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“泡沫の夢 紡ぎし世界 Episode-00”



次元回廊を航行する一隻の船。
亜空間のエネルギー場と己の発するフィールドとの干渉光が、
『彼女』の白金の船体を、淡い虹色に輝かせる。

あらゆる生ある存在を許さない死の空間を、魔法技術という矛で踏破していくその船は、
『時空管理局所属 L級巡航監視船 第八番艦』 
艦名を『アースラ』という


「第27次元 該当ポイント名『スタニア』への到着まで、後6時間。
タイムスケジュール通りの行程にて異常ありませんッ」


僅かに固さを滲ませ報告を行うオペレーターの少年に、指揮シートからゆっくり立ち上がった
クロノ・ハラオウン提督は、表情にホンの僅かな苦笑を滲ませ、声を掛けた。


「シュミット。今からそんな固くなっていると、現場に到着した時に何も出来なくなってしまうぞ。
緊張するのは解るがな、もう少し落ちつけ」

「は、はははい!わ、解りま(ガツン!)アグァ!(泣)」

提督からの言葉に、一気に緊張がMaxに達したのか、慌てて敬礼をしようとした彼は、
コンソールの隅に、振り上げかけた手を思い切り叩きつけ、涙目で悶絶した。


「…大丈夫か?」

「はぃぃ(泣)」


心配しつつも、呆れを滲ませた声で尋ねるクロノに、彼━シュミット・ハルニア━は、
小さくなりつつ真っ赤な顔で、小声で答えた。


「アレックス。もう少し後輩をフォローしてやれ」

「提督。原因たる貴方に言われたくはありません」

「そうだねぇ、今のはクロノ君が悪いと思うな、エイミィさんは」

「何がだ…というかエイミィ。任務中の言葉使いには気をつけろとあれほど…」

「そんな些細な事は置いておいて。エイミィさんとしては、『クロノ君の下手な冗談が事態の原因である説』を
唱えるものであります」

「あ、俺も支持します」

「……お前達…」


頭痛を堪えるように、こめかみを抑えるクロノ。
気心が知れまくった士官学校の同期生と、執務官時代からの同僚たるオペレーターからの
『君が悪い』発言。毎回の事ながら【理不尽だ!】と彼が思うのは仕方がない事だろう。


「大体、何が下手な冗談なんだ。僕は彼の緊張を解そうとしただけで…」

「あ〜〜、駄目。もう全然駄目だよクロノ君。毎回毎回、はやてちゃんやシャマルさんを始めとした皆に
あれだけイジられてるのに、まだこんなに固いんだもの。エイミィさんは心配です」

「僕が毎回!あの小悪魔&血の色は緑なナマモノに!どれだけ酷い目に遭わされているか!
知っていてそういうこと言うか!?」

艦長の威厳なぞ、次元の彼方へ吹き飛ばし、血涙流さんばかりのクロノの訴えだが、
『何時もの事、いまさら何をいうのかな』と
ばかりに、華麗にスルーする通信主任&ベテランオペレーター。


「やっぱりああいう場合は、もっとフランクにだね…」

「エイミィ、寝言は寝てから言うものだ」

「ひっどいなぁ〜。リンディ艦長のフランクっぷりの十分の一でも発揮すれば無問題だって、忠告してあげているだけなのに」

「あの人の十分の一程度でも、僕には無理だ!」

「ここは一つ、前艦長の嗜好から真似ていただくのが吉かと愚考します」

「ああ!それいいかも!」

「まさしく愚考だ!君たちは僕に死ねと言うのか!?」

「「大げさな」」

「絶対大げさじゃない!少なくとも、消化器系と歯医者に通院する事になるのは間違い無いぞ!」

「疲れた時には甘いものがいいんだよ?」

「そういう次元の問題じゃない!」


ブリッジに響く提督の魂の慟哭と、周囲を囲む仲魔達の声が彩る空間を、シュミット少年は
呆然と見つめていた。


「シュミット。驚くのは判るが、あれは未だ序の口だぞ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。今回、アースラに乗り込んでいるメンバーが加わったら、あんなもんじゃすまないさ」


クククッっと笑いを堪える先輩格のオペレーターに、ポカンとした表情で答えを返すシュミット。
彼がその事態を目の当たりにするには、今しばらくの時が必要だったが。


*          *          *          *          *



「む?なんやろ…クロノくんがいい声で鳴いてる気がするんやけど」

「はやて…言い方が危ないよ」

「はやてちゃん、時々表現がおじさんくさい時あるよね」

「なのはちゃん?!それ酷い!」


アースラ艦内にある、フェイトの執務官室で姦しい声を上げている3人娘。

『高町なのは戦技教導官』
『フェイト・T・テスタロッサ執務官』
『八神はやて特別捜査官』

彼女達は、管理局が誇る、陸海空の若手トップエース。

今回のロストロギアが、【危険度高】と判断された為に彼女達が調査に駆りだされたとはいえ、
『戦力過剰ではないか?』
という意見が出るほどの豪華メンバーであった。


「シャマルさんも、相変わらず昼メロとか好きなの?」

「あ〜、シャマルなぁ…クラナガンに移住する前に、こっちのDVDで出てるシリーズを買えるだけ
買おうとしとる。後、どうにかして、コッチのTV番組をクラナガンでも見れるようにしよ思うとるよ」

「それって出来るのかな?」

「わからんねぇ。ユーノ君とかにも何か聞いとったけど」

「ゆ、ユーノ君、大変だ…」

「なのはちゃんが『頑張って♪』ってホッペにちゅ〜したげれば、不可能も可能にするんやないか?」

「にゃ?!にゃぁぁぁぁぁぁ!?」

「なのは、顔真っ赤だよ?」

「ふぇ、ふぇいとちゃ〜〜ん(汗)」


久しぶりに三人が揃って挑む任務。それが如何に困難な物であれ、彼女達に不安はなかった。


*          *          *          *          *



「は、はくちゅっ」

「うわ、汚ねぇな、シャマル」

「やだわ、誰か噂でもしているのかしら?」

「大方禄でもない噂でもされているんだろう」

「ちょ、酷いじゃない、シグナム」

「なんだ?自覚がないのか。困ったヤツだ」

「酷っ!まだ根に持っているの、この間の事」

「何の事だ?お前が私の秘蔵の芋羊羹を食べた事など、欠片も気にしていないぞ」

「思いっきり根に持っているじゃない!ザフィーラ、こう言う態度って、将として駄目よね!?」

「我に話を振るな」

「シャマルは摘み食いしたですか?マイスターはやてに怒られるですよ?」

「ちげーぞリイン。あいつがしたのは盗み食いだ」


三人娘と別の部屋では、蒼天の王、八神はやてに仕える『ヴォルケンリッター』が待機していた。

当初、彼女達の同行は考えられていなかったものの、『スタニア』で発見されたロストロギアが
納められていた『神殿』のガーディアンが、AMF(アンチ・マギリン・フィールド)クラスの耐魔力を
発揮する金属で創られていたとの報告が調査隊から上がったいた為、ベルカ式の使い手である
彼女達も組み込まれたという経緯があったのだ。

余談だが、ミッド式魔導士で構成されていた調査隊は、かなりの苦戦を強いられ、偶々艦に同乗していた
監察官の力を借りて何とか事態を切り抜けた。(調査隊の死者5名・重軽傷者14名(監査官含む))
その監査官の実力が(特殊とはいえ)トップエース三人娘に匹敵するものであった為、危険度を考慮しての
アースラチーム派遣となったというのが背景だった。                        −余談終了−


