“麻帆良学園は午後の紅茶なの”へ
“『エクセリオンバスターACSは、空襲なの』”へ






ここは、麻帆良学園都市近くにある、小さな喫茶店。3−Aの生徒たちは、放課後、ネギ先生を交えて、お茶を飲みに来ていた。話題は、アニメとゲームである。「魔法少女リリカルなのは」の話になった。
神楽坂明日菜が口を開く。
「そもそも、ジュエルシードを獲り合いながら『友達になる』ってどういうことなんだろうね。」
近衛木乃香が喜々として答える。
「私は、ガンダムのアムロとシャアを初めに思い浮かべたでぇ。どちらもニュータイプやんか。なのはとフェイトも、2人とも魔導師やろ?」
桜崎刹那が感情を抑えた様な口調で、口を挟む。
「お嬢様、私は、キラ・ヤマトとラウル・クルーゼのことを考えました。なぜならば、ラウル・クルーゼはコーディネイターの失敗作ですし、フェイトの方は、クローンのいわば‘‘失敗作’’ですから。」
「利益をめぐって争いながら交友関係を結ぶ、好敵手であることには違いないわね〜。」と、京都なまりの優しげな声色で、木乃香が紅茶をすすりながら一言つぶやく。すると、明日菜は突然、身を乗り出して、こう言った。
「それは、例えば、自閉症の娘と愛情過多の母親で、将棋を指すようなものかなあ。」
「いや」、とネギ先生は真面目な表情で、
「自閉症の娘と愛情過多の母親で、ご飯の取り合いをするようなものじゃないんでしょうか?」
「いや、ちょっと待って。」超鈴音が、いきなり語りを入れ始めた。
「そもそも『友達になり始める』ということは、あえて口にして明確化することで成り立つものじゃなく、相互的な暗黙の了解の下で成り立つものでしょ?だけど、なのはとフェイトの『友達になる』は、それとは違うと思うの。」
「そうやわね〜。」はんなりと、木乃香。「・・・つまり、」と超鈴音。
「なのはが『友達になろう』と友情についての申し込みをするんだけど、フェイトが様々な事情によって受け入れるか否かを回答することができないでしょ?そういう状況の下では、2人の友情は暗黙のうちに成立することはできないと思うの。」全員が、うんうんとうなずいて、超鈴音の話に聞き入っている。超鈴音は、烏籠茶をずずっと一気にすすると、更に話を続けた。
「むしろこれは、男の子が女の子に交際を申し込んで、女の子がそれに対して答えないままでいる、というある種の『青春』の状態なんじゃないかと思うの。」
「確かに、男の子と女の子の恋愛の話、という図式の方が、この『友達になろう』は近いと思います、超さん。」とネギ先生は納得した。
「・・・ということは」と、明日菜がツインテールをビックリマークの形にして、頬を紅潮させ、一気にまくし立てる。
「『友達になる』とは、フェイトがきちんと返事をした時点で、やっと成り立つわけよね。つまり、私が言いたいのは、一方で青春物の、『片想いの男の子と、態度のはっきりしない女の子』をはたから見ている時の歯がゆさがここにはあるのよ!」
「みなさん、ちょっとよろしいでしょうか?」と、龍宮真名は、マシンガンを傍らに置き、中学3年生にしては、重たく、落ち着きのある太い声で話し始めた。
「そもそも、なのはとフェイトの間で、結果的にではあれ、成立する「友達」とは、戦友に等しいものではないでしょうか?」
「うん。戦友やね〜。」と木乃香はうなずく。
「ですから、アメリカ兵とソ連兵が、互いを意識する。しかもアメリカ兵は男の人、ソ連兵は女の人、ずっと愛を申し込み続けて最後に結ばれる、架空の戦争映画の話、という図式が近いのではないでしょうか?」
少しづつ落ち着きを見せ始めていた明日菜のツインテールが、「結婚」という字を描きながら宙を泳ぐ。そして明日菜はこう言った。
「そう考えると、実は、ここでこんなことが明るみになるのよね。男の人と女の人の結婚プロポーズについてのストーリーに触れている時の、私たちの側の心の揺れ動き、ドキドキ感・・・。そういったものが、『魔法少女リリカルなのは』を観ている時に、私達が自己説明できずに無意識に感じている面白さの正体なのだ、ということよ。」
「ちょっと待って下さい。僕がまとめていいでしょうか、みなさん。」とネギ先生は、生徒たちの顔をぐるりと眺めると、熱っぽい調子で、こうまとめ始めた。
「殺戮とLove&Peaceとが、戦争と平和が同時に成り立っているような奇跡的な状態・・・。この矛盾がかもし出す妙な感覚・・・つまりジレンマこそが、『魔法少女リリカルなのは』が人を惹きつける面白さなのではないでしょうか?みなさん。」
