“次回予告”へ “終わり無き闇 第零話『嵐の前』”へ “第一話『若人達の休日』”へ “第二話『無限の真実。唯一の事実』”へ “第三話『死-The DEATH-』”へ “次回予告” 僕たちは、何も知らなかった、わからなかった、わかって、やれなかった--------無限書庫司書、ユーノ・スクライアの手記より-------- 訪れた平穏---- 「あ、あのですね、バルディッシュ、えと、その………………で、出掛けませんか?散歩でも、買物でも良いですから…………」 「ふむ……………良い提案だ。行こうか、レイジングハート」 紡がれる絆---- 「レイヴァン、ちょっと、ごめん……………」 「…………………何故、泣くのだ?……いや、良い。背中ならいくらでも貸してやろう……………なんなら胸でも良いが、な」 「………………時々、恐くなるのよ…………この平穏が、夢幻じゃないかって……………」 「…………くだらんな。今、俺達は確かに存在していた、今を生きてるんだ。現実に勝る事実等、存在はせん」 深まる、愛情---- 「ね〜〜ね〜〜デュラン〜〜」 「なんだ?あと首に抱きつくな」 「もし、もしも私が目の前から消えちゃったらさ、デュランは泣いてくれる?」 「泣かん」 「…………………そう、だよね」 「泣くより先に、お前を探す。お前を追う。そして、追い付く。ただ、それだけだ」 崩れる平穏---- 「----っ、闇からの歌姫捕捉っ!!!」 「よし、急行するぞ!!!」 「!?待って………………誰か……………戦ってる!?」 現れる謎の黒衣の魔導師---- 「……………?」 「どうしたんだよ、高町」 「あの人…………クロノ君に戦い方が似てる………………?」 響く、慟哭---- 「リィン?リィン!!しっかりしいやっ!」 「あぅ…………マイスター、泣かないで下さ…………」 「リィン?なぁ、リィン?リイーーーーンッ!!!」 揺るぎ無い決意---- 「本気かい、ユーノ・スクライア?」 「…………はい。あの時、僕がもっと強ければ、あんなことには----なのはも、はやても、フェイトも、クロノも、皆、皆傷つかなくても済んだはずなのに----」 「仲間のために、強なりたい、か。ええで。気に入った。特別に稽古つけたる」 「時空管理局最硬の結界魔導師----サクライの双子がね」 忍び寄る爪牙---- 「ふん。夜天の書のマスターは未だ健在、か。忌々しい小娘だ…………」 「言いたいことはそれだけか?」 「何ものだ!?」 「…………………時空管理局局長直属第零部隊隊長………………………」 破られる封印---- 「なに?闇からの歌姫の\が時空管理局から消えただと!?」 「えぇ、間違いないらしいわ……………」 仲間との、決別---- 「クロノ、か」 「コウ提督……………いえ、コウ・バークフリート、あなたは件のロストロギア闇からの歌姫紛失及び所属不明の黒衣の魔導師との関連性により出頭命令が出ています………………連行します」 「できるなら、な。構えろクロノ。俺が仕込んだ二杖流…………どこまでモノにできたか…………見てやろう」 思わぬ再会---- 「え……………」 「ちっ……………」 「お兄…………ちゃん?」 降りかかる災厄---- 「選べ、アースラ!!!今ここで俺を、バルムンクを落として地球が滅びるのを指をくわえて見るか、バルムンクとともに最後まで抵抗するかをっ!!!」 「……………………………」 「クロノ君…………」 「わかってるよ、エイミィ………」 別れ---- 「………………レイジング、ハート……………」 「……………はい」 「こんな形で……………お別れになってしまって…………済まない………」 「………………ゃです」 「だが……………最期に………………伝えたいことが…………ある」 「いやですっ最期、なんて、言わないで、下さいっ…………そんな、バル、ディッシュ…………きらい、です」 「今まで、ともに、戦って、きてくれて、ありがとう……………そして」 「私は----お前を----」 --------愛している-------- 「バルディッシューーーー!!!」 離別---- 「最後----守れ--------…………」 「くろ、の?」 「くろの、くん?」 そして、戦いは、終結へ-------- 「最終決戦、といこうか。なぁ、『DIVA FROM DARKNESS』よぉ!!!」 「開け、開け、十二の星の扉、二十四のクサビ、四十八の鎖----解き放て」 「…………フェイトさん、大丈夫ですか?」 「………………ありがとう、S2U----でも、もう大丈夫ですから----」 「………………行きましょう、マイマスター」 「うん。行こう、S2U」 「やれやれ、もう始まってんのかよ」 「………………………数億対、十数、か………………」 「行こう。彼等だけ傷つく道理は無いよ」 「…………胸糞悪いね……………殺し尽くすよ」 「はぁ、久々だよ、バリアアーマー装着したの」 「皆さん傷ついてます…………早く癒して上げたいです」 「やれやれじゃの。すずかの問題が片付いたら今度は」 「良いじゃないですか。派手な花火をお見せ致しますよ?」 「兄様…………皆さん、ご無事でいてください…………」 「先手を取ります……………ホーリー…………アローッ!!!」 「さぁ、終わりの始まりだ…………滅べよ、愚か者(魔物)どもっ」 舞い戻る----剣---- 「ごめん………クロノ………もうすぐ、会えるかな…………」 「あはは、クロノ君、ごめんな………私、まだまだやった…………そっちで稽古、つけたってな……………」 『ASSULT SHIELD!!』 『『TWIN BUSTER EX!!』』 「「え……………」」 「バル…………ディッシュ?」 「クロノ………君?」 譲れない、想い---- 「ふん、死人がいまさらっ………!!!」 「悪いが、もう好き勝手はさせない……………っ!!」 「ほざけ、小童がぁっ!!!」 「いくぞ……………イフリータ!!!」 『了解、あんなん速攻で吹っ飛ばすわよマスター!!!』 「シヴァ!!!」 『冷静に………けど確実に………アイツは、許せない…………』 「レイジングハート…………」 「伝えます…………私の、想い…………私は、バルディッシュのこと……………大好きです」 次回予告、『終わり無き闇』 楽しみにしてくれたら嬉しいかも………… “第零話『嵐の前』” 嵐というものは、起こる前兆として不自然な程の静けさがある。 一刻訪れる平穏、その後に吹き荒れる暴風。 嵐の前の静けさとは、嵐の様子を元に作られた言葉である---- 時空管理局のとある一室。 そこにはデスクワークに勤しむ一人の青年がいた。 「…………これで、よし、と。次は…………何?あんのバカまたこんな始末書書きやがって………家庭を持ってもかわらねぇな、あの自然発火能力者は………ったく、こっちの身にもなれよな………」 ブチブチと文句を言いながらの作業。だが、その顔には困ったような、何かに安堵しているような、そんな感情が入り交じった苦笑が浮かんでいた。 青年の名はコウ・バークフリート。時空管理局屈指のS級戦闘魔導師にして、若くして提督の地位に就く青年である。 S級戦闘魔導師にして、かの高名なアースラにも縁が深い彼の名は、実はあまり知られていない。 知る人ぞ知る、という人物なのだ。 しかし、彼の名や、その人物像が知られていないにも関わらず、彼にまつわる噂は非常に有名である。 『不死身の男が時空管理局にいる』 『不敗の名将』 『勝利の指揮官』 上げれば切りが無い。 閑話休題、とにかく彼は、時空管理局の一室で書類処理に追われていた。 ふと、彼がペンを走らせる手を止めた。 机上にある書類から眼を離さずに、口を開いた。 「……………やれやれ、だな。会いたくも無い来客、か」 と、言った瞬間、机の上に置かれた内線がけたたましくなった。 「私だ」 『コウ提督、リーフ提督がお越しです』 「……………はぁ、わかった」 来客者の名前を聞いて、憂鬱そうにため息をついた。 『時間をずらしていただきますか?』 「いや、いいよ。俺も朝から書類と格闘してたから、さすがに疲れた。休憩にしよう」 『ふふ、コウ君、素に戻ってますよ?』 「それを言うなら君もだろ?美味しいお茶を頼む」 『はいはい』 内線を切ってから一分、部屋の扉が開いた。 「頑張っているわね、コウ提督?」 「これはこれはリーフ提督、わざわざ足を運んでいただいて恐縮です」 「あら?皮肉のつもりかしら?」 「どうとでも取っていただいて結構ですよ」 表面上穏やかに、内実物凄い渋面を作って応じるコウと、物腰柔らかに応じる年配の白髪の女性。 共に応接用のソファーに向かい合うような形で座ると、今度はお盆の上にソーサー、カップ、ポットとクッキーを乗せた、茶髪をポニーテールにした若い女性が現れた。 「どうぞ」 「ありがとう」 「……………」 「あら美味しい。また腕を上げたわね」 「ありがとうございます」 「……………」 「………お茶の葉、変えたのね」 「えぇ。シオンのお勧めに変えてみたんですけど……お口に合いませんでした?」 「……………」 「いえ、気に入ったのよ。どこのかしら?」 「えっと、たしか………」 「……………っ」 だんっ、と、室内に音が響いた。コウが両手を机に叩きつけたのである。 「どうしたのかしら?」 「リーフ提督、茶を飲みに来たのなら良い喫茶店を教えて差し上げますが?」 「あら…………」 と、リーフは片手を頬に当てると 「寂しいなら言ってくれれば話題を振ったのに…………」 「論点違っ!?」 斜め上を行く言葉を返した。コウは驚愕の顔でツッコミ、ポニーテールの女性は顔を引きつらせている。 「大体何ですか、来客に向かってのその敵意丸出しの雰囲気は」 「えぇい、だから論点が違うと言っておろうに。そもそも俺が来客に向かって敵意丸出しにする理由だって婆さんならわかるだろうが!!」 「あら……………」 リーフはしばし考えこむと 「カルシウム不足ね………ちゃんと食べてる?」 「だ〜〜っ!!!胸に手を当てて考えてみろっ!!!」 「あらあら」 「なんで俺の胸に手を当てる!?」 「あら?」 「かといってミコトの胸に手を当てるなっ!!」 「だったら誰の胸に手を当てろと!?」 「自分の胸に手を当てろーーーーっ!!!」 ぜぇはぁと、肩で息をするコウ。対するリーフは涼しい顔で 「…………疲れてるなら寝た方がいいわよ?」 「誰のせいだっ!?」 「もう、そんなかっかするものではありませんよ?」 「はぁ、もういいよ…………で?」 「で、とは?」 「婆さんのことだ。またなんか厄介ごとを持ってきたんだろ?」 「あら人を疫病神みたいに…………」 「似たような」 「最近時空管理局内部に不穏な動きがみられるわ」 もんだろ、と続けようとした言葉は、そのまま飲み込まれることになる。 