「盗み食いは駄目です。マイスターはやてから、お仕置きしてもらうです」

「リインちゃん!?」

「そーだそーだ。暫くオヤツ抜きにでもなっちまえ。おまえのお菓子はあたしがキッチリ食べてやるからよ」

「そして食べ過ぎて腹痛か?お前は懲りるという言葉を知らんのか?」

「うっせーよ、おっぱい魔人!おまえみてーに全部胸に廻っているのヤツに言われたく無ぇ!」

「ほほぅ、よく言った。実戦で使う前に、お前で新技の完成度を試すのも悪くないか(ゴゴゴゴ)」

「やってみろよ。あんな隙のでっけ〜技に当たるのは、鈍い高町くらいしかいねぇ(ドドドド)」

「はわわわわわ!?ザフィーラさん、喧嘩です喧嘩!止めなくていいんですか?!」

「落ち着け、リインフォース。あれは唯のじゃれ合いだ。放っておいても問題は無い」

「でもでも(ゴゴゴゴ)とか(ドドドド)とかいってるです!危ないのです!/ (;‘ -‘)x)」

「(溜息)…仕方が無い」

「「シミュレーター室にいくぞ!」」

「お前たち、これから任務に取り掛かるというのに、消耗してどうする」

「「うっ」」

「そ〜よ、二人とも。リインちゃんも心配してるじゃない」

「喧嘩は駄目です。シグナムもヴィータちゃんも、マイスターに怒られるですよ?」

「主はやてを不快にさせるわけにはいかん、な」

「わあったよ。はやてが怒るとこえ〜もんな」

「そうです。これで怒られるのは盗み食いしたシャマルだけです」

「リインちゃん!?忘れてくれてないし(泣)」

「…やれやれ」


ザフィーラの胃に穴が空く日は、そう遠くないのかもしれない。


*          *          *          *          *



「クロノ提督、該当次元座標に到着しました。720秒後に現実空間に復帰します」

「よし。『艦内待機のメンバーに告げる。当艦は間も無く、今回の任務地である第27世界
『スタニア』へ到着する。各員は到着後に即時展開できる体勢で待機せよ。以上』」

「高町教導官、フェイト執務官、八神捜査官及びヴォルケンリッター各員の待機確認」

「次元座標周囲の空間安定を確認。現実空間への復帰シークエンス開始します」

「主機関正常。フィールドジェネレーター出力安定」

「空間歪曲確認、現実空間との接触までカウント20!」

「10,9,8、7、6、5、4、3、2、1、コンタクト!」

「『ダイブ』!」

「『ダイブ』!」


アースラを包むフィールドが強烈な光を放つと、刹那の間をおいて『彼女』の姿が消え去る。
次元回廊は、最初から何者も存在していなかったように、何時までも『ソコ』で揺らめいていた。





雲ひとつ無い青空。宙には二つの月が見え、現住生物であろう巨鳥が悠然とと舞う。
そこの空に突如として『捩れ』が発生し、その中心点が黒く染まったかと見えた次の瞬間、
アースラの巨体が中空に出現した。

ブリッヂでは各員が船体のチェックと周辺空間の索敵を行い、艦長へ報告を始める。



「現実空間への復帰を確認。第27世界『スタニア』に到着しました」

「アースラ船体に異常無し。エンジン他正常稼動中です」

「よし。では之よりロストロギアの回収を行う。各自、十分に注意を払い任務を遂行せよ」

『了解!』




抜けるような空を切り裂き、アースラが進む。


この先にある事態を予想できる者は、今は誰もいなかった



to be continue 






第27世界『スタニア』に到着した彼女達

ロストロギアの回収任務。何時もと変わらないはずの任務

しかし そこで目にしたものは……


次回 泡沫の夢 紡ぎし世界 Episode-01 お楽しみに






“泡沫の夢・紡ぎし世界:Episode-01”





???


『それ』が7兆6342億8163万9263個目の宇宙に到達した時のことだった。

『それ』は、何時ものとおりに自己走査を行うと、ある一つの結論を導き出した。

『このまま情報を集積し続けた場合、遠からず機能維持に致命的な問題が発生する可能性89,79%』
『物理的上限を拡大する為に副次記憶媒体の構築を行うも、本体の機能維持に必要なエネルギーの枯渇は依然深刻』
『よって、本体のクローニングを行い、各複製体との超空間ネットワークを構築、本体は現機能維持に集中。
半休眠状態に移行』
『以後、本体は複製体とのネットワーク維持を優先することとする』

プランを構築した『それ』は、素早く計画を実行させてゆく。

『それ』の周囲に、無数の光の粒が生まれ集う。その様は、まるで銀河そのもの。

光の粒一つ一つが、『それ』自身でもあり『我が子』である。

人の頭部ほどの大きさの『それ』らが、渦巻き、螺旋を描きながら深遠の宇宙を舞い踊る。



『記録をを集めな続けなければならない…それがマスターの願いだったのだから』


『それ』が漂う宙域より、幾多のソラに光の粒が放たれた。
各々が『ゲート』を開き、『それ』が存在する宇宙より飛び立っていく。

『それ』は放たれた自分/我が子達を『観』ながら、ゆっくりと休眠状態に移行していった。

遥か遠い宇宙の片隅で、『それ』は夢を見続けるのだ。

『永遠』という銘の記録の夢を。













『それ』が眠りに就いて幾星霜の時が流れてからか、はたまた撃ち出された直後だったのか、それは解らない。

しかし、幾多の中の一粒が、ある一つの惑星に堕ちた時、この運命の扉が開かれたのだろう。

惑星に堕ちた『それ』は、そこに存在していた者達に封印を施され、悠久の時を眠り続けていた。



今、その惑星に一隻の船が出現した。

運命は、『それ』の目覚めの時に向け、ゆっくりと流れ始めてゆく。






*          *          *          *          *






Guroooooooooooooo


青空に咆哮が轟く。
漆黒の鱗に覆われた巨体。分厚い比翼を凪いで、悠然と空を渡る。
煌々と赤く光る両眼は、見つめられたものを原始的な畏怖へと誘うだろう。
その姿は、次元世界の各所に伝説として伝わる『ドラゴン』そのものである。

『彼』は自分の縄張りへと入ってくる不埒者の気配を感じ、戦意を漲らせていた。
口腔には、幾多の敵を、獲物を焼き尽くしてきた炎が踊り、開放の時を待ち望んでいる。

その時、『彼』の感覚が、前方の雲中に、不埒者の気配をはっきりと感じ取る。


【今まで感じた事のない気配…何者だ?】


一瞬、怪訝な面持ちで僅かに飛翔速度を落した『彼』の眼前で、雲を突き破り、白金の巨体が出現する。
光を弾く銀の装甲、両舷より突き出すフィールドブレード。
低く唸る駆動音を響かせながら、空を往くのは、L級八番艦『アースラ』

【ぬぁああああああ!?】


全力で右にロールを切る『彼』の横を、『アースラ』が飛翔してゆく。


【お、オレより遥かにデカイ……なんだあれは】


『アースラ』は、呆然とする『彼』の視界を悠然と横切っていった。


【…オレは、アレには勝てないか……一体、アレはなんなんだ?】


生物としての直感がそう告げる。おとなしく其れに従い、『アースラ』を見つめる『彼』
一抹の疑問を浮かべ、前方に首を返した『彼』の視界一杯に

聳え立つ岩山が現れた


【あ】


大音響を響かせ、岩山に激突した『彼』は、日が落ちるまで埋まっていたという。






「あやや、ぶつかった」

「あちゃ〜、あれは痛そやね」

「行き成りアースラが目の前に出てきたから、ビックリしちゃったのかな」

「高町とバッタリ遇っても、あのどらごんはびっくりして落ちたな…あたしの明日のオヤツを掛けてもいい」

「ヴィータちゃん!?ひどいよ〜」

「なのは、落ち着いて…」


アースラ艦内の待機室から、外の様子をモニターしていた面々は、落ちたドラゴンを観ながら姦しく騒ぐ。
事前情報として、この世界にドラゴン型の現住生物がいることは知っていたものの、近くで観るそれは、
やはり迫力があった(まぁ、ぶつかって埋まったが)


