照らす光の圧力が、上空の『天使』が操る光と並ばんとしたその時、
左側から襲い掛かった焔の渦が『天使』を飲み込み消し飛ばした!
 
眼前を駆け抜けていった焔の赤。
それが過ぎ去った後には、あの『天使』の姿はどこにもなかった。
なのはは、全身から力が抜け、“すとん”と地面に腰を落とす。

……助かったのだろうか? 
 
恐怖に強張っていた体がガクガクと震える。
安堵の息を吐き、焔が駆け抜けていった先を見る なのは。
 
アスファルトを穿ちながら疾走した焔に撃たれた『天使』は、右手首だけを残して、
全身を塵に還していた。
吹き飛んだ際に舞い散ったのだろう。
白い羽が“ふわり”と宙から舞い降りながら、さらさらと塵となっていく。
 
『天使』が存在していた証は、もう地に転がる右手しかなかった。
その腕も、間を置かずに塵となり、風に飛ばされて消えてゆく。
ほんの僅かな時間で、“彼”が存在していたという痕跡は、何一つ残ることなく消えうせていた。

天使を吹き飛ばした焔が撃たれたと思われる場所に、ゆっくりと顔を廻らせる なのは。 
 
今のは、クロノくんのブレイズカノン……じゃない。まさしく『炎』そのもの。
そう。 まるで、シグナムさんのレヴァンティンから噴き出すような…… 
 
どこか呆けた思考のまま見やった視線の先。
そこには、半身をこちらに向けて右腕を伸ばす、沙耶香の姿があった。
  
 
*       *       *       *       *

 
灼焔を放ち、眷族を吹き飛ばした沙耶香は、自分を見ている なのはの姿を一瞬だけ見た後、
上空のポテンティアテスに改めて意識を向けた。
 
(今の眷属……あの光って、やっぱり)
(《元素変換の光であろうの》)
 
沙耶香の思念に、月晶姫が答えを返す。
あの眷属の状態は、二人とも思いもしない事態だった。

眷属化”とは、あくまで劣化版の妖怪を作るようなもの。
“元になる妖怪の全能力を受け継がせる”ようなモノではないのだが……。
 
(暴走……したのよね)
(《恐らくそうであろ。 ポテンティアテスめも“不完全”などと申しておったからの》)
(殆ど死体の状態で動いてたのも?)
(それは分らん。 どういう具合に暴走したかなぞ、研究者にでも聞くしかないであろ》)
(そうね)

思念会話を終えると共に、沙耶香は右腕を上空のポテンティアテスに向けた。
先ほどは 背後に湧いていた眷族に撃ったが、こっちが本命。

しかし、彼女が炎を呼ぶ前に、上空のポテンティアテスが、閃光に包まれた!
膨れ上がり、周囲に放たれてゆく金色の一閃は、地面を家屋を木々を穿ち、真白い塩の柱を
乱立させる!

「あっちも暴走?!」
《あの愚か者めが!》

沙耶香と月晶姫が苦々しく叫ぶ中、天の光珠は徐々に膨張を開始していた。


*       *       *       *       *

 
なのはが襲われていることをエイミィから知らされたクロノは、眼下で蠢く『ナニカ』へ向けてスティンガーレイを
叩き込んだ。

だが、その相手は小揺るぎもせず、なのはを襲い続けている。
非殺傷設定のスティンガーレイでは、牽制にもなっていない!?
 
(アレもそういう類か!)
 
忌忌しさに思わず舌打ちするクロノだったが、アイシクルバインドの維持と強化にリソースの大半を裂いている状態
では、あまり大きな魔法を使うわけにもいかなかった。

(ならば)

リングバインドの遠隔発生。
さほどリソースも喰わずに、なにより発生が早いバインド魔法。

クロノが魔法を放とうとした寸前。
彼は展開・維持していたアイシクルバインドに、異様な手ごたえを感じた。
脳裏をかけるいやな予感。
拘束しているポテンティアテスへと視線を向けたクロノ。
その視界に映ったものは、全身から黄金色の光を溢れさせバインドから抜け出ようとしている
ポテンティアテスの憤怒の表情だった。
 
「人間風情がぁぁぁ! 何時までも私を捕えていられるなど、思い上がりも甚だしいぃぃ!」

ポテンティアテスの叫びに同調するように、黄金の鎧が更に眩く輝き、アイシクルバインドの蒼い鎖を
徐々に劣化させてゆく。
鎖を覆う蒼白い魔力がくすみ始め、バインドの構成に綻びが入り始めた。
全身を苛んでいた氷結効果も押さえ込みつつあり、鎖が触れている箇所以外の鎧は、
黄金色を取り戻す。
 
「どこまでも規格外だな!」
 
叫びつつ、再びアイシクルバインドの補強に入るクロノ。
彼の体から溢れた魔力が、ポテンティアテスの妖力と鬩ぎ合う!
 