「また、かよ」 「また、よ。今度は厄介よ?どうやら闇の書事件において不満を持っていた一派がかなり大きく動くみたいよ」 「闇の書、ねぇ。もう六年も前に終結した事件を未だにひきずってるのかよ」 そう言って脳裏に浮かぶのは、暖かく微笑む少女と、彼女に仕える四人の騎士。 「と言うよりもどちらかというとアースラ自体に不満があるみたいよ」 「アースラに、ですか?」 「そうよ、ミコトさん。アースラは四年前、クロノ提督が艦長に就任して以来豊富な人材でもって数々の難事件を解決して来たわ」 「で、まだ若い連中が活躍していくのが気に食わない、と。やれやれ、やだねー、年寄りの嫉妬は」 「口が過ぎるわよ、コウ君?」 「へーへー」 とは言うものの、コウが言ったのはある意味本音であった。 若い者が活躍して何が悪い。アースラクルーが若いからといってその能力がそこらのボンクラ貴族の士官より格段に優れること、何よりその性格や気性が真っ直ぐで信頼できることは、長年の付き合いで百も承知なのだ。 「まぁ、いざとなったら貴方にも動いてもらうわよ?管理局の狗として、ね」 管理局の狗----彼を知る管理局上層部からつけられた、皮肉と若干の敬意を込められた銘である。 「はいはい。狗は狗らしく、上層部の言い付けを律義に完遂してやりますよ」 ため息交じりに、コウは返答した。 リーフと、コウの秘書官を勤めるミコトが部屋を退出してから、コウは机の上に両肘をつき、口の前で両手を組んでいた。 そして、彼以外何もいない部屋という空間に、言葉を投げつけた。 「久しいな」 『六年振り、だね』 単なる言葉の遠投、一方通行の相手がいないキャッチボール………つまり独り言のはずが、確かに返球が、返答が、あった。その返答は、肉声では無く、直接頭の中に響くような、念話のような声。 「やれやれ、だな。あのロストロギアを見たときにまさか、と思ったがな」 『いやはや勘が良いね。それでこそ敵対のしがいがあるよ』 「いつまで隠れているつもりだ?どうせ誰もいない」 そう言って、コウは立ち上がり、誰も----否、何も無い背後に振り返り---- 「----どうせ、俺はお前を殺せない」 恐ろしい位に冷たく、無機質な声で続けた。 「ふぅん。なんだ、わかってるんじゃないか」 今度は、肉声が返って来た。 同時に、何も無い空間に黒いシミができたかと思うと、瞬く間にシミが広がり、その中からヒトが這い出て来た。 「六年----長かったよ?」 「貴様らにとっては一瞬だろうが…………何故、今、復活している?」 「なんだいその質問は……もう少し再会を喜んでも良いんじゃないかな?」 「茶化すな」 冷たい声を投げつけられ、ヒトは----子どもにも、大人にも、男にも女にも見えるそれはやれやれと肩をすくめた。 「貴様らは確かに俺が、俺達が倒した----いや、壊した。復活するにも早すぎる。最短でも百年はかかるはずだ」 「そう、百年----長いよねぇ、本当に」 「……………」 「あぁ、怒らないでよ。これでも真面目なんだよ?」 「……………」 「そうだね………君達人間は、何があるから人間なのかな?動物は、何が故に動物?生命は、どうして生命なのかな?」 「戯れ言も」 そう言って、コウは右手を胸の高さまで上げ、手の甲を"それ"に向けた。 「程々にしておけよ」 五指に嵌められたデザインがバラバラな指輪が、まばゆい光を放ち、コウはその額に青筋を浮かべて、壮絶な笑みを浮かべていた。 「おぉ、恐い怖い。答えは、『成長』」 全く怖がる素振りも見せずに、"それ"は唄うように続ける。 「君達は生きていく中で、常に小さくても、成長していく。背が伸びていくように、新たに知識を増やしていくように、一人で立つようになるように」 「まさか」 「そのまさか、だよ」 "それ"は先程のコウに負けない位に壮絶な----喜色満面の笑みを浮かべていた。 「僕たちも、『成長』したのさ」 絶句。コウの顔が無表情になった。 それを見てより一層笑みを深くした"それ"は続ける。 「楽しみにしなよ。破滅の始まり、絶望の連鎖、終わり無き闇の始まり----いや、そんなのこの舞台には相応しくない。ドラマが、テイルが、ストーリーが始まる。舞台は世界。主演は未定!出演も未定!!白紙の脚本は最後に『破滅』という名の幕引きだけが予定されている!!!」 最後には叫ぶように、"それ"は冴えずる。 「さぁ客を招待しろ舞台の準備をしろ出演の依頼をしろ幕を上げろぉっ!!!ぶっつけ本番リハーサル等無い筋書の無いただエンディングのみが決められた演題をありのままに自分らしく惨めったらしく演じろよ人間ンンンンンッ!!!」 くつくつと。彼は、コウは笑っていた。 「何がおかしい?何故笑う?何故笑える!?」 「くくく、はーっはっはっはっは!!!」 「気でも狂ったか、人間」 「筋書の無い、ただ終焉へと向かう劇だと?笑わせるなよ、『闇からの歌姫』」 その眼には、強い光。 「筋書が無いのなら作れば良い、自由が与えられたなら、自分らしくあれというのなら好きな様に進めば良い」 決意の、光。 「エンディング?知るか、そんなもん。破滅?知るか、そんなもん!」 ただ前だけ見据えるその眼には、迷い等、無い。 「気に食わなければ薙ぎ払う。運命すらもねじ曲げた。故に俺は今ここにいる!!一度ねじ曲げた運命だ、再びねじ曲げれない道理が無い!!!」 「恐れろよ『歌姫』。世界は終わらない。人間は絶望しない。脚本は書き換えられる!!"ハッピーエンド"になっ!!!」 「できるのかい?"バッドエンド"は僕たちを倒す----否、完全に消すことだよ?」 「できるさ」 「六年前の三割しか能力が無いのにかい?」 「できるさ」 「くくく。だから君は楽しい…………さぁ、サイは投げられた、せいぜいあがけよ、『真理』を理解する者、『 』に最も近かった人間!」 「あがいてやるさ。そして、失せるんだな。この世界から!!!」 「楽しみにしてるよ………君が絶望するのは………すぐ、そこ………」 そして、部屋にはコウのみが残った---- 続く アトガキ えっと、なんだこれ? え、なのは?なのははどこ? え、なにこのオリキャラ満載独自設定。 えっと、ごめんなさい。 つかさ、ちょっと暴走しすぎたね。うん。 ついでにバラ蒔きまくった伏線。良い芽が生えると良いな(ぇ まぁあれです。プロローグみたいな? 因みにミコトさんはまた出てきます。 あ、あと第一話はレイジングハート×バルディッシュ、なのは×ユーノがメインに…………なるかな? “第一話『若人達の休日』” ユーノ・スクライアという少年は多忙である。 弱冠9歳という若さで無限書庫に勤務し始め、六年経った今、書庫内の地位は副司書長という、非常に有能な司書である。 また、魔導師としても----補助、結界、防御に関してだが----優秀であり、時空航行L級8番艦アースラの任務に随行したりもしており、目立たないが確実な功績が有った。 さて、そんな彼には恋人がいる。 今日も雑務処理の傍らにはその恋人の姿が有った。 高町なのは----六年前にユーノと出会い、以後二つの大事件、『PT事件』及び『闇の書事件』を解決に導いた後在野から管理局入りした、ランクAAAという高ランクかつ非常に珍しい『単独戦闘可能砲撃魔導師』である。 六年前入局し、今では戦技教導官としても、武装局員としても有名である。 さて、二人ともかなり有名な訳である。 しかして彼等には個々の功績、高名よりもさらに有名----いや、もはや名物とまで昇華されたものがある。 それは---- 「…………………」 「…………………」 「ユーノ君」 「なに、なの」 「えへへ、引っ掛かった〜〜」 「あの、なのは、か、顔が近い………」 ----『初々しいバカップル』である。 この二人、揃うと何か他者を排斥、近寄らせない不可視のフィールドを展開し、その中で甘ったるくうへぇな空気を放出しまくるのだ。 そのため、二人の付近には他の司書は見当たらず、皆一定の距離を開け、二人を見ないようにして作業に従事している。 と、そんな中………… 「ユーノ副司書長」 勇猛果敢にもそんな二人の間に割って入る青年がいた。 黒く、膝にも届く程長く、真っすぐな髪を首の後ろで纏めた、眼鏡の青年であった。 「はい」 「おや、邪魔してしまったかな。すまない。昨日預けておいた書類はどうなったかな?使うのだが……」 「あ、できてますよ。こちらになります」 「おぉ、ありがとう。悪いね。今度何か奢ろう」 「いえ、良いですよ」 「まぁそういわずに。地球でカップルにお勧めなメシ屋を教えよう。それととびっきりのコースを教えてあげるよ。その方がいいだろう、お嬢さん?」 「あ、いえ、その………はい」 突然話を振られ、どもりながらも返答するなのは。が、疑問も浮かんだ。 「ユーノ君、この人は……」 「あ、初対面だったっけ。えっと、こちら無限書庫司書長の」 「ウィング・プリベンダーといいます。始めまして、『時空管理局の白い悪魔』、高町なのはさん」 「し、白い悪魔て……」 「おや、違うのかな?コウがしばしば『白い悪魔高町に振り回されっぱなしだ』だと……」 「コウさんとお知り合いなんですか?………あと、コウさんには訓練に付き合ってもらおう」 小声で言ったセリフも聞こえたのか、司書長は笑う。 「程ほどにしといてあげてくれたまえ?君、AAA……いや、もうAAA+か++かな?それくらいだろう?」 「え、なんでわかるんですか?」 「司書長は一目見ただけでランク……って言っても魔力量なんだけど。それがわかるんだって」 「昔取った杵柄というやつでね」 司書長は肩をすくめて言う。 「あ、あと………地球でお勧めの店って……地球出身なんですか?」 「いや、冥王星」 「「は?」」 真顔できっぱり言われたのは最近になって太陽系の惑星から外された地球からもっとも離れた星である。なのはは唖然としているし、流石のユーノも目を丸くしている。 「というのは冗談で」 「ですよね」 「冥王星ってガスの塊だった気が……」 「私はミッドチルダの出身だよ。地球は最近のお気に入りでね」 食べ歩きなんかもよくしているのさ、と司書長は続けて笑った。 「そろそろお昼の時間かな………二人とも、食べに行くといい」 「え、でもまだ作業が残って………」 「未分類書架の分類だろ?お兄さんに任せときなさい。年上の言葉には従っとくものだよ、少年」 「………はい」 そして、両手で頷いた両名----なのは、ユーノの頭をぽんぽんと軽く叩いて司書長は微笑むと、探索術式を展開させた。 「うわぁ……」 なのはの感嘆の声が上がる。司書長から深い蒼の魔力が噴きでたかと思うと、彼の周囲----全方囲に百近い本が浮き、開かれ、物凄い勢いでページがめくられていった。 「う〜〜、司書長さんすごかった〜〜」 「うん。