「そやけど、ああいうんが沢山出てきたら、ちょう大変やね」

「主はやて。ご心配には及びません。我らヴォルケンリッターが、主に指一本触れさせませぬゆえ」

「そーだよ、はやて♪」

「リインも頑張りますです」

「ありがとな、みんな♪」


蒼天の王と守護騎士達の愛が篭った会話を聞きながら、本局航行部隊のエースは、“どよ〜ん”と縦線を背負った
航空隊のエースを慰めていた。


「ううう、確かにドラゴンさんを止めた事あるけど、ここの次元とは関係ないのに…」

「なのは、気にしなくてもいいよ。何時ものヴィータの軽口だし」

「高町があの時のどらごんに『全力全開』ぶちかました後、残ったどらごんがごきぶりみたいに逃げてったからな。
ここのどらごんも『たましい』ってヤツがビビるんじゃねーか?」


横合いからのヴィータの追撃!
クリティカル!
高町なのはの精神に3000のダメージ!
なのはは膝をついた!


「はぅぅ〜〜(泣)」

「ヴィータ!なのはをイジめちゃだめ!」

「あんだよ。あたしは事実しかいってねー」

「ヴィータ。事実でも言うたらあかんこともあるんやよ。そいう時は、グッと堪える事も必要や」

「…はやてちゃん、それってトドメ刺してませんか?」

「ううううう(泣)」

「な、なのは(汗)」


蒼天の王のフォロー(?)に、苦笑を浮かべながらツッコミをいれるシャマル。

背負う縦線が暗雲に変わった空のエースを、海のエースが“よしよし”と頭を撫でつつ慰めていた。


[…シグナム、今回の任務はどう思う?]


主を含めた少女達の様子を、微笑みながら観ていたシグナムへ、不意にザフィーラから念話が繋がれた。


[どうしたザフィーラ?何か気になる事でもあるのか?]

[いや、特別にどうこうというわけではないのだがな…]

[報告書にあった『遺跡のガーディアン』が相手ならば、我らにとって相手に不足なしだ。
主はやてが前線に出られる必要も無い。その方が望ましいくらいだろう]

[……確かに、な]

[…“虫の知らせ”というやつか?]

[そうだな、杞憂であればよいのだが…]


魔導プログラムである擬似生命体とはいえ、素体となった物が野生の狼であった為か、ザフィーラは時折こういった
『鼻が利く』。実際、彼のこの“野生のカン”というべきものに命を救われた事もある。


[…わかった。より慎重に事にあたろう]

[主の守護は任せろ。お前たちは全力で解決に望め]

[もとより。後悔をするような事態は起こさせん]


シグナムは、抜けるような青空を見つめながら、待機状態のレヴァンティンを強く握り締めた。



*          *          *          *          *





「艦長、ポイント上空に展開完了です」

「よし。調査隊へ通信を繋いでくれ」

「了解」


該当ポイント上空に到達したアースラの艦橋。

アレックスより報告を受けたクロノは、一つ頷くと、待機しているメンバーへと通信を繋がせた。

艦長席の正面スクリーンに、各員のウィンドウがポップし、各々がクロノを見つめる。


「艦長のクロノ・ハラオウンだ。調査隊各員に告げる。今回の回収任務においては、
かなりの危険を伴う戦闘が発生する可能性が極めて大きい。各自、最大限の注意を払い
任務に当たってくれ。以上だ」

『了解!』


クロノからの訓示に各々らしさを出しながら、一斉に敬礼するメンバー。

なのは・フェイトはピリッとした表情で、はやては何処と無く苦笑を孕んだような表情で、
シグナム・ザフィーラは泰然自若として、シャマルはどこかポヤヤンとした表情で、
ヴィータは「一々心配してんじゃねぇよ」と顔に書きつつ憮然として。

おまけとして、はやての肩の上でリインフォースも真面目な顔をして敬礼していたが、
その一生懸命さが愛らしさ爆発の為、こっそりと通信ログをコピーしていた茶髪の通信主任がいたとかいないとか。


「ポイント2843に到着。アースラは当ポイントにてバックアップに入ります」

「調査隊、展開開始してください」

アレックスとシュミットが交互に告げると共に、なのはたちはアースラから離艦していく。

その軌跡を腕組みをしながら見つめるクロノに、端末を操作しながらエイミィが声を掛けた。


「クロノ君、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。なのはちゃん達だって、もう十分ベテランだし」

「…彼女達の実力に不安を抱いているわけじゃないさ。ただ…」

「『ここの世界の特殊さが気になる』わけ?」

「まぁ、そうだな。それも気にはなる」


第27世界『スタニア』

この世界は数ある次元世界の中でも、ある種、特殊な部類に入る世界だった。

第一に、自然現象なのか不明だが、空間走査に過度の負担が掛かる、特殊なフィールドが常時展開されているという事。
このフィールドは、生体には特に害を及ぼさないものの、長距離通信などを行う際、距離にを離せば離すほど、
精度が極端に落ちる上に、ある程度のランダム性があるようでパターン解析が行い辛い。
幸いというか、距離が近ければそれほど問題は起きないが、アースラクラスの通信出力をもってしても、
軌道上からの走査すら行えないというのは、非常に厄介である。

第二に、回収されるロストロギアの問題がある。
次元干渉型や、空間影響式のロストロギアは確認されていないものの、回収されたロストロギアがすべからく『武器』
である事。又、そのサイズが明らかに『人間』が扱う事を前提にされている事。
『ジュエルシード』や『闇の書』といったA級ロストロギアと比べれば、危険度は低いと思われるが、発見された物が
『剣』や『槍』といった古典的な武装であるがゆえに、『戦闘力の高い個人が入手』した場合には、危険度が跳ね上がる。
例えばシグナムクラスの剣士が『どんな防壁も切り裂く剣』や『一振りで艦砲なみの破壊力をだす刀』などを入手して
犯罪行為に走ったら?
ザフィーラのような非常に優秀な格闘戦能力をもつ拳士に『魔法を無効化する鎧』や『障壁を貫く手甲』などを装備させたら?

次元犯罪を行う組織の中には、独自の戦力を抱える物も多い。
もし、そういった連中にこういう装備を回収され、解析・量産されたならば……


「ま、今回はだいじょうぶっしょ。展開速かったし、第一次調査隊の資料から回収のポイント割れてるし」

「調査隊の報告書を読んだ限りでは、とても気を抜けるようなものでもないけれど、な」


M級高速巡航艦『アスガルド』が派遣された第一次調査の際に、艦の乗組員にかなりの死傷者が出た事実と、
同乗していたAAAクラス監察官が重傷を負った件を考えれば、慎重に慎重を重ねても、しすぎる事は無い、と
クロノは考えていた。



「回収ポイントを表示します」


シュミットが端末を操作すると、スクリーンに回収ポイントが映し出された。

調査隊の光点が進む先にあるポイントの他に、3箇所の光球がスクリーンに表示されていた。


「今回の回収対象ロストロギアは、4箇所。内3箇所は第一次調査隊の報告と同じ“神殿”と思われる場所に。
残り一つは海上の島にある“遺跡”らしき箇所から魔力反応を感知しています」