崩壊しかかるバインドを補強する魔力。
其れを打ち消そうとする妖力。

異なる二つの『力』がお互いを駆逐しあう!
 
だが、その拮抗はあっけなく破れた。

「ぬ!?……ッ!ばかなぁあああああ!??」
「なんだ?!」

ポテンティアテスの体からあふれ出た閃光が、球形に広がりゆき、
彼の身体もバインドも飲み込んでしまったのだ!

慌てて後退したクロノが見守る中、金の球体から放たれる一閃!
立て続けに放射される閃光は、眼下の木々や家々を塩の柱に変えていく。

「エイミィ! どうなっている?!」
『こっちのモニターには何も映っていないんだよ! 今、クロノくんの前で何がおきているのか
全然分らない!』
「エネルギー変異は?!」
『確認されてないよ!』

己の眼前に広がる黄金球。
此れだけの光量を放っているのに、瞳を閉じる必要も無い不可思議な光。
これすら確認できていないのか!
 
クロノの眼前でますます膨らんでいく光球。
これを放置するわけにはいかないが……さりとて、どうすればいい?!
 
「“消し飛ばす” それしかないわね」

背後から聞こえた声に、ギクリ、とする。
何時の間にか翼を再生し終わった沙耶香が、上空に飛翔していたのだ。
 
「……あの『天使』とやらは?」
「さて? 自己崩壊でもおこして消えてるとは思うけど」
「この球体は?」
「アレの妖力の塊。 暴走して弾けたって所じゃないかと思うわ」
 
クロノの問いに答える沙耶香。
僅かに考え込むクロノに、彼女は言葉を続けた。
 
「私のいう事も予想でしかないけど。 ただグズグズしてると、あの光ってる珠が結界越えちゃうかも
知れないの」
「……」
「分っているとは思うけど、私の結界ってさほど広くは無いの。はっきりいって、展開もギリギリなの。
アレを消し飛ばすつもりで攻撃しないと、手遅れになるわ」
 
淡々と告げる沙耶香の瞳を見つめるクロノ。
こうしている間にも拡大を続ける光珠。
手を拱いているわけにはいかないようだ。
 
「わかった。あれを止めよう」
「……いいのね?」
「…ああ」
 
沙耶香の言外の問いに、クロノは頷きを返した。
 
「おっけ。なら、私が先に一撃するから、もし残ったらフォローお願い」
「同時には…」
「質の違う力同士で、更には初対面の別種間で巧い連携なんか無理でしょ」
「……そうか」
 
沙耶香は、クロノが頷くのを確認すると、地上へと降り、光球の真下に向かう。
 
(《良いのか? 「力」を見せる事になるであろ?》)

月晶姫の言葉に、頷く沙耶香。
 
(ここまで来たら、ポテンティアテスの完全消滅を第一にするわ。私が脱出して、この光珠で
なにか大きな被害が出たら責任云々で煩そうだし)
(《……》)
(あの子の「力」も見ておきたいものだしね。 敵対するにせよなんにせよね)
(《…諾》)
(ありがと、姫)

クロノのへと視線を送る沙耶香。
頷きを返してきたクロノは、間合いを開け、上空で詠唱に入ったようだ。

それを確認した沙耶香は、大きく息を吸い込むと、光珠を睨みつける。 

右腕に踊る炎。
螺旋を描き蠢く焔を纏いつつ、肩口まで引き上げられた右腕。
妖力を集中。
腕に絡む炎が、物理現象の枠を超え、擬似的な炎の精として具現化する。

一気に燃え上がる焔。
伸ばした指先は砲身の如く。
手中に灼熱の焔塊を擁いた沙耶香は、叩き付ける様に言霊を放つ!

『舞い踊れ 焔の精! 我が腕(かいな)に集いて 灼熱の息吹を成せ!』

大気が震える!

空の光珠へと放たれしは、全てを焼き尽くす炎竜が牙!