何度見ても凄いよ、司書長は」 二人は時空管理局の廊下を歩いていた。なのはは興奮冷めやらぬと言った調子である。 「ユーノ君もあれ、できるんだよね?」 あれ、とは同時に何冊もの本の内容を読んでいく探索術式である。 「う〜〜ん、できなくは無いけど、最大は十三冊かな?それ以上は無理かな〜〜」 「そうなの?」 「十三冊を越えると脳が処理しきれなくなっちゃうんだよ。その点司書長は化け物だよ。スピード、物量、段違いだもの」 苦笑の色が濃い笑顔のユーノ。最近では司書長は本当に人間ではない気もしてきている。 「う〜〜ん。あんなに凄い魔導師、司書長さんがいるなんて知らなかったよ。普段は無限書庫にいないの?」 「いや、司書長はたまにいなくなるけど基本的には無限書庫にいるよ」 「じゃあなんで会ったこと無かったんだろ?」 「いや待てよ………ねぇなのは。今までに無限書庫内でとんでもない高さ、それこそ大人二人分位余裕で越しそうな位の高さまで積み上げられた書類の山って見たことある?」 「え?う〜〜ん………あぁ、うん、しょっちゅう見てるよ〜〜そいえばあれって、何なの?」 「……………それが、司書長だよ」 「え!!司書長って実は書類……」 「違う違う。その中に埋もれてるの。仕事が多すぎるらしいよ?」 「へ、へ〜〜」 「あれ?そういえば今日はレイジングハート一緒じゃ無かったんだ?」 「うん。今日は家にバルディッシュが来るって約束してたから。それに、いざとなったら呼び出すから」 「ふ〜〜ん………なら、時間に余裕はあるんだ………」 「うん!!だからデートに行きたいな〜〜、なんて………」 「うぅ、でも仕事がなあ……ん?」 と、落ち込みそうなユーノの通信端末に一通のメールが届いた。 「なんだろ………あ、司書長からだ………仕事に関してかな………へ」 「何々?どーしたの?」 メールの内容を公開しよう。 『今日は上がっていいよ。お疲れ様。 励めよ若人〜ご利用は計画的に〜 お節介司書長より』 「あはは……お見通しだったみたいだね……」 「…………行こうか、デート」 「うんっ!!……?ユーノ君、またメールが……」 『行ってらっしゃい。 あ、因みに海鳴市の〜〜にある『アルテミス』って喫茶店はお勧め。メシが旨いよ。マスターに私の名前を教えればオススメ裏メニューが出るよん♪ 壁に耳あり障子に目ありな司書長より』 ユーノとなのはは周囲を見渡すが、誰もいなかった---- さて、ところ変わってここは地球、日本、海鳴市の高町家。 その縁側には二人の男女がいた。 男性は外国人と見られる、黒髪の先端を金に染めたような青年。 女性はまだ少女とよべる、中学生位の、紅に近いピンクの髪の女の子。 バルディッシュとレイジングハートは、高町家の縁側でひなたぼっこをしていた。 「良い天気です」 「………うむ」 「猫さんです」 「………うむ」 「お茶が美味しいです」 「………うむ」 「……………」 「……………」 「……………」 「…………zzzz」 「寝ないで下さい」 「…………む?」 「暇です」 「………うむ?」 「退屈です」 「………では昼寝はいかがかね。こんな日はよく眠れるぞ」 「時間が勿体ないです………わわ」 「まぁそういわずに」 ごろんと仰向けになるバルディッシュ。倒れるときにぐいとレイジングハートの腕を取って一緒に倒す。 「ん〜〜」 「良いものだろう?最近のお気に入りというやつでな」 どうやらバルディッシュ、人間形態ではもっぱら昼寝が趣味らしい。 「…………むぅ」 「どうしたのかね?」 「いえ、頭が少し……床が堅いからちょっと痛いです」 「ふむ………では、使うかね?」 と、バルディッシュは自分の腕を差し出した。俗に言う腕枕である。 「あぅ………い、良いんですか……?」 「なに、気兼ねすることはない。減るものでもないさ」 「では………お言葉に甘えて………」 レイジングハートはちょっと顔を紅くしながら頭をバルディッシュの腕枕に乗せた。 と、そんな二人を凄まじい形相で穴があくほど睨んでいる人物が一人。 旧姓高町、現月村恭也である。 今日は高町家に遊びに----というかぶらりと立ち寄ったのだが、運の悪いことにこのシーンにぶつかってしまったのである。 さて、だが所詮他人の恋路、さらに言うなら恭也は既婚者である。 なのにどうしてこんな状態かといえば、それはあの、デバイス人間化事件から数日が経った日にまで遡る。 本来、レイジングハートはデバイス形態でいようとなのはと決めてあったのだが、母である桃子の鶴の一声で、高町なのは、母方の従姉妹、「高町レイ」として家では人間形態でいることを義務づけられたのである。 因みに高町桃子の弁解として 『可愛いじゃないの。美由希やなのはともまた違った女の子………こんな娘も欲しかったのよね〜〜♪』 とのこと。反対意見はでなかった。というか出せる訳が無い。何時の世も母は強いのである。 となゆうことでなのはの従姉妹としてレイジングハートは高町家に籍を置いているが、そこで問題になったのは月村家に婿入りした兄、恭也の存在である。 この旧姓高町現月村の恭也さん、黙っていればカッコイイし強いしと文句なしのお兄さんなのだが、欠点というか、数多ある問題点の中に、非常に厄介なものがあった。 それは 『類い稀なる重度の兄属性』 ちょっと恰好よく言うと『ヘヴィ・シスターコンプレックス』 あんまり恰好よくない。 そう、何故か恭也は自身にとって妹のポジションにいる人間が関わると非常〜〜〜〜〜にアホになるのだ。 もはやシスコン過ぎて気持ち悪い位に。 現状の対象としては高町なのは、月村すずか、そしてレイジングハートである。 対象に近づく不埒な野郎がいたらデストローイ。 逃げたら逃げたでサーチアンドデストローイである。アホである。 しかも並大抵の野郎ならデストローイできる戦闘力を持っているからさらに頭がいたくなる。 …………因みに、先日から高町なのは、ユーノ・スクライア両名が恋人同士になったのだが、その折りに恭也は大暴走しており、ユーノの要請によりコウが出撃して熱いバトルが繰り広げられた。 しかし、実は妹がいるコウ。意気統合した二人がユーノに襲いかかったというから大変頭が悪い。二人してダメダメである。ダメ兄貴である。 最終的にコウの妻、シオンと恭也の妻、忍が二人を止め、トンデモな説教がされた。哀愁漂う兄馬鹿二人を哀れむ人間はいなかった。やはり母というか妻というか、女は強いのである。 また、この事件はアースラチーム及び巻き込まれた方々の間では『兄の乱』として語られている。これまた非常に恥ずかしい。 まぁそんなことは置いといて。 そんなちょっと間違えればアブナイ人の恭也の前でそんなことをしているバルディッシュ。 えぇい我慢ならんと手近なものを投げちゃると辺りを見回す恭也だが、生憎良いものが無い。 「ちっ、碁盤でも有れば」 何をする気だ。そんなことしたらジャンルが『魔法少女リリカルなのは』から『リリカルサスペンス』に変わってしまう。 「…………………」 しかし恭也は諦めない。恭也は隠し持つ小太刀に手をかけようとして………… 「やめなさい」 妹・高町美由希の踵落としを見事に脳天に食らった。いたい。これは痛い。 何故か静かに転げ回る恭也。何気に血が出てる気がするのは間違いではない。どうやら小太刀を抜こうとしたところを蹴られたせいで手を切ったらしい。自業自得である。 美由希はため息を一つつく。 「レイちゃん、バル君。暇なんだったら出掛けてきなよ」 言われた二人はうつらうつら。もうすぐ夢の国である。 因みに、なのは、フェイト、はやてが魔導師と知っている者はバルディッシュや他のデバイスの正体を知っている。 「ふに………」 「……………?」 ダブルで目を擦りながら身を起こす二人。バルディッシュは見掛けに反しやたらと幼さを感じる。それもそうだろう。彼はまだ生まれて十かそこらなのだ。 「あぅ………ふぁ………危うく寝ちゃうとこでした〜〜」 「………眠」 「ほらほら。若い子がそんな日向で丸くなって寝てないで、元気よく遊びに行きなさい?」 「はいです……てバルディッシュ、寝ないで下さいって」 「……………やだ。ねる」 「キャラが違いますよバルディッシュ〜〜」 「顔を洗ってくるといいよ。洗面所、わかるよね」 覚束ない足で洗面所へ向かうバルディッシュ。残されたレイジングハートと美由希はそのようすに苦笑した。 「な〜〜んか普段と違うよね、バル君」 「はい………バルディッシュ、普段はもっと周囲を警戒してるっていうか………もっと堅いのに、あんな風になったの最近……しかもうちに来たときだけです。」 「へぇ………」 美由希はレイジングハートの言葉に感嘆の意を示すと、途端に意地の悪い顔になった。 「レイちゃんが近くにいるときだけか〜〜……信頼されてるんだね〜〜」 「はい」 即答。 ちょっとからかおうと思っていた美由希は思わず滑りそうになる。 「?どうしたんですか?」 「い、いやちょっとね………にしても、私だけか〜〜」 「何がですか?」 小首を傾げながら尋ねるレイジングハート。 美由希は深くため息をついて口を開いた。 「なのはにはユーノ君、レイちゃんにはバル君っていうお相手がいるけど、私はまだいないのよ………はぁ、妹のみならず従妹にまで先を越されるとは………」 肩を落とし、うなだれ気味に深いため息と共に吐き出した言葉。 それから一拍置いてから ぼんっ、と。完熟トマトよろしくレイジングハートの顔が真っ赤になった。 収穫時である。 それからレイジングハートはわたわたと無意味に手足をバタつかせ、空を切りながら 「ななななななにをいってるんでしゅかみゆきおねーしゃん」 と宣った。かみかみである。 「え……だって二人ともオフの日はいつも一緒じゃない。なのはに負けない位甘ったるい空気を醸し出してるし……」 「い、色ボケマスターと淫獣と一緒にしないでください!!」 酷い言いようである。 「そ、それに………」 「何気に毒舌ねぇ………それに?」 「……まだ、そういう関係じゃありませんよぅ……」 その言葉で再び眼鏡をきらめかせる美由希。見事な光反射である。 「まだ、ねぇ………レイちゃんってバル君のこと好き?」 またも一拍置いてから ばふんっ。完熟トマト第二弾。そろそろ熟れ過ぎた感も出てきた。 えまーじぇんしーえまーじぇんしー、完熟トマト『レイジングハート』をしゅうかくせよ。 「…………ふ、ふぇ」 「いっつも一緒だもんね〜〜気にならないって言ったら嘘になるよね〜〜」 生き生きしている。水を得た魚の如く生き生きしている。昔は大人しい文学少女だった美由希も、六年の月日で若干変わったようだ。 そう……よりいぢわるに。 ----高町美由希、現在フリー、趣味は読書と………妹いぢり。 しかしてそんな会話はここでしちゃいけない。 