「『海上の“遺跡”からの魔力反応は、ロストロギアが覚醒しているのではなく、ある種の封印機能が発する魔力と思われる』か」


クロノは、アレックスが行う現状報告を聞きながら、一次調査隊のレポートを確認し、なのは達に指示を飛ばす。


「本日中に3箇所を回り、明日に海上の“遺跡”の調査を行う。調査隊が“神殿”内で戦闘になった場合、消耗具合を見て
調査スケジュールを変更する。決して無理はするな」

『了解。でも、ちょう心配しすぎや、クロノ君』
『そうだよ。もう一寸信頼してほしいな、お兄ちゃんは』
『大丈夫だよ。皆で力を合わせれば、出来ないことなんてないよ』

「信頼は十二分にしているさ。ただ、キミ達の『無理しない』『無茶しない』ほど信用置けない言葉もないからな。
あと、任務中に“お兄ちゃん”は止めてくれ、フェイト」

『はい、クロノ提督』
『心外な事言われたわぁ。自分だってえらい無茶しよんのに。なのはちゃんもそう思わん?』
『う〜ん、無理無茶しないクロノ君は想像し難いかなぁ…』

「それこそ心外なんだが……エイミィ、笑うな」

「だ、だってクロノ君…ぷっ」


俯きながら肩を震わせているエイミィを、ジト目でみるクロノ。
溜息を一つ吐くと、再びスクリーンを見上げた。


「現場での指揮は、はやて。君に任せる。頑張ってくれ」

『了解や♪そんな念押さんでも大丈夫やよ。「『戦力を分散させる必要はない。各ポイントを全員で廻る』て
艦長さんが決めたんやから、安全面ばっちりや♪』

「各ポイント毎の詳細がわからない以上、戦力を分散させる方が危険だと判断したからな。現状を確認していただけで、
別に焦っているわけじゃない。アースラからのフォローがし難い世界だからな。その分、キミ達への負担は増すぞ」

『大丈夫やて。これも指揮官研修の一環や思って頑張ります♪』

「頼む」

『は〜い』


笑顔で手を振るはやてを映していたウィンドウが閉じられる。

調査隊の光点は第一の“神殿”へと到着しようとしていた。




*         *          *          *          *          *          *








ドクン









〔停滞フィールド出力低下〕









ドクン










〔各機能スリープモード解除〕











ドクン











〔周辺走査開始〕










ドクン









〔データ吸収準備完了まで12セクタ〕










ドクン









〔『    』No17649824 待機状態に移行〕











海上の遺跡深く、『それ』は目覚めようとしていた















to be continue









“神殿”のガーディアン達と戦闘に入る なのは達

仲間達との連携で、回収任務を無事こなしてゆく

しかし、最後に残った“遺跡”へと足を踏み入れた時

『それ』は現れた


次回 泡沫の夢・紡ぎし世界 Episode-02 お楽しみに






“泡沫の夢・紡ぎし世界 Episode-02 ”




菱餅という菓子はご存知だろうか?
菱形で何層にも色分けられ、節句に飾られる菓子だ。

第27世界『スタニア』にある神殿の外観は、『大きな菱餅』と言って良い。
中央に、20m程度の菱形の建物があり、その周囲を円環状に石柱が取り囲む。
神殿の四方は、菱形の各先端が東西南北をきっちりと向き、上空からみれば
方位磁石の形も思い起こせるだろう。

創られた当時は、磨き上げられ美しく輝いていたであろう石造りの外壁は、苔生し蔦に覆われる。
白く艶やかだった正殿の石畳も、罅割れて無残な姿を晒しているのが物悲しい。

巡礼の為?それとも権威の象徴として?
考古学的には興味深い建造物であろう。
だが、『今』この神殿に参るものは、巡礼者でも研究者でもない。

手には剣を。そして杖を。
戦う力を持ち太古の遺産を保護せしめんとする簒奪者である。

長き眠りより目覚めた神殿の守護者達が、その視界に捕らえた者




それは紫炎のオーラを纏い、泰然と佇む、剣を携えた女性の姿だった。




◇神殿正面(南側)


「おおおおおお!」

炎を纏った魔剣を、眼前の敵の右肩へと叩き込まれる。
その刃は、銀色に輝く敵の身体に無残な痕を残し、躊躇なく振り切られた。

一刀両断された敵が、その衝撃で動きを止めた瞬間、魔剣の主ーシグナムーは、
回し蹴りを放ち、敵の身体を背後に吹き飛ばす。

その身に受けた魔力が暴走したのか、剣傷からバチバチと放電を始めていた敵は、
吹き飛ばされた先にある壁に叩きつけられると、そのまま爆発する。

「ふぅぅぅ」

一瞬、息を整えたシグナム。

そこへ、爆炎を飛び越え、直上から槍の穂先を突き出す馬頭のガーディアン!

完全な奇襲!

だが、シグナムは僅かに首を左に傾け『解っていた』かのように、こともなげに鋭い穂先を
避けると、瞬間的に体を入れ替え、まだ中空にある敵の身体にレヴァンティンを叩き込んだ!

振り向き様の一閃。
右手だけで無造作に薙いだように見えたレヴァンティン。
だが、まさしく閃光のようなその一撃は、馬頭のガーディアンを、股間まで一文字に切り裂いた。

奇襲の速度そのままに左右に分かたれた体が、シグナムの後方に転がり、爆発。
爆風に煽られ、桃色がかった艶のあるポニーテールが、騎士服がはためく。

視線を周囲に転じると、爆発し粉々に砕けた敵の残骸がそこ彼処に散在し、両の足で立つ者は
シグナムただ一人となっていた。

レヴァンティンのチャンバーから残魔力が放出され、僅かに周囲を漂う。
シグナムは新たなカートリッジを装填しながら、バックアップを担当している、己の主へと通信を繋いだ。

襟元につけられた増幅器がチカチカと瞬き、念話の出力を増幅する。
この世界のフィールド特性は、個人の念話出力程度はキャンセルしてしまう為、緊急措置として
調査隊各員が増幅器を装備しなければならなかった。

【厄介な事この上ないな】

ちらりと脳裏をよぎるそんな思いを振り切り、報告を行う。


「こちらシグナム。正面ゲート付近の敵は一掃。増援の気配は感じられず」
『了解。西側、東側ともに間も無く制圧出来そうや。シグナムはそのまま警戒に当たってな〜♪』
「了解です」


通信を終えたシグナムが顔を上げ、正面の“神殿”を見つめる。
太古より存在したその建造物は、周囲を囲む喧騒の中、ただ佇んでいた。



◇神殿西側


アクセルフィンをはためかせ、空中に舞い上がる
バスターモードを起動させたレイジングハート・エクセリオンを構え、魔法を構築するは 高町なのは戦技教導官。


「ディバイン!」
〈Buster!〉


レイジングハートを取り囲む環状魔方陣。
励起した魔力が加速され、桜色の魔力光が先端部より放出される。
人一人を飲み込むサイズの分厚い魔力流が眼下の敵中央へ叩きつけられた!

ドグォォォォ!

非殺傷設定を解除された直射砲撃魔法は、地面に大穴を穿ち、敵の集団を薙ぎ払う。
通常ならば、これにて“ジ・エンド”
だが、今回の敵は桁違いの魔力流に晒されても、損傷した様子も見えない。
砲撃の爆圧に体勢を崩され、弾き飛ばされた“だけ”
淡く輝く銀色の肌は、魔力そのものへの耐性が極端に高いのだ。

いくら強大な魔力を誇ろうが、魔力による攻撃しか行えないならば、彼女にとって、この敵は
“天敵”といっても過言ではなかった。そう、“彼女一人”だったのなら…

ゾンッ!