ここで、竜宮真名が何気なく窓の外を見る。そして、右手の人差し指でちょんちょんっと桜崎刹那の左の二の腕をつつき、窓の外の青空を見てみろと無言で促す。みんなもそれに釣られて空を見上げる。
全員で、こう叫んだ。
「空を見ろ!あ、鳥だ!飛行機だ!・・・いや、高町なのはだ!」
なのはは、3−Aの生徒たちに対してレイジングハートの先端を向け、彼女たちに対していきなりディバインバスターを発射した。
「人の友情ネタをさかなに、優雅に午後のお茶をやっているからだ!さあ、ヴィータちゃんも遠慮せずにやっちゃってください!」
すると、するとヴィータがグラーフアイゼンを大きく振りながら現れ、一気に喫茶店の店内に向けて、シュワルゼフリーゲンを入れる。
「あ〜れ〜・・・」という声の後、もう3−Aの生徒たちの姿は、もうそこにはなかった。








現在、午後3時。3−Aの生徒たちは、ネギ先生と一緒に麻帆良学園近くの喫茶店でおしゃべりをしていた。そして、またもや、『魔法少女リリカルなのは』の話になった。
  
 明日菜はコーヒーを一口飲み、喉を潤すと、口火を切る。 
「・・・なのはと敵対するという意味で、『ヴォルケンリッター+はやて』という加法の和が第2のフェイトであると、一見思われがちじゃない? でも、よく見てみると、フェイトは、なのはに対して『邪魔するな』と言って戦い、最後に友達となる。ヴォルケンリッターも、なのはに対して『邪魔するな』と言って最後に友達となる、という点で、この両者は相似をなしていると思うのよ。そして、もちろん、はやてとプレシアについても同様のことがいえて。プレシアはテスタロッサ家の母であり、はやては八神家の母でしょ?」
「明日菜ぁ、まだ足りんよぉ。」木乃香は、挙手をし、イチゴパフェに舌鼓を打ちながらこう付け加えた。
「ただし、この2人は、それぞれに両面価値を持っているんや。プレシアは、支配者であり母である、という両面価値、はやては、母であり支配者である、という両面価値を持った存在ということや。なぜ、あえて、母と支配者の順序を入れ替えたのかというと、この二人は、その表の性格、すなわち、役割の外皮の部分においては、正反対となっているからやな。・・・はやては優しいが、プレシアは厳しい、ということや。」
「お嬢様、なんか、あなたとはやて、キャラがよく似てますね。」と刹那は突っ込みを入れた。
「まあ待て、私にも言いたいことがあるのだ。」と、エヴァンジェリン・A.K.マクダウェルは、前のめりの姿勢で語り始めた。
「ここで、思考実験として、『闇の書』と『アリシア・テスタロッサ』を、この関係図の中に加えてみたい。すると、次の通りとなることがわかるのだ。はやての完成形とは、覚醒したはやてのことだ。覚醒したはやては、『闇の書がもたらす能力』を持つ。この能力は、媒体なのだ。そして、この媒体によって、はやてにヴォルケンリッターを所有させる…。プレシアの完成形とは、アル・ハザードの地にたどり着いた、いわば『ニュー・プレシア』だ。このニュープレシアは、アリシアを死者蘇生させることに成功する。このアリシアは、やはり媒体なのだよ。そして、この媒体によって、プレシアにフェイトを所有させることができるというわけだな。」 
 一気に語った後、エヴァンジェリンは日本茶をずずっとすする。一呼吸置くと、更に続けた。 
「もちろん、やっとのことでアル・ハザードに到り、愛娘を蘇らせることのできたプレシアが、わざわざフェイトのようなクローンを、また作るとは思えない。だが、この、媒体が挿入された関係図をあえて成立させたいとするならば、こうだ。・・・『アリシアが生きていようが死んでいようが、フェイトは生まれることができる』。」
 一瞬、沈黙が訪れた。そして、ラーメンを食べている途中の茶々丸が、口を開く。
「マスター、ちょっとよろしいでしょうか?」
「意見を言ってみろ」とエヴァンジェリン。「ラーメンもうまそうだな…。」
「先程のお話なのですが、私はこう思います。ジュエルシードの数は21個とされていましたが、その前提をカッコに入れてしまいましょう。まだ、管理世界のどこかにジュエルシードが実は存在していた、というストーリーだって生じかねないのです。つまり、こういうことです。仮にプレシアが、アリシアを蘇生させた後もクローンを作り続けるならば、フェイトは生まれ、また初めからジュエルシードを集める、というドラマは再生可能だと。その場合、アル・ハザードという世界特有の性質上、アリシアは何度死んでも生き返らされ、フェイトはフェイトで生きているので、A's第11話でみられたような、フェイトの夢の中の場面と同じような情景を観ることができます。」