「『フォルブランニル』!」

沙耶香の右腕から生まれた紅の炎竜は、咆哮と違えんばかりの衝撃音を響かせながら
顎を開き光珠へと喰らいつく!
僅かな抵抗を突き破り光珠を穿った赤き竜は、そのまま遥か上空へと駆け昇っていった。


右腕全体から白煙を上げた沙耶香が見守る中、 半分程吹き飛ばされた光珠へ向かい、
クロノが放つは永遠の眠りを齎す嵐。
 
正面に差し出した魔杖の先端に、冷気を纏い蒼く彩られた魔力が集う。
明滅を繰り返し、拡大していく蒼氷の魔力光。
デュランダルを光珠へと向け、瞑目していたクロノの喉から、朗々たる声で詠唱が迸る!

『深遠の氷雪を喚び 極北の嵐を纏え! 悠久なる凍土を渡る 蒼き烈風を今此処に!』

環状魔方陣展開。
デュランダルに纏わり付くように3つ。
そして杖を支えるクロノの右腕に、デュランダルの先端正面の空間にもひとつ。

5つもの環状魔方陣に彩られた氷結の杖を、再度膨らみ始めようとする光珠へ向け突き出す!
クロノは裂帛の気合をこめコマンドを言い放った!
 
 
「全てを封ぜよ! 『テスタメント』!」


直射砲撃魔法[テスタメント]!
ブレイズカノンと対を成す、デュランダルでの新魔法!

デュランダルから放射された蒼の氷嵐は、光珠を穿ち、黄金の輝きを白く染め上げ、
中空に、永久氷壁のオブジェを現出させた。
 

ビキッ
 
滅びの音が鳴る
 
縦横に走る亀裂は、瞬く間に全体に広がり
 
涼やかな音を立て、極細の氷結晶を夏の夜に吹き散らした


滅びの光を封ぜし雪が降りしきる中
 
異形が踊りし騒乱の夜は

ここに一先ずの幕を降ろした。
 
 





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
少女が告げるは 己を覚悟
 
想いと想いを ぶつけ合う
 
それが“正しい”ものであれ
 
否定と死を持ち 決する者に
 
彼女の想いは届くのだろうか?



/Dance with a dragon Next story 「正の想いと負の覚悟」
 






◎用語解説
 
 
沙耶香「………よしっ!(小さくガッツポーズ)」
( 0w0)「なにをしとるのだ?」
沙耶香「あの頭悪すぎる解説コーナー用タイトルが消えてくれたのが嬉しい唯それだけでハッピー」
(;0w0)「ワンブレスで言い切りやがった……」 
沙耶香「とっとと解説解説♪」
(;0w0)「(そこまで嬉しいかコンチクショウ)」
 
 
*1)ディレイドバインド・ストラングル

◇クロノ得意のバインド魔法が一種。元々習得していたディレイドバインドの変化型。 
 特定空間に設置する、いわゆる「置き型(マイン型)」であったディレイドバインドの術式を変更し、
 攻勢型バインドへと変化させたもの。
 術者へと特定方向から接近する対象に対し発動する遅延発動型(任意の発動も可能)。
 詠唱後、術者からの任意の距離に展開(最高20m この際に展開方向を決定しておく必要あり)。
 本文中では、頭上10mで遅延展開
 このバインドに囚われた対象は、斬撃・収縮効果を受け千切り飛ばされるというかなりエグイ魔法。
 人程度であれば、糸で巻いたプリンを左右で引っ張り真っ二つにするレベルで「サヨウナラ」出来る。
 効果時間は発動後5秒程度。
 ちなみにストラグルバインド(ヌコ姉妹をハァハァ言わせたアレ)とは関係ない
 

*2)アイシクルバインド

◇デュランダル使用前提での氷結魔法が一種。
 呼んで字の如く、対象を凍らせるバインド。対象は麻痺・氷結効果を受け、無力化される。
 発動後、魔力供給を随時行うことで、氷結・拘束力強化と効果時間延長を図れるようになっている。
 また、氷結効果をMAXまで上昇させれば、対象を破砕する事も可能。
 本文中では、氷結効果をほぼMAXまで上げていた。

*3)眷属化

◇自分の血や肉体の一部を組み込む、または儀式などを通して人間を妖怪化させる事を刺す。
 一番分りやすいのは、吸血鬼が血を吸った相手を下僕にする場合。
 完全に妖怪化してしまう場合もあれば、ある程度の妖力・妖術が使える程度でしかない場合など
 千差万別。