立ち上がろうとした敵の一体。その彼の胴が不意に薙がれた。
金と黒に彩られた疾風が、敵の間を駆け抜ける度、胴を砕かれ、貫かれ、倒れ伏す。
もしもガーディアン達に感情があったのならば、“死”を齎すその疾風に、恐怖したことだろう。

ゴトンッ

最後の一体がX字に切り裂かれ、大地に転がった。
その場に存在していた敵が、悉く地に伏せた時、疾風は人の形を取り戻す。
“雷神の槍・閃光の戦斧 バルディッシュ・アサルト”を携えしは、
時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウン。

〈Barrier jacket Lightning form〉

バルディッシュの電子音声が発せられると、フェイトの肢体を覆っていたソニックフォームが解除され、
通常のライトニングフォームへと移行する。
周囲を索敵し、区域内のガーディアンを駆逐しおえたのを確認した なのはは、ゆっくりと地上に降り立った。


「フェイトちゃ〜ん。お疲れさま」

「なのはも」


お互いに頬笑み合い、手を振る。


「これで西側はオッケーかな」

「多分。シグナムの方も終わったみたい」

「そっか。じゃあ、あとはヴィータちゃんとザフィーラさんの所だけd


ドッゴオオオオオオオオオン!


なのはが言い終えようとした、まさにその時。
一瞬、空が翳り、大地が鳴動した。


「にゃぁぁぁぁ?!」

「きゃっ!?」


なのはとフェイトは、突然の鳴動に体勢を崩しかけるが、何とか踏み留まる。
こういう隙に奇襲をうけないとも限らない為、実戦の中で身についた反射行動だ。
(某教導官にとっては、それこそ涙と涙と涙と汗の賜物(注:某兄上の超特訓や某艦長の鬼メニュー含む)だが)


「い、今のは…?」

「なのは…あれ」


周囲をキョロキョロ見渡す なのはに、声をかけつつ呆然と、ある方向を指差すフェイト。
そこには、燦然と輝く巨大な…


「ぎ、ギガントフォーム!?」

「ヴィータ、やりすぎ」


あんぐりとする なのはと、コメカミを押さえるフェイトの視線の先で、グラーフアイゼン・ギガントフォームは
威風堂々と鎮座していた。



◇神殿東側

「あ〜〜!うざってぇ!」

「ヴィータ、落ち着け」


ラケーテンフォルムのグラーフアイゼンを敵に叩き込みながら、ぶちきれる寸前といった表情のヴィータ。
そんな彼女の背後に回りこもうとする敵に、カウンター気味の拳を叩き込み沈黙させるザフィーラ。


「シャマルのあほ〜〜〜!?コッチが本命じゃねーのか!?」

「愚痴るな」

「やだ。あとでぜってーシメる」


そんなやり取りをしている間にも、次から次に湧き出てくる敵。
既に10体以上は駆逐したはずなのに、一向に減ったように思えない。


「あのうっかりめ、絶対に何か見逃しやがったー!」

「腐るな。他の場所も大してかわらん…ハズだ」


正面から拳を振り上げる敵。
灼熱する右拳がヴィータに叩き込まれる寸前、ヴィータの身体は、クルッと前転する。
空を切る拳。
突然目標を失った敵が、ヴィータに視線を向けようとした瞬間、その顔面に超速の楔が打ち込まれた。
前転しながら発動させたヴィータのラケーテンハンマーは、敵に回避や目視の暇も与えなかった。

楔が打ち込まれた顔面から粉々になっていく敵に見向きもせず、流れるままにクルっと回転して…
強引に右下にグラーフアイゼンを叩きつける!

ゴガッ!

飛び込みながら切り上げてこようとした別な敵の、刃そのものな腕をグラーフアイゼンが叩き折る。
腕を破壊され、体勢を崩した敵の胸板を、ザフィーラの左拳が神速で打ち抜いた。


「ぬぅっぅぅぅぅん!」


ザフィーラは敵の集団に、それを投げつける。
それは敵集団の2体を巻き込み、爆発。
だが、それでも敵はまだまだいて……


……ブツンッ!


「…ヴぃ、ヴィータ?」


ザフィーラは確かに聞いた。何かがブチ切れた音を。
ヴィータは思った。こいつらブッ潰す!と。


「ざふぃーら……あいつらのあしどめたのむ…」

「そ、それは構わんが…」

「なるべくいっかしょにだぞー」

「わ、わかった」


オヤシロ様モード発動のヴィータ(参照・As1話:帽子が吹き飛ばされた以降)に引きつりつつ返事を返すザフィーラ。
ワラワラと押し寄せる敵に自分から突っ込むと、繰り出される無数の拳や槍を捌きつつ、掌低を叩き込み、
腕をひねり上げ投げ飛ばす。
背後から突き出された拳を脇に捕らえ、そのまま身体を捻り、正面からの攻撃の盾代わりにする。
敵の中央に突入したザフィーラは、暴風となって暴れまわる。
その事態に、敵の注意がヴィータから離れたのは仕方がない事なのだろうか?


「ぐらーふあいぜん…カートリッジロードォォォ!
〈Ja!Gigantform!〉

うぬぁ!?ま、まてヴィータ!


カートリッジが叩き込まれ、巨大な鉄槌が生まれ出でる。
それは天より振りそそぐ太陽の光を遮り、敵の頭上に暗い影を落す……もちろん、ザフィーラの頭上にも。


よけろよざふぃーら…
轟天爆砕!ギガント・シュラーク!

「ぬぉぉぉぉ!?は、鋼の軛ぃぃ!どけぇぇ貴様らぁぁぁ!

グラーフアイゼンを容赦なく叩きつけるヴィータ!
ザフィーラは、周囲の敵に(己の経験上最速で)鋼の軛を叩き込むと、邪魔な敵をなぎ倒しながら全力で回避する!


ドッゴオオオオオオオオオン!

大地を震撼させる一撃は、今ここに放たれた…。





◇神殿正面・1km地点



「あかん、ヴィータ。やりすぎや(汗)」

「ど、どうしましょう」

「シャマル。今のギガントで、神殿の内部構造に問題でてへんか?」

「ギガントの直下にあった区画は壊滅していますけど、ロストロギアの魔力反応がある地点は無事です」

「ふ〜〜、ならまだマシやね」


神殿内部を探査魔方陣にて調査していたシャマルの答えに、少しだけ安堵する特別捜査官・八神はやて。


「シャマル、増援のガーディアンの反応は、今ので終いか?」

「ええと……魔力精製型のガーディアンじゃありませんし、この神殿内にはもう居ませんね」

「となると、あとはトラップの類やね。リイン、クロノ君に連絡や。『外周の排除完了。内部調査に移行』やってね」

〈はい。マイスターはやて〉




◇アースラブリッジ


「了解した。周辺索敵は此方で受け持つ。アレックス、神殿周囲の空間走査を密に。
シュミット、君は周辺の地上索敵を。魔力に引き寄せられた現住生物が調査の邪魔になる可能性もある」

「「了解」」

「エイミィ。現状までの調査レポートを」

「おっけ〜」


艦長席のコンソールに映し出されるこれまでの調査内容。
今回の神殿が最後の場所であり、残るは海上の“遺跡”のみ。
1、2番目と比較しても、構造的には大差がなかった3番目の神殿の調査は、明日中には終了出来るだろう。

