ヴィ×アなバレンタインSS。

(注意)
アリサ分99%のチョコレートSSです。
恋人同士の描写など一切ありませんので、甘いユノなのSSと一緒にお召し上がることをお勧めします。







 1ヵ月後に小学4年生の終業式を控えたある日のこと。

「なあ、高町なのは」

 ヴィータは少しためらった様子で話し掛けてきた。

「うん? 何? ヴィータちゃん」

 ヴィータの顔が赤い。

「どうしたの? 熱でもあるの?」
「ちげーよ」



「……あのさ」
「うん?」



「……チョコの作り方、教えろ」



「……え?」





   Bitter Chocolate





「そういうわけだから、今日の放課後ヴィータちゃんも一緒でいいかな?」

 本日、2月13日。いつもの仲良し5人組は屋上で昼食を取っていた。
 明日はバレンタインということで、今日はこのメンバーでバニングス宅に集まりチョコを作る予定である。

「それはいいけど……」

 アリサの言葉にすずかが続ける。

「ヴィータちゃんが、チョコレート?」

 すずかはヴィータがチョコを渡している映像を想像してみた。


 公園――そう、いつもゲートボールをやってる公園で、ベンチに座っているヴィータちゃん。
 その隣には彼女と同じくらいの身長の男の子が座っていて。
 そっぽを向きながらチョコを渡そうとするヴィータちゃんが居て。
『ほ、ほら! 受け取れよ! 早く取らねえと溶けちまうぞ!』
 ……なんとも微笑ましい。


 しかし、アリサはそのような想像には至らなかったらしい。

「実はチョコが食べたいだけでバレンタインなんて関係ないんじゃないの?」
「そうだね……、ヴィータならありえるかもしれない」

 アリサの意見にフェイトが同意する。
 そこで、でも、となのはが口を開く。

「なんか恥ずかしそうにしてたし、やっぱりバレンタインなんじゃ……」
「でも、バレンタインってことは、ヴィータにも好きな人ができたってこと?」

 フェイトのその言葉にはやてがうーん、と唸る。

「そうやね……、私にはチョコ作るなんて言ってこなかったし」
「え? はやてちゃんは知らなかったの?」
「そや。初耳」

 なのはとはやては首を傾げる。
 それにつられるようにしてフェイトも首を傾げるが、

「なんだ、なら簡単じゃない」

 びっくりさせないでよ、とアリサは1人だけ納得顔。
 すずかはなんでびっくりしたのか問い正したい衝動に駆られたが、黙っておいた。

「ヴィータがチョコをあげる相手は……」

 そこでアリサは言葉を区切り、4人を見回してから栗色の髪の少女を指差す。

「はやて、あんたよ!」
「え? わたし?」

 ……アリサちゃん、昨日の探偵ドラマに影響受けてるんだろうな、とすずかは一人苦笑した。
 アリサは立ち上がって手を後ろに組み、4人の周りをぐるぐる歩き始める。

「だってはやてしかいないじゃない。はやてじゃなくてなのはに頼んだのもそうだし、なによりヴィータが男の子と一緒にいるのは想像できないわよ」

 ヴィータが男に恋をするなんて悪い冗談もいいとこ――アリサはそう思っていた。
 と言うのも、アリサとヴィータは仲が良い。
 あまり2人で話す機会はないようだが、性格が似ているためか、あっという間に意気統合した。
 だから、あたしに春が来ないならヴィータにも来るはずがない。……なんでだろ、少し悲しいのは気のせいよね。そんなふうに思っていた。

 しかし――現実というのは残酷で、某人の言葉を借りれば『世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかり』なのである。

「いや、それが……アリサちゃん。実はヴィータちゃんって、管理局の男性職員の間では結構人気あるんだよ」
「そや。最近は仕事がない日もアースラに出入りしとるみたいやし。あれはクロノ君やね」

 なのはとはやてが反論する。

「ええっ!? 何よそれっ!?」

 アリサは焦りを隠せない。

「じゃ、じゃあ誰なのよっ! ええい、なのは、とりあえず心当たりがある名前を全部言いなさい!」
「ええ〜! いっぱいいすぎて……」
「いっぱいいるってどういうことよっ! ヴィータ! 今度会ったらただじゃおかないんだからっ!」

 どうやら自分と同じだと思ってた女の子が男! しかも人気! いっぱい! どうせあたしは1人よ! ということでショックらしい。

「ちょ、ちょっとアリサちゃん!」

 熱くなってきたアリサをすずかが抑えようとする。

 だが、すずかが落ち着けるより、フェイトの言葉のほうが早かった。

「あのさ、アリサ」
「なによ!」

 あらかじめ言っておくが、フェイトに悪気はない。空気が読めないだけなのである。

「自分にチョコをあげる男の子がいないからって、そこまでムキにならな」

 瞬間、アリサの左ストレートが炸裂。フェイトは言い終えることができずにふっ飛ばされるも、空中で1回転しふわりと着地する。
 その時にスカートの中身がコンニチワだったりしたのだが、当の本人は気づかない。