*4)フォルブランニル
 
◇沙耶香の妖術。射撃型:熱エネルギー。 
 ビジュアルイメージは、某サイバスターが放つアカシックバスターが飛竜形態になったようなもの。
 そのまんまのイメージでも大差無いが(爆)
 かなりの消耗を伴う術で、使用回数は『元の世界』で1日/5回 『リリなの世界』では1日/3回
 代償あり(一射毎にHP30消費 リリなの世界では50消費/ちなみに通常成人男性でHP10)
 半竜態では威力半減・対人に対しては威力0になる。
 
 魔法換算した場合の能力
 
 灼焔      ・射程A  威力AA  発動速度SS 発射速度A
 フォルブランニル・射程AA 威力S+ 発動速度B− 発射速度A+

注・発動速度SSの『灼焔』ですが、これは『瞬間発動』という妖術に対しての『増強』が行われている為です。
  この『増強』を行うと、まさに一瞬(溜めが0に成る)で術が発動するので、SSとしました。


*5)テスタメント

◇ごめんなさい氷の至高王カ○=ス!
 デュランダル使用時、ブレイズカノンと対をなす魔法。
 氷結・破砕効果をもつ直射砲撃魔法であり、詠唱手順を組み込んでの威力・効果範囲の拡大が可能
 詠唱を伴う半儀式魔法状態での威力は、エターナルコフィンの砲撃魔法バージョンといった所。

 通常使用時・射程B 威力A+ 発動速度B+ 発射速度A
 詠唱工程時・射程A 威力S   発動速度C   発射速度A−








( 0w0)「はい、ここから下は没ネタ」
沙耶香「『もしもフェイトを殺していたら、こうなった戦いのシーン、その1』ですって……馬鹿でしょアンタ」
Σ(;0w0)「うっわ、→『!?』も無しかい!」
沙耶香「馬鹿に馬鹿といって何が悪いの馬鹿そんなことも解らない位馬鹿なの貴方そうか馬鹿だったわね」
(;TwT)「酷い……またワンブレスで……うううorz」
 



もしもその1・クロノvs沙耶香




魔力で編まれた鎖が沙耶香の四肢に絡みつく。

ディレイドバインド。
特定空間に侵入した対象を捕縛する拘束魔法。

クロノの頭上を取り、灼焔を放とうとした沙耶香を拘束した魔力の鎖は、ギシギシと軋みを上げつつ、
彼女の動きを完全に封じ込めていた。
 
「くッ!? いつの間にこんな?!」
 
動きを止められた沙耶香が、焦燥の色を滲ませた声を上げた。
2vs1となった為に出来た隙を突いたにせよ、予想外にも程がある!

眼下に位置するクロノを睨みつけた沙耶香の表情が引き攣った。
沙耶香に向けた青白き魔杖の先端に集束していくのは、蒼に彩られた冷気を纏いし魔力達。

「このぉぉぉ!!」

叫びを上げ、右腕に絡みついた鎖を強引に破壊すると、腕を肩口まで引き上げた沙耶香。
そのまま手のひらに球体を握りこむような形で指を伸ばすと、クロノへと狙いをつける!

明滅を繰り返しつつ、膨らみゆく蒼氷の魔力光。
構えた腕に纏わり付き、激しく渦巻く灼熱の炎。

蒼と紅

氷雪と火炎

大気を震わせ、対極の力が集い往く!

『深遠の氷雪を喚び 極北の嵐を纏え! 悠久なる凍土を渡る 蒼き烈風を今此処に!』
『舞い踊れ 焔の精! 我が腕(かいな)に集いて 灼熱の息吹を成せ!』

朗々たるクロノの詠唱と、叩き付ける様な沙耶香の叫びが重なり、デュランダルと右腕が互いに向けて突き出された!

「全てを封ぜよ! 『テスタメント』!」
「焼き尽くせ!『フォルブランニル』!」

 コゥ!
        ゴァッ!

デュランダルから放たれた蒼の氷嵐と

沙耶香が放った紅の焔渦は

中空で絡み合い

全てを真白く染め上げていった!


 










( 0w0)「こんな感じ」
沙耶香「……ちょっと、2vs1って記述があるけど」
( 0w0)「ん。 この場合、無論なのはもいるから」
沙耶香「……てことは、ここの私、全力全開でフルボッコじゃないのよ!?」
( 0w0)「いやまあ、フェイトちゃんを『サックリ殺る』という選択肢をとった場合はこうなったというだけの話よ」
沙耶香「……(あ、危なかった(汗))」





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