クロノは今後のタイムスケジュールを脳裏に描き、“遺跡”の調査日程をズラす事に決めた。


「エイミィ。この神殿の調査は明日中に済ませる。一日休息の後、海上の遺跡調査を開始する」

「あれ?即取り掛からないんだ?」

「ああ、調査隊のメンバーの疲労もかなりのものだ。構造的に違うと予測される“遺跡”の調査には
万全を期したいからな」

「連戦だったもんねぇ」

「それでもここまで無傷でこれたのは、彼女達だったからこそだ。それでも一歩間違えばどうなるかわからない」


報告書を真剣に見つめながら答えるクロノ。


「……ま、しょうがないか。クロノ君だしね」

「なんだそれは」

「…自分が動けないのは、歯がゆい?」


エイミィは、それまでの軽口のまま、瞳に真剣な色を浮かべて問う。


「クロノ君は、知り合いや仲間が傷つくくらいなら、自分が傷ついたほうがマシって子だもんね…」

「…エイミィ」

「大丈夫だって。皆そんなクロノくんの気性は十二分に承知だもん。下手うったら君が飛び出してくる
んじゃないかって思っているから、無理はしないよ」

「……それは、逆に信用されていないように思えるんだが」


寂しそうな表情から一転、何時もの悪戯っぽい表情でのたまうエイミィに、毒気を抜かれて溜息を吐く。


「あら?クロノ君の事を理解してくれているって事じゃない」

「不本意だ。第一、艦長がそうそう飛び出せるものか」

「そうだよ。だからさ、そろそろ慣れなきゃね。『艦長さん』なんだから、さ」

「耳が痛いな」


エイミィの言葉に苦笑を浮かべてスクリーンを見つめる。

ロストロギアの確保に成功したとの通信が入ったのは、それから20分後の事だった。



◇アースラ・艦内ミーティングルーム

「はぁ…疲れたわぁ」

「はやて、お疲れ様」

「お疲れ様です。主はやて」

「ヴィータちゃん。あんなところでギガント使ったら、危ないよ」

「うっせーな。オメーの全力全開に比べたら、あたしのギガントなんて、かーいいもんだ」

「ヴィータ。俺ごと潰しかねないギガントは、勘弁してほしいのだが…」

「ヴぃ……ヴィー……タ…ちゃ……鳩…お……テト…リヒは…やめ(ガクッ」

「シャマルがグルグルお目目になったです」


三個目の神殿よりロストロギアの回収をした面々は、一息の休憩を取っていた。

既にクロノより“遺跡”調査のスケジュール変更は伝えられていた為、彼女達は、いくらかリラックスした雰囲気で
寛いでいた。


「ヴィータ。ギガントつこうたらあかんとはいわんよ?でも、あそこで使わんでもなぁ(苦笑)」

「う…ごめん、はやて」

「まあ、ロストロギア回収には支障なかったから、結果オーライということにしましょう」

「シャマル、もう復活したのか」

「ふぅ……もう慣れたわ」

「こちらもお前のうっかりには、もう慣れたがな」

「シ〜グ〜ナ〜ム〜」

「そう怒るな。ただの事実でしかない」

「酷っ!?」


「相変わらずだね、シャマル」

「もう、弄られキャラになっちゃってるね、シャマルさん」


ヴォルケンリッター達のやり取りに、苦笑を浮かべるフェイトとなのは。
一日毎に各神殿を攻略してきた疲れは、体の芯に残っているが、ああ会話を出来るのならば、
そして、それを聞いて笑えるのならば、未だ余裕は失っていないのだ。
事態が急変しようとも、それに対応するべき精神的な余裕を残せる限りは、彼女達は大丈夫だろう。
折れない心が最後の希望。いつでもどこでもそれは変わらない。

そう思っていた。



◇18時間後 アースラブリッジ


ブリッヂの正面スクリーンには、今任務の最後の目標。“遺跡”の姿が映し出され、
サブウィンドウには“遺跡”の在る、外洋の小島のスキャニング映像が開かれていた。

クロノは、展開している調査隊のメンバーのフェイスウィンドウを見つめて、説明を始めた。

「調査隊各員に告げる。今任務に置いての最終目標である“遺跡”。現段階において、アースラからの
サーチでは内部構造が判然としない。これは“遺跡”内部に結界発生装置の類がある為と推測される。
突入後の第一目標としては、結界の調査及び解除。第二にロストロギア回収だ」

『クロノ君。ロストロギアを優先せんでいいんか?』

はやてが怪訝そうに口を挟むが、クロノは片手を上げて其れを制した。

「君の疑問はもっともだ。だが、この手の遺跡の場合、結界そのものが封印を兼ねている事も、ままある。
うかつにそれを解除したら、即、ロストロギアの暴走という可能性があるんだ」

『あちゃ〜…それは洒落にならへんね』

クロノの答えにガックリと肩を落とすはやて。
彼女を横目に、なのはがクロノに問い掛けた。

『クロノ君、それじゃあ…』

「そう、地道に少しづつ調べていくしかない」

クロノは、溜息を吐きながら、なのはの答えを先取りして語った。

『うぁ、めんどくせー』
『ヴィータ。面倒だろうがやるしかない。それと、遺跡内部では、絶対にギガントは使うな』
『うっせーよ。しつけーな おっぱい魔人は』
『貴様もしつこいな…』
『やんのか?』
『そこ!喧嘩したらアカン!』
『『す、すみません(ご、ごめん)』』

はやて母さんのカミナリで縮こまる、八神家の次女と三女。
両手を腰に当ててジト目で睨む はやての姿に、ウィンドウ越しに苦笑しあうフェイトとなのは。
ザフィーラとシャマルは、深々と溜息を吐いていたりする。

「じゃれるのは其処までにしてくれ。此れより“遺跡”の調査を開始する」

『『『『『『『了解』』』』』』』



◇アースラ:ブリッジ


『此方シグナム。第4層の中心部と思われる位置に到達。20m四方のホール状。奥に続く通路が左右にあり』
『シグナムとヴィータはそのまま第5層を目指して。フェイトちゃん、そっちはどうや?』
『こちらフェイト。記録室らしき部屋を発見。アースラに資料を転送します』
『了解。シャマル、サポートお願いや』
『は〜い』
『ヴィータ、右から進むぞ』
『あいよ』

「フェイト、資料の転送が終わったら、なのはと一緒に下層へのルート調査に移行してくれ」

『了解』
『了解です』

ゆっくりと進むシグナム達の視界をモニターしているウィンドウ。
例外は、遺跡の外で探査魔方陣を展開しているシャマルと、全体指揮を行っているはやて。その直衛のザフィーラ。

それを見ながら、収集したデータを随時分析しているブリッジクルー。

クロノは、その様子を見守りながら、時折はやて達に指揮を飛ばす。


「アースラの探査機能が使えないのが、ここまで厄介だとは、な」


ウィンドウを見つめながら、ポツリと漏らすのは、偽らざるクロノの本音だ。


「まあね〜。エイミィさんとしても初めての経験ですよ、これは」


コンソールを操作するスピードを全く落さずに、溜息を吐くエイミィ。


「“遺跡”の結界を甘く見たか…構造スキャンすら弾かれるって、どんな結界だ。まったく…」

「今のところは変なトラップも何もないみたいだけど…」

「最後までこのままなんて事は……ありえないか」

「だねぇ…」


彼らが見つめる先で、シグナム達は5層目に侵入しようとしていた。


◇“遺跡”第5層


シグナムとヴィータは、かなりの長さの階段を下り、5層目に到着した。
不思議な事に、此処に至るまで、彼女達は何の妨害も受けずにいた。
落とし穴の一つも無く、ガーディアンの一体も居ない。
在るのは、結界のせいであろう、不可思議なプレッシャーのみ。
その事実が、非常に不気味であり、不安だった。