するなら修学旅行の就寝時間の後で布団に入りながらである。 ここにそんなことを聞いたら色々と暴走してしまう兄が一匹………… 「…………………ふぅ」 そんな一匹は、和室のタンスを頑張って動かしていた。 目的地まで運んで汗を拭う。ふぅ、良い汗かいた。 人生の先輩として色々とアドバイスする美由希。熱心に聞くレイジングハート。居心地悪そうに、かつ苛立った様子の恭也。 そんな和室に、顔を洗ったバルディッシュが戻ってきた。 まだ若干眠そうに目を擦りながら、幾分ハッキリした意識で襖を開け、中に入って………… がんっ ごろごろごろ がんっ ごろごろごろごろごろごろ 足が、足がぁぁぁぁぁぁ!!! さて、何が起こったかわからないだろうから説明しよう。 襖を開け、何の疑いも無く和室に入ったバルディッシュ。そのまま足を踏み出したところ、そこにはタンスの角が。 そして足の小指を強打。 いくら普段から鍛えているというか鍛えられている閃光の戦斧でも痛い。 むしろ未体験故に余計に痛い。 激痛に悶え転げ回っていると今度は額をタンスの角に強打。余計に痛い。 最後の足が……は言ってない。でも多分そんな感じ。 実際は無言で転げ回っている。 そしてそんなバルディッシュを見て慌てるレイジングハート。あわわ救急箱救急車霊休車マリー、マリー、へるぷみー。見事にテンパっている。 そんなレイジングハートを諌める美由希。はいはい落ち着け落ち着け死にゃしないから。ただ単に痛いだけだから。 バルディッシュの様子に茶を啜りながらほくそ笑む恭也。しめしめうまくいった。ざまぁみやがれ妹に手を出す奴は許さん。 三者三様。 恭也はそれで良いのかと問い詰めたくなる。 眠気は吹っ飛んだ。しかしいっそ気絶させてくれと言いたくなったバルディッシュは、痛みが治まると立ち上がった。ちょっと涙目である。 「…………このタンスはこんな所には無かったと記憶しているのですが」 毅然として言うが涙目だからかっこよさ、凛々しさ半減である。 「そういやそうよね。私とレイちゃんは話をしてたから動かしてないわよ」 「動かしてませんよ?」 今タンスが動いていたことに気付いた二人。 その証言の元、三人は一斉に恭也を見たが きょーやくん人形(月村家謹製) いない。 いるのはちみっこくデフォルメされた恭也の人形(全長三十p)のみである。 そして何故か天井から落ちてくる一枚の紙。ひらひら。 バルディッシュがそれを取り、見てみるとこう書いてあった。 『お茶ご馳走様』 逃げた。これはいい逃げっぷりですねと評価できる。 置き土産と書き置きを残していく辺り紳士である。しかし絶対に恰好良いとは言いたくない。だって兄馬鹿故の犯行とそれによる糾弾から逃げたんだし。 バルディッシュは無言で紙を畳み、静かにきょーやくん人形を手に取り、縁側に出ると人形を宙に投げた。ポイッとな。 そして腰のホルスターを出現させリボルバーを引き抜くとそのまま6発弾丸(魔力弾、非殺傷設定)を叩き込んだ。 この間2秒。スペックの無駄遣いかもしれない。 バルディッシュが地に落ちたきょーやくん人形を静かに眺めている間にレイジングハートはタンスを元の位置に戻した。レイちゃんは力持ちなのです。 ちょっと昔憧れていた自分の兄の最近よく見る馬鹿さ加減に頭がいたくなった美由希はレイジングハートの肩を二回叩いて励ましてから自室に戻った。頑張れ若人。我が屍を越えていけ。 そしてレイジングハートはちょっと気合を入れるとバルディッシュの横に立った。薄く汚れたきょーやくん人形はこの際無視した。 「足、大丈夫ですか?」 「……………うむ」 「額、大丈夫ですか?」 「………………微妙にこぶができたらしい」 「あらら………」 「全く、恭也さんは…………」 「あはは………すいません………」 「何、気にするな。君は悪くないさ」 何気ない会話。でもそれで充分だとレイジングハートは思った。 「…………ふむ………眠気も吹き飛んでしまったし………どうしたものか」 顎に手を当て、バルディッシュは少し考え込む素ぶりを見せた。 今日はゆっくりしろとサー・フェイトから言われているし、レイジングハートの予定次第では図書館にでも行くか?いや待てよ。クロノが新しく本を買っていたな。貸してもらおうかな。 着々と予定を組み立てるバルディッシュ。 そんなバルディッシュに、レイジングハートは少しもじもじとした後話し掛けた。 「あ、あのですね、バルディッシュ、えと、その…………で、出掛けませんか?散歩でも、買物でも良いですから……………」 少し頬を朱く染めて、上目使いにレイジングハートは切り出した。 一瞬呆けた様にその表情を見つめたバルディッシュは、自分の中で築いていたプランを全て叩き潰して微笑んだ。 「ふむ……………良い提案だ。行こうか、レイジングハート」 夜の闇に包まれたミッドチルダ。その中を黒く長い髪を束ねた眼鏡の青年が髪をなびかせながら独り歩いていた。 青年はふと気付いたように路地裏に入ると、迷わずに表通りから離れ、とある工場に足を向けた。 たどり着いた工場は誰もいない、人気どころか野良犬の気配すらしなかった。 しばし青年が周りを見渡していると、携帯が鳴った。 そのメロディーは、最近の日本で人気の曲のものだった。 「ファースト」 青年は電話に出るなりそう言った。すると 『フィフス』 電話の向こうにいる人物も、同じようなことを言った。 「内容は?」 『[バカ野郎]から伝令。[反応有り、警戒せよ。第三ロックまで解除承認。]、同じく[バカ野郎]より[市民には被害を出すな]とのこと』 「やれやれ、何を当たり前のことを………」 と、目を閉じてため息をつきながら、青年は半歩体をずらした。 同時に、振り降ろされた何かが数瞬前まで青年が立っていた地面を粉々に砕いた。 地面が砕けるのと同時に、携帯を片手に青年は右足で背後の空間を蹴りつけた。 そこには黒い何かで身を覆い、朱く光る瞳を輝かせた魔物がいた。 蹴りをくれた後、青年は大きく跳びずさった。 そして目を走らせると、二十体程の黒い魔物に囲まれていた。 『状況は?』 「接触」 『武運を』 「了解」 短くやり取りすると、電話は切れた。 眼鏡の青年は携帯を着ていたロングコートの内ポケットに仕舞うと、別な内ポケットから銀色に輝くボトルを取り出した。 そして中に入っていた液体の一部を手にたらし、濡れた手を振り抜いた。 「----術式展開、万物の根源を水とし、我は結界を紡ぐ」 蒼の魔力光を身から噴出させながら、青年が呟くと、周囲に人払い、認識阻害、魔力感知阻害の結界が張り巡らされた。 結界を張り終えた青年は残ったボトルの中身を空中にばら撒いた。すると、中に入っていた液体----水がいくつかの球体となって青年の周囲に浮いた。 「----術式展開、我流。万物の根源を水とし、我は其を矛とし盾とする----」 呟き終わると同時に、青年に魔物が殺到した---- 『----フィフスからジャックス、聞こえているか[バカ野郎]』 『こちら[バカ野郎(ジャックス)]、報告は』 『ファーストが接触。工場区第二十二エリア』 『了解した。[フォース]を向かわせる』 『…………いや、いらねぇんじゃねーの?』 『素に戻ってるぞ、フィフス』 『おめーもだジャックス』 『…………気にするな』 『…………気にしないでおくか。貸し1な。今度酒奢れ』 『…………考えておくよ』 『それじゃ』 to be continued.... あとがき 後半はちょっとおちゃらけました〜〜 美由希とか恭也のキャラが違いますよと言わないで。お願いします。 であであ。 えぬじーしーん 「----術式展開、我流。万物の根源をタレスとし、我は其を矛とし盾とする----」 ……………… 「…………………………あれ?」 万物の根源を水とする----古代ギリシャ、ソフィストの一人、タレスの『万物の根源は水である』より---- ちゃんちゃん。 おまけその二 「何やってたんですか?人形を打ち抜いてましたが………」 「なに、ちょっと、な」 その夜---- 「あだ、いだだだだだだっ!?」 「忍お嬢様、恭也様はどうしたのでしょうか?」 「さぁ…………」 “第二話『無限の真実。唯一の事実』” 生きていく中で、様々な事象や事件を人は経験する。 そんな中で人は起こった事象から何らかの『真実』を見出だすものだ。 例えば、『原因』。例えば、『結果』。 起こった事象が正しいものだと、当然のものだと捉らえる者もいれば、起こった事象は正しくない、有り得ないと捉らえる者もいる。 それらは全てその人にとっての『真実』である 故に『自分にとっての真実』をぶつけ合ったとき、時として激しい軋轢が生じることもしばしばだ。 しかして、この世には数少ない『絶対』といえるものがある。 それは、『事実』。 「@が起こり、Aの結果が残り、Bという事態を引き起こした。」 という事象が在った場合、それが事実である。 中略 …………というように、ただ純然たる『事実』がこの世を支配し、構成しているのである---- 「…………なんというか………わっけわかんね…………」 八神家、リビング。 そこにとある哲学の本を開きながら軽い頭痛を抱えている青年がいた。 戸籍上の名を、『レイヴァン・パンツァー』といった。 御察しの通り、炎の魔剣、ベルカ式アームドデバイス、レヴァンティンである。 彼がこのような戸籍を持つ理由を説明しよう。 レイジングハートが『高町レイ』としての立場を手に入れてから開かれた、『翠屋奥様会議』にて、レイジングハートのことを聞いたハラオウン家奥様リンディと八神家代表シャマルが我が家でも採用しよう、としたのだ。 ハラオウン家ではやはり母は強しということでバルディッシュはフェイトの従兄弟、『バルディッシュ・テスタロッサ』として、デュランダルは恩師ギル・グレアムの甥の『デュランダル・グレアム』として、S2Uはハラオウン家の遠縁に当たる『エスリン・ソングス』として、普段は人間形態でいることを義務づけられた。それぞれ日本に留学しにきたという設定である。 そしてシャマルも家族会議を開いて提案した所、主であるはやてが賛同したためヴォルケンリッターに反対意見が出るはずもなく、可決となったのだが---- ここで問題が発生した。 八神家は元々ははやてが一人で暮らしていたため、かなり広く感じられていたが六年前、彼女に『家族』ができてからはちょうど良い位になった。 しかし、このザフィーラ含め六人の家族に加えさらに四人の家族を加えるとなると厳しい。場所的にも厳しいが、世間体的にも厳しい。 現在八神家は以下の様な家族構成と設定になっている。 