「ふぇ、フェイトちゃん!? 大丈夫っ!?」
「うん、大丈夫だけど……」

 なんでこっち見てる男の子がみんな前屈みなの? とフェイトは思ったが、それより先に聞くことがあった。
 念話に切り替えてなのはに尋ねる。

(ひょっとして、アリサ、怒らせちゃったかな?)
(いや……、ひょっとしなくてもかなり怒ってるかと)

 アリサがフェイトに向かって大きく一歩を踏み出し、人指し指を突き立てる。
 髪が逆立つその様子を見て、前屈みだった生徒たちが散るように逃げて行く。

 ”アリサは怒ると怖い”――聖祥大付属小学校では言わずと知れた、有名な事実だ。
 もっとも、とある教導隊志望の魔法少女に言わせれば、”怒らなくても怖いのがアリサちゃん”だそうだが。

「じゃ、じゃあフェイトはどうなのよっ! そんなこと言えるってことは、あげる子がいるんでしょうーねっ!?」

 2つの事実を総合すると”いつでも怖い”少女になってしまうアリサは、壁の如き迫力を背にしながらフェイトに言い放った。

「え、えと……、クロノ、かな」
「くっ!」

 しかし、あっけなくその壁は破られる。
 アリサは一歩後退し、心の中で叫ぶ。
 そうだ、クロノなんていう伏兵がいたんだった! 目立たないくせに!
 ……目立たないから伏兵と言うのだが、今のアリサはそれどころではない。

「じゃ、じゃあなのははいるのっ!? 男っ!」

 怒りの矛先を向けられたなのははびくっと跳ねる。

「お、男はいないけど……、ユーノ君とクロノ君にはあげようかなと」

 その言葉にアリサはまた一歩後ずさる。
 またクロノか! ユーノは予想してたけど!

「なら、はやてはっ!?」
「『なら』ってなんや、『なら』って」

 しばし考えたあと、

「うーん……わたしはシグナム達と、そうやね、クロノ君にもあげてみよかな?」

 はやての一言にアリサはくずれ落ちる。
 まさか魔法少女達がこんなにも進んでるなんて思わなかった――

 もちろん、当の本人たちは義理としてあげるのだが、”チョコをあげる男の子がいる”という現実はアリサの胸に深く付き刺さった。しかも全員クロノクロノクロノである。伏兵さん大活躍である。

「アリサちゃん……」

 伏兵の攻撃に打ちのめされたアリサを気遣うようにすずかが声をかける。

「すずか……」

 アリサとすずかの目線が交差する。


『すずかには、男、いるの?』
 言葉には出さずに、目で訴えるアリサ。
 その問いに対し、無言で手を伸ばすすずか。
『大丈夫。わたしにはいないよ』
 耳で聞いたわけではないのに、アリサにはすずかがそう言った気がした。


 すずかの手を取り、アリサは立ち上がる。
 2人はお互いを見つめあい、強く握手した。

 屋上に一陣の風が吹き、2人の髪が揺れ、瞳が揺れる。

 まるで絵に描いたような友情シーンが、そこにはあった――
 
 
 ――しばしの静寂の後、2人は手を放した。 

「……ありがとう、すずか」
「ふふ、どういたしまして」

 また、2人の間に風が吹きぬけた。
 そして、はっと気づいたようにフェイトは口を開く。

「よ、よかったね、アリサ、すずか。ところですずかはキョウヤさんにはあげるの?」

 その言葉でアリサは再び沈んだ。
 ……ひょっとしたら本日のフェイト・T・ハラオウンさんは”無意識にアリサをいじめてしまう病
気”にかかっているのかもしれない。

「ほ、ほら! ならアリサは鮫島さんにあげればいいんじゃない?」

 フェイトの全くフォローになってない言葉を聞きながら、なのははふとそんなことを思った。

 

 



 放課後。ヴィータを拾い、テンションの低いアリサと共にチョコを完成させた後。
 自分のチョコを包装しながら、はやては思い出したように尋ねた。

「そう言えば、ヴィータはだれにあげるんや?」

 その一言でアリサが戦慄する。
 ――大丈夫よ。自分を信じるのよアリサ! 絶対はやてなんだから!