「なぁ、シグナム…」

「なんだ、ヴィータ」


全周に注意を払いながら、振り向かずに進むシグナム。


「…ここってさ、変すぎねー?」

「…そうだな。だが、未だに結界の発生元すら発見出来ていない。進むしかあるまい」


不安を感じる自分を否定するように、厳しい目を周囲に向けるヴィータ。

無言になり、黙々と進む二人。

どこまでも真っ直ぐな通路が続き、無言のまま進む二人。
だが、不意に広大なホールに出たとき、彼女達は言葉を失った。





ドクン




「な…………」

「ぅあ…………」




ドクン





「これ……は…」

「シグナム…こ、こいつ…」





ドクン





「なんだ…これはぁ!?」





ドクン





彼女達が踏み込んだ場所は、200mほどの直径があるドーム上の部屋。

そして

その中央に

虹色に明滅する

巨大な[ナニカ]が存在していた。




「ッ!主はやて!聞こえますか?!こちらシグナム!神殿の最深部でアンノウン発見!ロストロギアか否か不明!」

「はやてッ!何かヤバイよ!はやてぇ!!」




ドクン





◇アースラ:ブリッジ


ブリッジは喧騒に包まれていた。

シグナム達が最深部の部屋に入った瞬間、彼女達のウィンドウが“消えた”のだ


「はやて。そっちで再接続は?」

『無理や!コッチとのリンクも切れとる!ど、どないなってるの?!』

「シャマル。内部走査はまだ効いているか?」

『こっちも駄目です!陣はちゃんと起動しているのに、どうして?!』

「なのは、フェイト。シグナム達の反応をロストした。状況が酷く不安定だ、一時退避しろ」

『クロノ!?シグナム達がって、何があったの?!』
『クロノ君!ヴィータちゃんも?!』

「二人共だ。最深部に到達した瞬間、モニタリングが切れた。何が起きたのか解らない」

『今、5層目に進入したの。クロノ君、このまま調査を続行

「駄目だ」

『く、くろの、君…』


クロノは、なのはの言葉を切って捨てる。
なのはが信じられないと言った表情で自分を見つめるのを、勤めて表情を殺し、再度告げる。


「引くんだ。不正確な状況で、君たちまで失うわけにはいかない」

『そ…んな』
『シグナム達が簡単にやられるわけない…クロノ、往かせて』

「駄目だ。こうして論じている時間も惜しいんだ…引いてくれ…頼む」


無表情で告げるクロノに、なのはとフェイトはお互いの顔を見合わせると、泣きそうな顔で頷いた。





だが





それも





遅かったのだ








「ッ!?艦長!!エネルギー波急速に増大!発生源、遺跡最深部!」

「何だと!?」



◇なのは・フェイト


「クロノ?どうしたの?クロノ!?」

「フェイトちゃん!はやてちゃん達とも念話が繋がらないよ!」


クロノに答えを返した直後、突如増大したプレッシャー。

それを感じた瞬間、バックアップとのリンクが断絶した。


「なのは!一旦引こう!ここにいちゃ駄目だ!」

「う、うん!」


座標軸が不安定とはいえ、外に転移するだけならどうにか、と魔方陣を展開した彼女達の背後。

無音で広がった『闇』が全てを飲み込んでいった。



◇アースラ:ブリッジ



「フェイトちゃん!なのはちゃん!返事して!」


エイミィの声が響くも、それに答える声は無い。

漆黒に染まったウィンドウが、その事態を物語っていた。


「はやて!現場から離脱しろ!はやく!!」


はやては、思わず叫んだクロノの声に、ビクリと身体を震わせてウィンドウを見た。


泣き出しそうな顔。

家族が消えた。

親友が消えた。

どうしたらいいのかわからない。

そう表情が云っていた。


「アレックス!はやて達を転移回収できるか!?」

「無理です!空間座標が安定しません!補足自体が不可能です!」

「くっ、ザフィーラ!シャマル!はやてを引っ張って離脱しろ!アースラ!緊急後退!!はやて達を回収後一時離脱する!」


必死に指示を放つクロノ

だが自体は彼を嘲笑うように進行する。


◇アースラ:ブリッジ・オペレーターシート

シュミット少年はブリッジの喧騒をどこか遠くの出来事のように感じていた。

つい、昨日までは上手く廻っていたじゃないか
エースたちの凄さを見ていたじゃないか
一体、今、何が起きているんだろう

彼が座るオペレーター席に流れるデータ

さっきまでは把握出来ていた
でも、今は何が何だか解らない

この数値は何だろう

じゅうりょくは

ああ、重力波か

……重力波!?

喧騒が 戻った


「艦長!!重力波増大!遺跡外壁が崩壊します!同時に通常空間に高エネルギー放出感知!
影響範囲内にはやて捜査官達が!」

「な!?」




◇遺跡外周部:はやて・シャマル・ザフィーラ・リインフォース


「シャマル!転移は出来るか!?」

「無理よ!座標が確定出来ない!」

「クッ!」


動けないはやてを抱え、飛翔するザフィーラ
シャマルは、後を飛翔しながら転移陣を展開しようとしていたが、どうしても座標がつかめなかった。


「仕方があるまい。このままアースラに向かうしかない」

「そうね」

「…ヴィータ…シグナム…なのはちゃん…フェイトちゃん……なんで…や」

「主…」

「はやてちゃん…」

「マイスターはやて…」

リインフォースから受け継いだ守護騎士システム。それを扱うはやてには解ってしまったのだ。

たとえ死にいたる怪我を負おうが、リンカーコアの再送還を行えれば、シグナムたちは復活出来る。

彼女達守護騎士と、この身はリンクしているのだ。


それなのに


それなのに


シグナムとヴィータが『感じられない』




消えてしまった




私の家族が




そして




親友が




「……や」

「主?」

「はやてちゃん?」

「マイスター!?」

「……いやや……そんなんいやや〜〜〜〜!



はやての叫びが響いた時、空間を揺るがせ、『闇』が地上に顕現する!

半球状の漆黒のエネルギーフィールド

それは闇の書の防衛プログラムを思い起こさせた

刹那

それから放出された莫大なエネルギーが荒れ狂い、島を破砕し、あらゆる物に襲い掛かった!



「!シャマル」

「はい!」


はやてをシャマルに預け、ザフィーラは迫り来る閃光の嵐に向かい、全力で防御魔法を叩き付けた!


ヌォォォォォォォォ!!



◇アースラ


「防御フィールド出力最大!」

「了解!」

アースラを包む不可視のフィールドに紫電が走り、可視光を歪ませるほどのエネルギーを展開させる。


場所がわるかったのか


それとも『闇』がそう意図したのか



アースラがフィールドを展開するのを待っていたかのように、空間を荒れ狂う閃光が収束し、


その船体を打ち抜いた


ズドドドドドドドド


「きゃああああ!」

「うわぁあああああ」

「ぐっ!」


ブリッジを叫び声が満たし、全てのシステムがダウンする。


アースラの巨体は、ゆっくりと、海上に向かって落下していった。



◇ザフィーラ・はやて・シャマル・リインフォース


グォオオオオオオオオオ!


ザフィーラのパンツァーシルトが、閃光から仲間と主を護る。

しかし、その身に掛かる負荷は極大。

盾を維持する魔力は滝のように流れゆき、それを支える体は朱に染まる。

僅かに抜けた閃光すら、彼の身体に致命的な打撃を加えていくのだ。


「ザフィーラ!も、もうやめぇ!死んでしまうやないか!」

「あ、主……私は…盾の守護獣……この身は、全て貴方をお護りする為に!」

「ザフィーラ…」

ザフィーラの声に、呆然としていたはやての瞳に力が戻る


【そうや、ザフィーラの命をかけた護りを無駄には出来へん】
【シグナムもヴィータもなのはちゃんもフェイトちゃんも、死んだと決まったわけやない!】
【私がこんなでどうする!何が蒼天の王や!】


はやては、リインフォースを見つめると頷きあった。

「リインフォース!ユニゾンや!」

「はい!マイスターはやて!」


ユニゾン・イン


はやての髪が銀を混ぜた色に染まり
瞳が蒼く変わる。
右手のシュベルトクロイツを振り上げ、声高らかに言い放つ!