『長男・八神ザフィーラ、近隣の市街地で働いており、よく帰ってくる』 『長女・八神シャマル、家事手伝い』 『次女・八神シグナム、剣道場師範講師』 『三女兼おかーさん・八神はやて、中学三年生』 『四女・八神ヴィータ、実は飛び級で大学を終えているため学校に行ってない』 『五女・八神リイン、まだ幼稚園』 いくらか厳しい点もあるが、その辺は時空管理局の情報部がなんとか雛形を作り、それをコウ・バークフリートがさらにごまかした、というものだ。 知り合いに強力なコネがあったためヴィータはなんとかなった。 さて、これ以上八神姓が増えるとただでさえ怪しいと近所に見られそうなのに、さらに苦しい状況になりそうだ。 諦めるしかないかと諦めかけたのだが、そこで黙っていない男がいた。 勿論コウ・バークフリート提督である。 彼は相談を持ち掛けられ、諦めそうになっていると聞くと、三日間ほど姿を消した。 そして姿を表すと、架空の戸籍をこしらえてきたのだ。 因みに彼はその三日間で何があったのかは決して言わない。ただ、『…………姫の相手につかれた…………』とぼんやり呟いていたそうだ。 まぁ、過程はどうあれかくして『アイゼン・パンツァー』を祖父、孫として『レイヴァン・パンツァー』、『シュベルツ・パンツァー』、そして親戚の『クラールヴィント・シュラーク』は誕生したのである。 何故クラールヴィントだけ親戚扱いかというと、その方が面白そうだから、らしい。 また、八神家から徒歩一分程の所の空き家を買い取り、そこをパンツァー家の家とした。家なんか買い取って大丈夫なのかとはやてが聞いたが、 「多分経費で落ちるだろうし、落ちなかったら俺が自腹を切るから良いよ〜〜」 とのこと。付き合いができてから五年間、やっぱりコウ・バークフリートは良くわからないことが多い人物であった。 「あーーーーっ、止めだ止め!頭イテェッ!ったくよ、誰だこんな小難しい本を書いたの」 表紙には『真実と事実』と銘打たれ、著者は『SHARIOY』とあった。 「しゃ……りおい?聞いたことねぇな………ま、無限書庫から掻っ払ってきたもんだしな」 何気にダメダメな発言をして、レヴァンティンはソファに横になった。 彼の主は近所の剣道場の師範としての仕事に出掛けている。 使われることも無いが、それは逆に鍛えれないということでもある。 さてどうしたものか、と考えてみると、存外早く答えは見つかった。 「鍛練すっかな…………」 そう言って彼は自室から一本の木刀を取ってきた。 そして庭に出ると仮想敵を眼前にした剣術鍛練を始めるのだった。 海鳴市内のとある剣道場、そこでは子ども達の元気な声が響いていた。 「----よし、そこまで!!三十分の休憩の後模擬試合を行う。水分補給を怠るな」 胴着姿のシグナムがそう言うと、子ども達はそれぞれバッグからドリンクを取り出して飲みながら談笑したり、手洗いに向かったりした。 そんな中でシグナムは向上心が高く、何かアドバイスをと話し掛けてきた数人の門下生と会話していた。 そんな中---- 「頼もー!!」 ----現代において漫画の中でしか聞かないような声が玄関の方から聞こえた。 その声は若く、そして低いがどこか陽気な色を多く含んだ声だった。 周囲の門下生がざわつく中、シグナムが振り返り、我が眼を疑った。 「----レヴァンティン!?」 「?誰だそいつぁ?」 視線の先、玄関にいたのは少し肌が黒いのと髪の紅が強くなっていること以外を除けば、彼女の魔剣、レヴァンティンの人間形態に瓜二つであった。 「あの、どういった御用でしょうか?」 「あ〜〜すまねぇな、驚いたろ。だから怯えねぇでくれ。別に取って食いはしねぇから」 バリバリと紅く逆立った髪の頭を掻き毟りながら、青年は困ったように笑った。 そして青年はシグナムに視線を向け----彼女は悟った。 こやつ----ただ者では、無い。 纏う軽く明るい雰囲気により見逃しそうになるが、その瞳の奥にある鋭い光、そして一見軟派そうに見える構えには一寸の隙も見当たらない。 何者だ、と思案を巡らせていると---- 「おぉ!!マジで美人さんじゃん♪それに目茶苦茶つえぇってのも嘘じゃねぇみてぇだし…………ツイてるゼェ♪」 「…………何?」 「おぉ、怒った顔もまた素敵だねぇ♪」 「貴様ッ!!」 前言撤回、見掛け通りちゃらんぽらんな男のようだ。 「おっとストップ。そう怒らないでッと。あんた師範………代かな?若しくは雇われ講師?どっちでも良いや」 「何をごちゃごちゃと………」 「一剣士として、手合わせ願いたい」 「----っ!?」 「当方腕に自信ありて、只今武者修業の最中にあり、海鳴に相当な実力者ありと聞き参った所存。願わくば修業の一環として模擬試合による手合わせを申し込みたい。如何か」 と、先程までの軽い雰囲気はどこへやら、途端凛々しい雰囲気を纏い朗々と喋った。 ----とんだ道化やも知れぬな。 シグナムは再三に渡り認識を改めた。 この世界では中々お目にかかれないような強者の風格を持った男がそこにはいた。 「----その申し出、受けて立つ!!」 かくして、剣道場の休憩時間は模擬試合の場へと変貌した---- 道場内に会話は無かった。 皆が皆、眼前で繰り広げられる闘いに魅入っていた。 ただただ、竹刀と竹刀のぶつかり合う乾いた音が道場を支配していた。 ぱぁん。大きく乾いた音が響くと同時に青年は距離を開いた。 「…………楽しいゼェ………ホンット、稀に見る凄腕ってやつだな」 シグナムは正眼に竹刀を構えながら答える。 「お褒めに預かり光栄、とでも答えれば良いか?だが貴様の腕も相当なものだ。武者修業等ふざけたことをとも思ったが、それほどまでなら納得がいきそうだ」 対する青年は下段に構えながら笑った。 「ヒュゥ♪あんたに褒められるってのは嬉しいね。ホンットいい女だよ………今フリーかい?」 シグナムは一瞬紅くなるがすぐに顔を引き締め、不適に笑った。 「さぁ………どうだろうな!!」 そしてまた、打ち合いが始まった。 ぱぁん。 「うぇ!?今のきかねぇのかよ!!」 「脇が甘い!!」 ぱぁん 「そっちは踏み込みがあめぇっ!!そらっ」 「なんのっ!!」 ぱぱぱぁん 互いに打ち合った後、鍔競り合いに移った。 「ホンットいい女だゼェ………放っとくのがもったいねぇくれぇにな」 「ふん。なら口説いてみるか…………?」 「ははは、そいつぁ良いな…………だが止めとく。カミさんもいるし、今度子どもも生まれるしな」 「何と!身重の妻がいるのに武者修業などしているのか!?」 「あーちげぇちげぇ。武者修業っつっても普段は仕事して、家庭を支えて、休みの日とかにつえぇやつの噂を元に遠征してんの」 「なる程な…………喜べよ、青年。ここで身重の奥方を放って放浪等してると言ったら切り捨てているところだ」 「あのな………俺って意外と愛妻家よ?」 そう軽口をたたきあって、また距離を開いた。 「次で終いにしようや」 「そうだな。そろそろ時間も無いことだしな」 「そいじゃ………」 「あぁ待て。貴様、名は?」 「……………お前さんが勝ったら教えてやらぁ」 「…………良かろう。名前を言う準備をしておけよ?」 「………いざ」 「尋常に」 「「参る!!!」」 二人は共に相手に突っ込んだ---- 竹刀が回転しながら飛んでいき、誰もいない方の壁にぶつかり、落ちた。 シグナムの手には竹刀は無く、青年の手にはしっかりと竹刀は存在していた。 「勝負、あったな」 「あぁ。私の負けだ…………完璧に、な」 互いに背を向け合いながらの会話。 「いんやぁ?案外危なかったゼェ?」 「どうかな、貴様はこちらを気遣いながら闘っていただろうが」 「そりゃぁ、俺って男だしぃ?フェミニストですから」 「ふん…………口の減らない男だな」 そう言い終わると同時、シグナムと青年は振り返り、握手をした。 「見事だ」 「あんたも強かったゼ?」 一瞬の交差。その一瞬で青年は竹刀の根本を巧みに打ち、竹刀を弾き飛ばしたのだ。 こうなってしまうと竹刀のないシグナムの負けである。 そして青年は去って行った。 またな、と軽く手を上げながら、笑顔で。 シグナムはその日の勤務を終え、帰宅の道中、ずっと悔やんでいた。 ベルカの騎士が一般市民に負ける等----ぐるぐると惜念や無念、暗い感情が頭の中を駆け巡る。 ほぅ、とシグナムは大きくため息をついて 「負けは負けだ。負けたのなら次は負けねば良いのだ」 と完結させた。 それでも考える。 あの時は門下生の手前我流の方は使えなかった。 もしあの男と本気の、自分の実力を完全に引き出した状態でぶつかっていたらどうなっていたのか、と。 それは一人の戦士、剣士としての純粋な好奇心。 「………またあの者と闘ってみたいものだ。次は、本気で、誰にも邪魔されずに…………」 その願いは意外な程に早く叶えられることになる。 シグナムが家に帰り着いた。一応郵便受けに何か入っていないか確認したところ 「これは----?」 そこには、一通の書状が入っていた。 差出人は不明。魔導師関連かと調べてみるがそれらしい反応は無かった。 リビングにいたはやてとヴィータ、リインとザフィーラにただいま、と一声かけた後シグナムは自室に入り、折り畳まれた書状を開いた。 『今宵午後十時、海鳴は桜台に来られたし。 獲物は竹刀、こちらで準備するが心配ならそちらでも準備されたし。 手加減は無用。本気で試合たい所存----』 面白い----シグナムは自然と頬を緩ませた。 差出人の名は無いが、十中八九あの青年だろう。 彼は見抜いていたのだ。自分が本来の実力を出しきれていないと。 きっと彼も、一流の剣士であり----武人なのであろう。 彼を、自分を突き動かすのは更なる高みへの飽くなき向上心。 故にこれ程までに----そう、テスタロッサとの模擬試合の如く----胸が、心が躍るのだ。 「----その申し出、受けて立とうぞ、青年----」 レヴァンティンは縁側に座して首を傾げていた。 はて、我が主はどうしてまたこんなに上機嫌なのだ、と。 現在時刻は八時、夕食時である。 マスターとデバイスは普段から極僅かでも魔力を供給し、されているため、レイライン----魔力供給のパイプのようなもので繋がっており、それにより相手の感情、考えていることが若干、抽象的にわかるのだ。言うなればフェイトとアルフの精神リンクのようなものである。 それによるとシグナムは大層上機嫌、というか何かが待ち切れないといったところか? 「……………ぁあ!!」 そういえば今日の夕方食料品の買い出しにクラールヴィントにより荷物持ちとして連れていかれたとき、主はやてとあったな。 その時主はやてはこう言っていた。 『今日はシグナムが好きな魚の煮付けやねん』 そしてレヴァンティンは理解した。シグナムが上機嫌な理由を。 「……………良い年した女性が色気より食い気って………ドーヨ?♪」 「…………なにを言っとるんじゃレイヴァン?」 隣で茶を啜っていたグラーフアイゼンが怪訝な顔をしていた。 「気にしないでくれアイゼン老。