「ちょっと、ワタシもいいかなぁ!」と、カレーライスを平らげて元気になった佐々木まき絵は、こう言った。
「私は思うのよ。 更に、この関係図の中に、『ページ蒐集』と『封印』という2項目を位置づかせてみると、実は、蒐集とはリンカーコアから魔力を集めて収めること、封印とは、ここでの意味は集めて収めることだから、はやてのラインとプレシアのラインにおいて、この2項目は同じ場所に位置づけられるのがわかるの。また、はやてもプレシアも絶対強者なのに、病を抱えて弱っている、という『病弱属性』がある、という点でも同じね。」
 ここで、部活直後にチアリーダーのいでたちのままやって来ていたチアリーディング部の面々が、いきなりポンポンを振りながら応援を入れ始めた。
…ドンドンパフパフ! …
 そして、椎名桜子が、元気よく語り始める。
「しかし、違う点もありま〜す! それは、フェイトのプレシアに対する愛は、けなげではあるものの、さほど美しく描かれないが、A'sにおいては、ヴォルケンリッターのはやてに対する愛は、美しく描かれており、この作品のメインテーマとなっている、というところで〜す! これは必ずしも、『はやては優しいが、プレシアは厳しい』という先程の『役割の外皮』の話がその理由なのではなく、それぞれのストーリーそのものの違い、ということで〜す! つまり、『話が違うから、出てくる状況も違う』ということで〜す! 」
「…すいません、私…ちょっと…疑問があるんです…」と宮崎のどかは、恥ずかしそうな、それでいて奥ゆかしい、独特の調子で口を開いた。 
「ところで、ここで、ジュエルシードの数の有限性とはやての魔法の無限性は、対蹠的…つまり、正反対、という意味なんですけど…であると言ってしまっていいのでしょうか? つまり、ジュエルシードは21個しかないが、リンカーコアの魔力は無限にある。だからこれは逆の事態だ、としてしまっていいのでしょうか? 」
 言い終わると、のどかは、赤面してうつむき、黙して語らなくなった。
「本屋ちゃん、言いたいことはわかるわ。後は、私が引き受けるわ。」と、明日菜は、コーヒーを一気に飲み干すと、意欲満々な調子でクラスメイトたちに説き始めた。 
「フェイトはジュエルシードを有限の21個、集めたかった。ただし、ヴォルケンリッターはリンカーコアの魔力を無限に集めたかったのかしら?いや、そんなことは全然なかったはずだわ。ヴォルケンリッターは、リンカーコアの魔力を、666ページ分に必要な数だけ集めたかったのよ。つまり、リンカーコアは魔導師が生きている分だけいっぱいあるけど、ヴォルケンリッターもやはり、リンカーコアの魔力を、有限的に集めたかったのよ。そして、それ以上の数のリンカーコアは必要ないの。更には、『なのは』というドラマを観ている私達にとっても、私達の『感動』という都合により、まったくもって必要ないのよ。魔力蒐集を主とする、リンカーコアが登場する場面は全て、視聴者を感動させねばならない、というストーリー制作者の、『無駄を排する』という能率主義的な考え方を暗黙の了解でよしとすることで、私達はドラマに感動してきたから。その証拠に、ドラマの中で、リンカーコアの無限性があえて示されるような演出はなされていなかったでしょう? 」
「皆さん、明日菜さん、ここでまとめに入ってよろしいでしょうか? 」とネギ先生は、危険に対して身構えるような青ざめた表情で、お茶会撤収の準備を急ぎ始めた。なんだかいやな予感がしたからだ。 
「その意味で、この2つは、醸し出すイメージはあさっての方向くらいに全然違いますが、実は意味としては同じであるということができます。すなわち、一方は、『有限の、ジュエルシードを、集めて収める』。他方は、『有限の、リンカーコアの魔力を、集めて収める』というのが、ここで起きていることなわけです。」
 ネギ先生は、喫茶店の窓から、一瞬空を見上げた。そして、3−Aの生徒たちに向けて、やはり、という顔でこう叫んだ。
「…やっぱり…また…。みなさん、速やかにここから逃げて下さい! 」
ネギ先生がそう言うが早いか、この喫茶店めがけて空から空襲が始まった。
「ゴルァ〜、おまえらぁ〜、何をごちゃごちゃ話しておるんじゃぁ〜! 」
と、高町なのはのドスの聞いた叫び声が聞こえた。
 その直後、喫茶店の窓ガラスからエクセリオンバスターACSが突き込まれ、ゼロ距離で発射されたその喫茶店は跡形もなく吹き飛ばされたのだった。





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