パンツァーシルト!
〈ぱんつぁーしるとです!〉

ザフィーラの盾に重なるように はやての盾が現れ、閃光を押し返す!

押し込まれていたザフィーラの盾が持ち直す

ザフィーラは、笑みを浮かべて自分をを見つめる主の姿に、目礼を返した。


そのままであったなら、耐え切れた主従の盾。


だが、閃光の乱舞は更に過酷さを増し、蒼天の主従に襲い掛かる!


うぉぉおおおおおお!

ぁああああああああ!


シャマルの魔力もリンクさせ、盾の強化を図るが、それは焼け石に水だった。

再び盾が歪み、内へとエネルギーの本流が流れ込む!


【このままでは…耐え切れん!】
【…ならば】

ザフィーラは

覚悟を決めた


「シャマル!一瞬だけ、この嵐を押し返す!その隙にアースラに主をお連れしろ!」

「…わかったわ」

「シャマル!?」

…いくぞ!はぁあああ…らぁああああああああああ!


残り少なくなった魔力を放出し、全てを盾に注ぎ込むザフィーラ。

その盾は、一瞬、凄まじい輝きを放ち巨大化すると、閃光の嵐を押し返した!


シャマル!いけぇえええええええ!

「っ!!!」

ザフィーラァアアアア!


はやてを胸に抱え、嵐の隙間を飛翔するシャマル


それを確認したザフィーラの盾が


カシャン


乾いた音を立てて崩壊する


遮るものの無い彼の身体を


閃光が貫いた



……アルフ…すまん



◇アースラ


pi pi pi pi pi


非常電源は生きていたのか

薄暗く赤い光に照らされて、クロノは覚醒した


「ぐっ……まさか、あんなにあっさりと貫かれるとはな…っ!!!!」


立ち上がろうとしてを地面に手をついた瞬間、ボタボタと赤い液体が床に零れていく。

左の頬に触れると、そこから米神にかけて裂傷を負っているのが確認できた。


「…少し深いか」


海面に激突した瞬間、立ち上がったままであったのが災いし、コンソールに激突した時に切ったらしい。

痛みを堪えつつ、ブリッジを見渡すと、皆、うめきながらも身体を起こそうとしていた。

幸い、致命的な怪我を負ったものはいないようだ。


「エイミィ、無事か?」

「いったったった……あ〜、あんまり無事じゃない」


そう返したエイミィのコメカミからは、血が滴り、コンソールを汚していた。


「クロノ君こそ、大丈ぶ…じゃ、なさそうだね」

「僕のことはいい。それより艦内の確認だ。アレックス!動けるか!」

「え、ええ。なんとか」

「よし、エイミィはモニターの復旧を。アレックスは艦内の状況を!シュミット!セレンティア!君たちはどうだ?!」

「だ、だいじょうぶです」

「なんとか支障はないです」

「二人はアレックスのサポートを頼む。迅速に」

「「了解」」


「クロノ君、モニターの一部は非常電源で稼動できるよ」

「よし、外の様子を確認する」

「了解」

血を拭いつつコンソールを踊るエイミィの指先

スクリーンの右下に小さく展開されたウィンドウには


はやてを庇い、海へと落ち行くシャマルの姿が映し出された



◇シャマル・はやて・リインフォース


「ザフィーラ…なんでや…なんで…」
〈ザフィーラさん…〉

己が主を護る為に全力をつくした盾の守護獣。

その行為の意味も意義も解っている

それでも、何故、という言葉が止まらない


「はやてちゃん…リインフォース…」


主を痛ましげに見やるシャマル

そんな彼女が、其れに気が付いたのは、偶然だったのか、それとも必然だったのか

天から堕ちくる雷光が 主の身を貫く前に

トン

彼女の身体を軽く押し出せた

呆然とした はやての視界を閃光が貫き

優しき緑の風の癒し手は

荒れ狂う海の中へと落ちていった


「シャマルゥゥゥゥゥ!」



◇アースラ



落ちゆくシャマルを見たクロノが、艦長席のコンソールに拳を叩きつける。

画面の中では遅い来る閃光を必死に回避し、弾くはやての姿が…


「く、クロノ君!」


エイミィの声にも答えず、機関室に通信を繋いだ

「機関室!状況はどうだ!?」
『後10分、いえ7分下さい!』
「頼む!」

「ブリッジより各員へ!機関室の応急修理が終わり次第、現場より離脱する!緊急発進の衝撃に注意せよ!」


そのまま待機状態のデュランダルを確認し、歩き出すクロノ


「クロノ君!この状況でどこに行く気!?君は艦長なんだよ!」


艦内放送を行うと、踵を返し、ブリッジより出て行こうとするクロノに、エイミィの声が突き刺さった!


「…すぐに戻る」

「私は何処に行くのかって聞いたんだよ…」

「…もう…目の前で…失うのは…いやなんだ」

「………」

「………」

視線が絡みつく

クロノの睨みつけるような視線

エイミィの全てを見通すような視線

不意に、シートを戻し、正面をむいたエイミィは


「……4分…4分以内にもどってらっしゃい」


コンソールを操作しながら、そう告げた。


「…ありがとう、エイミィ」


振り返らず、手をひらひらさせる彼女に頭を下げると、クロノは駆け出した。

嵐に抗う少女の下へと。



◇はやて・リインフォース

〈マイスター!右から!〉
「いいかげんにし〜!?」

叫びながらパンツァーシルトを閃光に翳す。

細い糸のような閃光ですら、内包するエネルギー量は桁違い。

全力のパンツァーシルトで、どうにか持ちこたえるのが精一杯。

焦る

焦る

自分を庇ったシャマルを探して引き上げてあげんと

あのままやったら助からん

急げ

急げ

それでも閃光の雨は止まない


「なんで邪魔するんや〜〜〜〜!」
〈マイスター…〉

涙を払いながら、必死によけるはやて

その背後に、ザフィーラを打ち据えたものに匹敵する閃光が迫っていた


〈マイスター!!〉
「あ」


【だめや…間に合わんやん……いややな…これで終わるんか?】

視界を覆う閃光に、確実な死を感じた。

【ザフィーラにもシャマルにも、必死に庇ってもらって、この様?】
【あかん!死ねんのや!私は、絶対に死ねんのやー!!】

それでも盾を翳そうとするはやてを嘲笑うように閃光が迫り



蒼の双盾に受け止められた



「へ?」
〈マイスター!アドミラルが!〉


内なるリインの声に上を見上げると、デュランダルとS2Uを構えたクロノが流れ出る血も拭わずに、
懸命に術式を制御している姿があった。


「く、クロノくん?!」

「は、はやて…そこから…早く…逃げてくれ……もう、限界だ!」


脂汗を掻きながら懸命に声を絞り出すクロノの様子に、慌てて彼のところまで飛翔する。


それを確認し、クロノが術を解除すると、閃光は海へと突き刺さり、大爆音を上げて消えてゆく


「クロノくん、なんで艦長さんがこないな所にいるん!?駄目や無いか!」

「…説教はあとで好きなだけしてくれ。今はとにかくアースラに戻るぞ」

「……わかった。でも、もうこないなことしたら駄目やよ?」

「…ああ」


泣き笑いの表情で告げるはやてに、苦笑を浮かべて返す。


「さあ、少し落ち着いた今のうちにアースラに戻るぞ。もうすぐ応急修理が終わ
『クロノ君!後ろ!』

終わる、と言いかけたクロノの声を遮り、通信機からエイミィの絶叫が響く!

クロノとはやてが振り向いた先には、漆黒の壁が迫り来ていた!






to be continued




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