ちょっと、な」 「…………実は我がマスターも色気より食い気でのぅ…………」 「ヴィータ殿はどちらかと言うとまだまだお子ちゃま、育ち盛りですからなぁ…………あと十年はしないと色気には移らない気もするが……」 しみじみ会話をしていると、キッチンからシュベルツが顔を出した。 「師匠〜、おじーちゃ〜ん、できたから運んでくれますか〜〜?」 「行くかの」 「行きましょう」 二人はよっこらせと腰を上げると、食卓へと向かった。 「こらシュベルツちゃん、つまみ食いしないの!!」 「お手伝いの報酬だよ〜〜」 「ダメだぞシュベルツ」 「レーイーヴァーンー!!あなたも言ってるそばからつまみ食いしないでーーッ!!」 「うまいぞクラール嬢、また腕を上げたな。うなぎ登りでは無いか」 「え、その………えと………あ、ありがとう…………」 「よしよし」 「………………あぅ…………」 「みぅ……………おじーちゃん、どう思われますか?」 「これが若さか……………若いとはいいものだな………」 「み、みぃ!?キャラが違うよおじーちゃん!?ダメだよ赤い彗星は!!」 九時----シグナムはちょっと用事があるからと家を抜け出した。 シャマルとザフィーラに事情を説明してあるから大丈夫だろう。 しかしシャマルが何か誤解をしていた気がする。 なんで試合だと言っているのに『逢引』だの『恋』だのになるのだ。 相手には妻子がいると言ったら言ったで『不倫』だの…………コウ提督謹製ハリセン『ツッコミ堕天使ver.69,52』で黙らせたのだが…………まぁ、ザフィーラはわかってくれたようだし大丈夫だろう。きっと。 そして歩いて桜台に着くと、そこにはやはり彼がいた。 「チャオ、また会ったな、おねーさん♪」 「あぁ、また会ったな、青年」 真紅の逆立った髪、浅黒い肌。日中であった青年は白い歯を見せながら笑っていた。 「正直来てくれるなんて思わなかった………ってなんか台詞が下劣になってるが気にしないでくれ。下心は無いから。ただひたすらに本気のあんたと闘ってみたいだけだかんな」 「わかっている」 くすり、と小さく笑った。あぁ、やはり彼は想像通りの人物だと。 「私も、貴様と本気で闘ってみたかったのだ」 無言で投げ渡された竹刀。 シグナムはそれを受け取り、静かに我流の構えを取った。 ----そして、月が見守る中、桜台に乾いた音が響いた---- 綺麗な月夜だ。 レヴァンティンは縁側に座して独り杯を傾ける。 夕食時から、主シグナムとの精神リンクを一時切っていた。念話は繋がるし、どちらかの生命に危機が迫ったときはこちらが転送されるのだし、任務中でもないのだから心配は要らないだろう。 傍らに置いてあった徳利から猪口に日本酒を注ぎ、ちびりとやる。 今日の肴はイカの塩辛----やるな、クラール嬢。 人間形態になれるようになってから、というか物を食べれるようになってから、酒はレヴァンティンの趣味の一つになった。 きっかけはコウがバルディッシュ、デュランダル、レヴァンティン、グラーフアイゼン、クロノ、ザフィーラを連れて飲みに行ったことだ。 そこで酒の味を占めたレヴァンティンは特に日本酒を気に入って、毎日多少飲んでいるのだ。 因みに今のレヴァンティンの姿は和服、着流しだ。コウが徳利と猪口セットと共にレヴァンティンにプレゼントしたのだ。 主に似て大層和贔屓な彼はそれらをとても気に入っている。 と、これが風流か………と感慨に耽るレヴァンティンの隣に誰か座った。 クラールヴィントだ。 「綺麗な月ね………」 「あぁ、全くだ。酒も旨いしな」 「………飲み過ぎないでよ?明日とかに支障をきたすようならお酒禁止なんだからね」 「案ずるな。引き際は弁えている」 「どうだか」 そう言って、クラールヴィントはクスリと笑った。 ----綺麗だ。 それは月夜に向けての賛美なのか、傍らの女性に向けてなのか、それはレヴァンティンのみ知ることだ。 「----平穏、よね」 「何が?」 「今の生活が、よ」 「確かに、な」 過去を振り返ればそれは戦いの歴史、血に塗れた道であった。 六年前、あの事件が起こるまでこんな事になるなんて思いもしなかった。 今まで沢山の人を、世界を不幸にしてきた。 それしかできなかった。 そんな自分が今はささやかな、しかし貴重な幸せを享受している。 それは許され難いことではないかとふと思うときが無かったわけではない。 「いいのかしらね。私たちなんかが、こんなに平穏に暮らしていて」 「………………」 その問いに対する答えを、レヴァンティンは持ち合わせない。何故ならそれは、彼が自分自身に課している問いなのだから。しかし、完全な回答は無くとも、自分なりの答えならば、ある。 「…………この平穏は」 「……………?」 「この平穏は、俺達が、そして沢山の人の----我々の仲間の尽力で勝ち取ったものだ、と思う」 「…………それで?」 「故に、護らねばならぬだろう。この平穏を、今という時を。ただひたすらに、愚かと蔑まれても、護らねばならん。護らぬと、手放すということは、それは----」 「----尽力してくれた仲間への、裏切り…………」 言いたい事を理解してくれたクラールヴィントに対し、レヴァンティンは首肯した。 「裏切りは、もう、沢山なのだ」 そう言って、レヴァンティンは夜空に浮かぶ月を見上げた。 戦いに明け暮れ、血塗れになって進んだ道は、裏切りの歴史とも言えた。もう、裏切りたくない。今を共に生きる仲間を、戦友を、失いたくないのだ。 「レイヴァン、ちょっと、ごめん…………」 言うなりクラールヴィントはレヴァンティンの背後に回り、腹部に手を回して彼の背中に額を押し付けた。 そして聞こえてくる、微かな鳴咽。 「………何故、泣くのだ?……いや、良い。背中ならいくらでも貸してやろう。……………何なら胸でも良いが、な」 最後の方はおどけたように言うが、クラールヴィントは構わず静かに、憂いを含みながら言葉を紡ぐ。 「…………時々恐くなるのよ…………この平穏が、夢幻じゃないかって……………」 次に目を醒ましたら、また闘いに明け暮れる日々が始まるんじゃないかって、と、彼女は続けた。 しかしその独白を、レヴァンティンは---- 「…………下らんな」 切って捨てた---- 「今、俺達は確かに存在している、今を生きているんだ。現実に勝る事実等、存在はせん」 すらすらと意識せずに出た言葉。それは彼の中に浸透して行った。 本にも書いてあった。数少ない『絶対』、それが『事実』。 そして、『現実』こそ、『事実』なのだと。 また猪口を傾ける。腹に回された両手が、さらにキツく、結ばれた気がした---- 桜台、広場となっているところに一人の男が寝転んでいた。 その上半身は黒のタンクトップ一枚で、首にはアルファベットのVの文字が刻まれたドックタグのついたチェーンネックレスを付け、少し離れたところに灰色のライダージャケットが落ちていた。 近くには若い赤髪の女性もいた。 男は荒く呼吸をしながら、満足気に笑った。 「…………いや、はや………あんた、やっぱ、強いよ…………」 「貴様も強いさ。危ないところだったぞ?」 「はぁ…………なんか、すっきりした…………これがあるから武者修業はやめれねぇ…………」 「潔い男だ。負けてさっぱりとはな」 「へへ、いい男ほど、潔いもんだよ」 「なる程な………私は家の者が心配するからもう帰るが、大丈夫か?」 「あぁ、大丈夫だ。もうしばらく、休んだら、宿に戻るからよ………」 「そうか………ではな」 「ああって、ちょっと、待った…………俺は竜牙(リューガ)………あんたは?」 「…………シグナム。八神シグナムだ」 「そっか…………シグナム、いつか、また、会おうな」 「……………あぁ」 「…………次は俺が勝つんだからな…………」 「楽しみにしている………ではまた会おう、リューガ」 空を見上げながら青年----リューガは手を振り、見送った。 シグナムが去った後の桜台、青年が一人寝転んでいた。 ふと青年は身を起こし、ライダージャケットを広い上げると、そのライダージャケットの内ポケットから銀色に煌めく鋭利な何かを取りだし、木々の間に鋭く投げ放った。 何かに刺さる音と共に、投げた方の茂みから黒い獣のようなものが表れた。 それは四方八方から表れ、青年を中心として五十体余りが円陣を組むようにして青年を包囲していた。 青年はため息を一つつくとライダージャケットに袖を通すと、ポケットから小さな箱と銀色の固形物を取り出した。 小さな箱を開け、中から細い筒状のものを取り出すと、細い筒を口にくわえ、銀色の固形物をなにかいじったかと思うと、細い筒の先端に火を付けた。 ----煙草とジッポーだった。 青年は近くに落ちていた竹刀を広い、威嚇の様に振るったが----すぐに捨てた。だめだ。威力がよわすぎる。 仕方なしに両手を懐に突っ込み、引き抜くとどちらの手にも四本ずつ----計八本の鋭い銀色の----飛刀が握られていた。 そして両手を振り抜き、投げ放つ。 八体の獣に命中、内即死二体。 同様にまた八本投げ放ち、七体に命中、内即死三体。 それをあと四回、襲いかかって来る獣の攻撃を喰らう事無く繰り返すと、残りは三十体程までに減っていた。 そして短くなった煙草を手でつまみ、空中で何かの模様をなぞった。 ----瞬間。 飛刀がささった獣は、全て後型も無く燃え尽きた。 何かが焼ける匂いを嗅ぎながら、青年は深くため息をつき、星と月が舞う舞台を見上げた---- 『----[フォース]より、[ジャックス]』 『[ジャックス]、報告どうぞ』 『----桜台に標的。近隣の生態系に擬態----』 『----了解。はぁ、やれやれ、だな』 『本当に、やれやれ、だよね…………まぁ、殺し尽くすから良いんだけど』 to be continued.... 後ガキ。 いや〜〜ん。今回はレヴァンティン×クラールヴィントでした〜〜 レヴァンティンは馬鹿キャラじゃない!!!と思う。 第三話『死-The DEATH-』 「……うん。これで良いはず……これで良いですか?」 「…………はい。確かに」 「それでは」 「ご苦労様でした、ハラオウン執務官」 フェイトは時空管理局の総務課へ訪れていた。 なんでも一部の提出書類に不備があったらしく、呼び出されていたのだ。 と、言ってもフェイトのミスでは無く、普通とは異なる特殊な書類の注意点を総務課の方で注釈するのを忘れていたのだが。 まぁさておき、その日はアースラもメンテで暇だし、訓練でもしようと管理局に訪れていたフェイトは要請の元、総務課に来ていた。 顔見知りの総務課の事務局員と別れ、訓練室に向かいながらフェイトは考え事をしていた。 今日はクロノも早めに仕事が終わるって言ってたし…………ち、ちょっと出掛けようって言ったら良いよって言ってくれたし…………軽く鍛練してシャワー浴びて着替えておめかししてクロノと………………きゃ〜〜っ。 