「ああ、それは……はい」

 ヴィータの行動はやはりアリサの予想通りで、はやてに包装が終えたばかりのチョコを手渡した。

「ヴィータ……」

 はやての瞳が潤む。
 その様子を見てアリサは安心したように肯く。

 ……やっぱり、はやてか。まあ、そうよね。ヴィータに男なんて――
 だが、アリサはヴィータの手にあと2つチョコが握られていることに気づいてしまった。

 ……あと2つってなに? シグナムさん達にあげるには数が足りないし、まさかユーノとクロノ? ヴィータが? なにこれ悪い冗談?
 考えてたら悶々としてきたので、思い切って聞くことにした。

「ヴィータ、あとの2つは誰にあげるの?」
「ん? ああ」

 ヴィータはアリサに向かい直り、チョコを手渡す。

「え……、あたし?」
「も、もちろん義理だからな。とりあえず貰っとけよ」

 感極まったのか、アリサは袖で目を拭う。
 その動作を見てヴィータは心配そうに顔を覗きこむ。

「……泣いてるのか?」
「ち、違うわよっ!」

 声が震えている。

「あ、あの、その」

 アリサは顔を真っ赤にしながら呟いた。

「ありがとう、ヴィータ」
「うん!」

 その言葉を聞くと、ヴィータは駆けだした。

「ちょっと、どこ行くの? ヴィータちゃん!」

 なのはが呼び止めようとする。
 それはもちろん、『なんでいつも模擬戦に付きあってあげてる私にチョコはないのっ!?』という意味も含んでいたのだが、当の本人はそんなことには気づかない。
 ヴィータは一瞬振り向いて、なのはの問いに答えた。

「本命のところに行ってくるんだよ!」







 ところ変わってアースラ艦内。

「エイミィ!」
「おう、ヴィータちゃん。どしたの?」

 ヴィータは通路で出くわしたエイミィに彼の居場所を尋ねる。

「――――」
「――――、ありがとな、エイミィ!」

 エイミィから目的の人の居場所を聞き出したヴィータは走り出す。
 もちろん、向かった先は執務官室……ではなく、そこを通りすぎた先にあるラウンジ。
 そこの一角では、アレックスとランディが将棋を指していた。

「おーい! アレックス!」

 ヴィータの声がラウンジに響く。

「お、ヴィータちゃん。どうしたんだ? ……ってその手は待った。待っただランディ」
「待ったなし! さっきお前がそう決めたんだろ?」

 くう、と苦々しい表情を浮かべるアレックスに、ヴィータは恐る恐る話かける。

「……あ、あのさ、アレックス」
「うん? どうした、ヴィータちゃん?」

 いつもと違うヴィータの様子を感じ取ってか、アレックスは対局を一時中断して向かい直る。

「こ、こここ、これ! 受け取ってくれ!」

 それだけ言って小さな包みを手渡すと、すごい勢いで走り去ってしまった。

「なんだ? アレックス。差し入れか?」

 アレックスの元にヴィータから差し入れが届くのは珍しいことではない。
 もっとも、その中身は栄養ドリンクだったり、どこで買ったかわからない絵葉書だったりとイマイチ統一感がなかったが。

「で? 今回はなんだ?」

 相棒の急かす声を聞きながら、アレックスは包みを開く。

「……」
「なんだったんだよ?」


「……チョコレートは差し入れに入ると思うか?」
「…………は?」


 2人の間に静寂が訪れる。


「アレックス。地球世界の――いや、日本の風習って知ってるか?」

 先に沈黙を破ったのはランディだった。

「ああ、バレンタインデーってやつだろ? まあ、お前が言いたいことはよくわかる」

 大きくため息をつく。

「でも、今日ってさ」
「ああ」

 2人はリンディが買ってきた、壁に掛けてある日めくりカレンダーに視線を移す。

「……2月13日、だよな」
「……ああ」








―――――――――
あとがき

ヴィータ×アリサ? いやいや。
ヴィータ×アレックスに決まっている!

あ、いや、石は投げないで下さい! むしろ石投げるくらいならチョコを投げて(ry

さてさて、はじめましての人ははじめまして!
それ以外の人は多分いないだろうからやっぱりはじめまして!

今回はバレンタインということで、誰を出すか考えていたところ、
「バレンタイン・・・Valentine・・・V・・・Vita・・・ヴィータかっ!」という感じでヴィータになりました。
実際のところはアリサさん活躍しすぎなんですが。ここまで活躍するとは作者も思ってなかったです。びっくり。

ところで、作中はアリサ→ヴィータ→アレックスという恐らく全く新しい関係をノリだけで書いてみましたが、単発ネタです。絶対に続きません。というかアレックスよくわかんねえっす。
ついでに、タイトルと内容が一致していないのは気のせいです。断じて最初の(注意)がやりたかったからタイトルをそれっぽくしたわけではありません。本当のタイトルは”Vita's Bitter Valentine”だったような気は・・・しません。きっと気のせいでしょう。うん。


最後になりますが、拙い文章でしたが最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

それでは!





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