訂正、考え事どころかちょっと暴走していた。 そんな様子を待機状態のバルディッシュは…………… 『…………………zzz』 寝てた。 ともあれ、フェイト・T・ハラオウンは浮かれていた。 心寄せるちょっと朴念仁で優しい義兄とこの後(大体四時間後)に一緒に出掛ける----詰まる所のデートの予定に。 そんなフェイト。普段は引込思案でも、やる時はやる娘。 例を上げればパジャマがわりと称してクロノのお古の白いワイシャツを接収したりだとか、こっそり朝に布団に潜り込んだりとか、そこで見たクロノのあれやそれで悶々と閑話休題。 やる時はやるフェイト。普段はしっかり者の暴走しやすい周りを抑えながらも実は一番暴走しやすい彼女には、とある欠点、特徴があった。 それは---- コケッ ----時としてとんでもないドジっぷりを発揮することである。 例としては何もない空間でコケるから始まり、模擬戦では間違えて味方であるコウに対してプラズマザンバー(喰らった本人はピンピンしてたが)、その日は授業のない教科書を持って来てお弁当を忘れる、お弁当を忘れていったことでリンディが拗ねる、クロノのちょっとアレな本を見つけてフォローをするつもりが慌ててしまいとどめを指す等。 いくつか関係ない。 何はともあれフェイトはコケた。例によって何もない空間で。 具体的に言えば通路の曲がり角一歩手前で。 多分このままいけば通路の真ん中でヘッドスライディングをかました様に見えるだろう。 持ち前の運動神経もこのドジっぷりの前では何故か発動しない。多分何かの補正がかかっている。 そしてこのまま床とこんにちわと思われたが---- ふにょん 「ひゃっ!?」 「んむ!?」 何かやわらかいものにぶつかって難を逃れた。 そして聞こえた誰かの声。 恐る恐る目を開いてみると、紺一色が視界に広がった。 「……………?」 なんだろう、これは。壁?でもやわらかいし………?温かい………人? 「あ、あの〜〜」 そしてまた聞こえる聞き覚えのある声。 それは----頭上から聞こえて来た。さらに言うと、かなりの至近距離から。 「その、可及的速やかにどいてほしいんですけど〜〜」 すぐそばから聞こえる声。知り合いの女性に酷似した声。やわらかくて温かい何か。聞こえてくる鼓動。 それらを統合して考えると---- ………………………… 一瞬の静寂。 後 「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 『What's happened!?Zamber form standby READY!?』 離脱。ブリッツアクション真っ青な機動力で離れるフェイト。 フェイトが上げた奇声のような悲鳴に目を醒ましたバルディッシュ。寝ぼけてるのかザンバーフォーム移行プロセスを起動しかけている。 『な、何があったのですかサー・フェイト!?』 壁に張り付くようになったフェイトにバルディッシュが念話で問い掛ける。 と。 『----どうしようどうしようどうしようどうしよう、胸胸胸胸胸胸胸胸胸----あれ私ぶつかったときてをついてなかったっていうかおもわずもんじゃったきがするなぁあれってなにをもんだのっていうかわたしてをどこにおいてたといいますかさっききいたこえはやたらとつやがあったきがしたのはワタシノキノセイ?』 『サー・フェイトーーーーっ!?お、落ち着いて、落ち着いて!!!』 流れ込んで来た支離滅裂な思念に慌てるバルディッシュ。 そしてぶつぶつ言い始めるフェイト。相当危ない。 「あの、フェイトさん?」 「ひゃ、ひゃい!?」 目の前にいた女性に声をかけられるが、返せた言葉はかみかみだった。 「まずは落ち着いてください。深呼吸深呼吸。はい吸って〜〜吐いて〜〜」 言われた通りに深く息を吸い、吐く。 「はい吸って〜〜吐いて〜〜吸って〜〜吐いて〜〜吸って〜〜吸って〜〜吸って〜〜」 言われた通りに実行する律義なフェイト。 吸って吐いて吸って吐いて吸って吸って吸って………… 「〜〜〜〜〜!?ぷはっ!!」 「落ち着きましたか?」 平然と、しれっと言う女性。でもやってることは実はえげつない。 「は、はい………って、す、すみません!!その、胸…………っ」 とまたちょっと慌てるフェイト。頭を何度も下げる様子はさながら水飲み鳥か。 「だから落ち着いてくださいって。大体にして私こと、わかります?」 「ふぇ?………あ」 と、ようやく目の前の女性をきちんと捉らえたフェイトは小さく声を上げた。 それは良く見知った女性。 天然パーマの長い銀の髪、女性としては比較的長身に分類される背丈。そして優しそうな眼差し。 「サラさん…………」 「はい。サラ・ナイトテイカーです」 その女性はサラ・ナイトテイカーという執務官だった。 操る魔法はミッド式、管理局支給の量産旧世代杖型ストレージデバイス、「アークウィル」を相棒とする万能タイプ魔導師。 何をやらせてもそつが無い、フェイトより一年キャリアを多く積んでいる、フェイトにとって先輩に当たる執務官だった。 「大丈夫………そうですね。考え事は良いですが、余り熱中しちゃうとまた転んじゃいますよ?」 「うぅ………すいません…………」 人指し指を立てて小さな子どもを叱るように『めっ』とされるが言い返せない。 ちょっとうつむいてしまうフェイトだが、その視線はサラのある一点に注がれていた。 …………………相も変わらず、大きい。 何が、とは言わない。 けどフェイトが大きくなることも期待できるとだけ言っておこう。 ただ、出会った当初から大きかったのに最近更に大きくなった気がする。ひょっとしたらシグナム以上じゃないかな…………自分は余り育ってないのにな〜〜。これって理不尽じゃ…………いやでもなのはには勝ってる…………でも最近なのはも大きくなってる気も………… 「----?フェイトさん?」 「は、はい!?」 がばっと顔を上げるフェイト。しかしサラはフェイトが何かを考えていたと看破し、一瞬考えてから---- たゆん ちょっと揺らしてみた。何を、とは言わない。ただ、漢のロマンとだけ言っておく。 ぴくっ 思わず反応するフェイト。 たゆんたゆんたゆん ぴくっ、ぴくぴく たゆたゆたゆたゆたゆたゆんっ ぷるぷるぷるぷる……… ちょっと赤くなってぷるぷる震えているフェイトをサラは見据えて………… 「大丈夫。フェイトさんも大きくなりますよ」 と言ってぽん、と肩を叩いた。 「……………………あぅ」 「大丈夫です。私の友達にも結婚から二年でランクを二つほど叩き上げた女性がいますから。希望なんてそこらにゴロゴロです」 なんの助言だ。なんの。 と、サラが『大きくする秘訣』を言ってると、フェイトは赤い顔で切り出した。 「あ、あの…………」 「……牛乳を定期的に飲む、っていうのがありますがそんなことよりは規則正しい生活としっかりした食事が………ってはい?」 何やら熱を篭めながら語るサラ。そんなサラにフェイトは頬を赤らめながら 「えと、その……………男の人ってやっぱり大きい方がいいんですか?」 「そんなことはありません」 即答。超反応だ。脊髄反射だ。 絶句するフェイトを余所にサラは遠い目をして語る。 「ぶっちゃけ無い人は欲しますけど、ある人だと邪魔にしか感じないんですよね〜〜、意中の人が大きい方が好きっていうならまだしも。執務官ってデスクワークもあれば体も動かしますし、デスクワークだと肩がやたら凝るし、現場だと揺れるから邪魔になるし。学生時代なんか更衣室では同性同士の触れ合いの恰好の的ですよ、的。情け容赦なく揉んできますし、下手をすれば親友の方が自分より的確に大きさを把握してたりしますし。それに人の趣味は人の数だけありますから。小さい方がいい人もいますし、大きい方万歳な人もいますし、美しさを求める人もいますから〜〜」 マシンガン、問答無用のマシンガントークだ。 そして最後にですから、と呟くと、フェイトの肩を叩いて 「あまり大きさは気にしない方がいいですよ。惚れさせてしまえば大きさなんてささいなものです。たとえ某提督が大きい方が良かろうが、ほかの属性で振り向かせれば良いんです!」 「ぞ、属性!?それに某提督って別にクロノのことじゃなくて一般的に………」 「はっきり言いましょう!フェイトさん、あなたは属性の塊なんです!!義妹に健気、引込思案、しっかり者なのにドジっ娘、優等生!!ここまで属性があるのにそれを生かさないなんてもったいないたっ!?」 勿体ない、サラはそう言おうとしたが、最後まで言うことはなかった。 管理局の通路に パーーーンッ と小気味良い音が鳴り響いた。 「サラちゃん、あなた何言ってやがりますかーーーーっ!!」 頭を抱えるサラの背後には、茶髪をポニーテールにした女性が立っていた。その手には(何故か)白煙を漂わせたハリセンを持っていた。 「ミコトさん」 「こんにちは、フェイトちゃん。ちょっとサラちゃん?何逃げようとしてやがりますか?お話がありますからちょっとお待ちになりやがってくださいね」 その女性は、ミコト・アルマティラーという、コウ・バークフリート提督の秘書官を勤める女性だった。 こっそり逃げようとしていたサラは、襟首をがっしりと、笑顔なのに怒りマークが幻視できそうなミコトの手に捕まっていた。 「あぅあぅ、ミコトさ〜〜ん…………」 「いたいけな少女に何を吹き込んでいるんですか、全く………」 フェイトは呆然と、小言を言うミコトと小さくなっている(実際問題小さくなっている)サラを見ていた。その様はまるで………… 「姉妹みたい…………」 ぽつりと呟いたその言葉に、二人の動きが停まった。 「姉妹………」 「ですか」 「あ………」 しまった、と口を抑えるフェイトを余所に、二人は笑っていた。 「なら私がお姉さんですね〜〜」 「私妹〜〜?妹はもう飽きちゃったんですけど………」 「そういえばサラちゃんは『兄』が三人もいますしねぇ………あ、あの娘たちも姉妹に入れちゃいましょうか、私が長女、アスカちゃんが二女、サラちゃんは三女、ルナちゃんが四女、四姉妹ですよ」 「え、私はアスカの妹なんですか?」 きゃいきゃいと笑い合う二人。しかしフェイトは聞き慣れない単語に首を傾げる。 「アスカに…………ルナ?」 「あ、私たちの友達ですよ」 「アスカは私と同い年で、ルナはちょっと年が離れた………見た目は年下な女の子だよ」 「そうなんですか………」 「ええ。最近会ってないんですけど、元気にしてますかね〜〜?」 「この間会ったけど、元気そうでしたよ?」 「え、どこでですか?」 「いつもの喫茶店です。アスカはコーヒー、ルナはチョコパフェ食べてました」 「…………変わってませんね………」 「私はちょっとほっとしたよ」 感慨深そうに語るサラとミコト。 ふとフェイトは腕時計を見て 「あ」 と声を上げた。 「どうしました?フェイトさん」 「いえ、予定に暇な時間があったから簡単な鍛練をやっていこうかと……」 「デートですか……って!ミコトさん、痛いです………」 「まったくもう………なら丁度良いですね。今日から訓練室に新しいプログラムが入ったんですよ」 「新しいプログラム、ですか?」 「えぇ。三次元シュミレーターを応用した対仮想敵の模擬戦プログラムです」 「模擬戦プログラム……」 「……対、『闇の歌姫』用の、です」 「!!!」 「へぇ………管理局も本気なんですね………」 「えぇ。データや映像を見る限り、対魔導師や対犯罪者………いえ、対人に慣れたままでは痛い目を見るだろうとの判断だそうです」 「上層部は賢明ね。あれは見る限り獣だもの」 「サラちゃん、言葉にはきをつけてね」 「はいはい………?フェイトさん?」 見れば、フェイトはやたらとそわそわしていた。早く試してみたくてしょうがないと言わんばかりに。 「あ〜〜、フェイトさん?気になるなら行ってみたらどうかしら。今なら多分人も少ないだろう………し………」 「失礼します!!!」 言い終える前にフェイトは駆け出していた。 「転ばないようにね〜〜」 サラはそんなことは言って、フェイトが見えなくなってから肩を落とし、ため息をついた。 「…………はぁ、なんだかなぁ………」 「お疲れね」 「ん〜〜?あの娘を見てると、色々と、ね」 「命短し恋せよ乙女、だからね」 「うぅん、そうじゃなくて」 「わかってる。危ういよね、あの娘は」 「うん。強いよ、あの娘。多分、なのはさんやはやてさんよりも、ずっと」 「でもその強さが」 「危うい。あの娘はどんな逆境でも諦めないと思う。でも、大切なものを失ったり、傷つけられたりしたらその強さは崩れ去る」 「大事な人のために強くあろうとしてるからね」 「わたしはそれが心配なんだ。あの娘、似てるから」 「似てるよね、サラちゃんに」 「うん、そっくりなんだ。だから、恐ろしいよ、私は」 「…………あーーーーっ!!!」 「ど、どしたのミコトさん」 「いいいいいいいま訓練室使用中ーーーーっ!!!」 「それがどうしたのよ………」 「…………使ってるの、リョウ………じゃなかった、アイズ君なんだけど………」 「………………」 「…………しかも、今日は本気でやるから、って言ってた…………」 「…………まずい」 「…………まずいよねぇ」 「初見で『あれ』はマズすぎる!!!」 …………………… 「「訓練室へ!!!」」 訓練室についたフェイトは、すぐさま中に入った。 中では一人の青年が例のプログラムで訓練をしていた。 武器は大きな鎌----処刑鎌だった。 踊るように鎌を振るい、寄ってくるリアルな虚像を切り裂いていく。 その様は酷く美しく見えた。 そして、最後のホログラフを一振りで切り裂いて、プログラムは終了した。 まだ入口で立ちすくみ眺めていたフェイトに気付いたのだろう、青年が振り向いた。 茶色の髪に高い背丈、そして---- 氷のような冷たい光を放つ水色の眼---- 死。 その眼を見てフェイトは理解した。 アレには勝てない。 アレは殺すものだ。 生ある限り勝てない。 死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。 「あ……………」 『Sir!!!!』 フェイトが最後に見た光景は、慌てて胸ポケットから眼鏡を取り出し、装着している青年の姿だった。 「ん…………」 「大丈夫ですか、フェイトさん」 「あれ?サラさん…………?」 目を開けるとそこにはサラの顔があった。 医務室だろう、フェイトはベッドに寝かされていた。 「あれ、私、なんで…………?」 身を起こす。と。 「何を考えてやがりますかあなたはーーーーっ!!!」 ミコトの怒号が聞こえてきた。 声の方へ目を向けると、そこには怒り狂い怒鳴り散らすミコトと、正座してちみっこくなった先程訓練室にいた青年がいた。 「大体にしてなんで訓練だってのに本気の殺気を出しながら暴れてやがりますか!!!」 「いや、最近ストレスが………」 「そんなもん言い訳です!!つーかなんで人に本気の殺気を叩きつけてやがりますかーーーー!!」 「………………うぐぅ」 青年の今の様子を見る限り、先程の訓練室の様子が嘘のように感じられる。 だが、あの時感じた感覚は忘れられそうに無い。 「ミコトさん、フェイトさん起きたよ」 「っフェイトちゃん大丈夫ですか!?」 「はい、なんとか………」 眼鏡の青年は頬を掻きながら立ち上がり、フェイトのそばに近づくと 「あー、その………ごめん、怖かったよね」 頭を下げた。 その真剣さに思わずフェイトが慌てた。 「あ、あの、気にしないで下さい!あれは私も悪かったし………」 「いや、でもアレを見せちゃったし……ホント、ごめん」 思わず居心地の悪さを感じてしまうフェイト。と。 「はぁ………フェイトちゃん、私からもごめんなさい。彼が使ってるって注意するの忘れてしまいました……」 「ミコトさん………」 「まぁ、それくらいにしといて、自己紹介自己紹介、初対面ですよね、フェイトさんは」 「え、はい」 「アイズ君からね」 と、アイズと呼ばれた青年は顔を上げた。 「えーと、アイズ・ケーニッヒ、時空管理局所属、執務官、二十四歳です」 眼鏡をかけ、優しい眼差しをした茶髪の青年はそういった。 その端正な顔を見て、フェイトはモデルさんみたいという感想をもった。 「えと、フェイト・T・ハラオウン、執務官で十五歳です」 その言葉に一瞬アイズの表情が曇ったのだが、フェイトは気付かなかった。 「そう……なんだ。よろしくね」 アイズはやわらかな笑みを浮かべて手を差し出した。 「よろしくお願いします」 フェイトもその手をとり、握手をした---- 「えっと………フェイトさん?」 「はい?」 「なんでこんなことになってるのかな〜〜って僕は聞きたいんだけど……」 ところ変わって訓練室、そこには処刑鎌----デスサイズ型のデバイスを手にしたアイズと、バルディッシュを構えたフェイトがいた。 「獲物が同じですし、私よりも使い方というか、戦い方が上手でしたから、指導していただきたいと思って」 「…………マジですか?」 「マジです」 「…………はぁ。わかった。ただ、僕は他人に教えるなんて上等なことはできないから、模擬戦をして、その中から気になったことを注意したりする程度だよ」 「はい!」 「まぁ、参考になりそうな部分は技を盗むんだよ?………じゃ、行くよ……!」 そして、アイズとフェイトは交錯する---- 追記。結局待ち合わせ時間のギリギリまで模擬戦指導を受けていたフェイトは待ち合わせに遅れてしまい、クロノに謝りっぱなしだったという。 追記その2。ミコトからフェイトが倒れたと後に聞いたクロノが、アイズを強襲しようとしていたらしい。 ----地球、ロンドン。 深夜のロンドン。一際高い建物の屋上に、黒い布を纏った"なにか"がいた。 "なにか"は静かに何かを待っているように、微動だにしない。 「------------」 ふと、"何か"が動いた。 そっと、手を----今まで布の中にあったらしい----上げると、布の一部を退かす。 そこにあったのは人の顔。 まだ若い、青年の顔だった。 やわらかな茶髪、調った顔立ち---- そして---- 氷のように冷たい光を放つ、青白い瞳と、人形じみた無表情---- 青年は、静かに空を見上げる。 空には丸く美しい月があった。 しばし月を見ていた青年は、突然走り出した。 そして、跳躍。 普通に考えれば、高層ビルから高層ビルへと飛び移る等映画の中でのみの話だ。 しかし青年は、確かに跳んだ。 人間離れした跳躍力で、次から次へと、ビルからビルへ飛び移っていく。 たどり着いた場所は狭い路地だった。 そこには---- 赤。朱。紅。 花が、アカイ花が咲いていた。 壁に咲くその花を眼にしても、青年の表情は変わらない。 嫌悪を示すわけでもなく、義憤に駆られるわけでもなく、悲しみ、憂いを示すわけでもない。 ただひたすらに、直面した現実を受け止めるのみ。 そして、アカイ花が散らばる空間の中心に、"それ"はいた。 青年は"それ"から目を離さない。 ぬらり、と、"それ"は青年の方を向いた。 深紅の暗い瞳。人より掛け離れた外見。 "それ"の口からは、まだ真新しい鮮血が滴り落ちていた。 『----タリ、ない----』 "それ"は訴えかける。自身の欲求を。 『ヒトツじゃ、タリない----もっと----』 "それ"は述べる。現在の状況を。 『----オマエ----ツヨい----クらえば----ミたされる----オマエ----クらう!!』 "それ"は示す。自身の行動を。 "それ"は青年に猛然と突進する。にも関わらず、青年はゆっくりと、しっかりと、優雅に、"それ"に向かい歩き出した。 そして シュンッ……… 交錯した次の瞬間には 『………ァ…………』 全て 「--------魂も残さず、消え失せろ----」 終わっていた---- "それ"は青年が通り過ぎた後、静かに、無に----正しく何も残さずに、消えていった---- 青年は路地を進み、アカイ花が咲く空間の真ん中へと進み、そこに横たわる----無残なモノを見下ろした。 瞼を見開き、恐怖に凍りついた表情を張り付けた、男性---- ----首から下は、無かった。 青年は屈み、男の顔に手をかざし、眼を閉じさせてやった。 そして少し----ほんの一瞬停滞してから、立ち上がり、路地を出た。 「----」 「……」 そこには、黒い法衣を纏った男性がいた。 男性は軽く頭を下げると、先程の路地に入って行った。 青年はそれを見届けると、空を見つめた。 空には月。 その月は、笑っているように見えた---- ガゴォンッ 気付けば青年は、手近な壁を殴りつけていた。 拳を中心に走った放射状のヒビ。 青年は歯を食いしばる。 「…………舐めた真似をしてくれるな……………DIVA!!!」 咆哮は闇夜に呑まれていった---- 『----ジャックス、聞こえるっすか?』 『聞こえているよ、セカンド。で、フォースの様子は?』 『荒れまくりっすよ。自傷行為に走る寸前っす。キングが来てくれたから今は………』 『そう、か…………』 『そんな暗い声出さないでくれっす。別にあんたが巻き込んだわけじゃ無いっすよ?覚悟があって、あんたの下に集まっているんすから----』 『…………ありがとう、セカンド』 『どーいたしましてっす。ところでチビどもは元気っすか?』 『元気過ぎて困る位だよ』 『そっすか………今度、遊びに行くっす。じゃ』 『あぁ、じゃぁな………』 to be continued... あとがき? 遅れてごめんなさい。投稿、再開です。 へ、下手になっとる………orz |