前回の続き。カッとなって書いた。反省はしていない。
題名はバレンタインですが内容はホワイトデー。バトルしてます。




「で? どうすんだ? アレックス」
「……とりあえずクッキー用意してきた」

 ほほう、とランディは頷く。

「ところであの子はどうすんだ?」
「……だよなぁ」

 ランディの言葉にアレックスは盛大にため息をついた。

 アレックスは目の前の手紙――フェイトを通じて送られてきた――に目を走らせる。

『ヴィータが欲しいならあたしを倒してからにしなさい』



 只今話題の女の子――――――アリサ・バニングス。


 本日、3月14日。
 ヴィータの初恋を掛けた戦いが始まろうとしていた。


 ……本人の知らないところで。





   Vita's Bitter Valentine





「来たわね、アレックス!」
「いやま、アリサちゃん、とりあえず話を」
「だまらっしゃい!」

 アリサの言葉にアレックスがたじろぐ。

 海鳴臨海公園。
 ここが決闘に指定された場所だった。
 この場に居るのはアリサとアレックス、ランディにエイミィとすずか。

 アリサはアレックスに一歩踏み出す。

「別にアレックス、あんたが気に入らないわけじゃないわ」

 流石はバニングスの子、10歳近く年上の相手に対して出会って早々呼び捨てである。

「でも、アレよね。あたしはヴィータの親友だから、あんたが悪い奴じゃないかどうか調べなくちゃいけないってわけ」

 その理屈だと、1番調べなくちゃいけないのはクロノ君じゃ……とすずかは苦笑した。

「そういうわけで、ヴィータにそれを渡すのはあたしを倒してからにしなさい!」

 ビシっとアリサはアレックスの持っている小袋を指差す。
 はあ、とアレックスはため息をつきランディにその小袋を渡す。

「持っててくれ」
「オッケ」
「食うなよ」

 ランディに釘を刺してからアレックスはアリサと向かい合う。

「ようやくあたしと戦う気になったようね」

 うんうん、とアリサは満足げに頷く。

「それで? 一体なんで勝負するんだ?」
「ふふふ……良く聞いてくれたわね」

 先程と同じくまたビシっと指差す。
 そこには――

「……まさか」
「そのまさか! 料理よ!」

 キッチン2つ用意されていた。





「いつの間にキッチンなんか……」

 エイミィは目を丸くする。

「すずかお嬢様、あれでよろしいでしょうか?」

 すずか以外の人々が愕然としていたところにノエルがやって来た。

「うん。ありがとう、ノエル」
「すずかちゃん……君も一枚噛んでたのか」

 ランディはあきれたようにすずかを見つめる。

「まあ、アリサちゃんの頼みですから」
「……あのキッチン、アレックスのほうだけ使うと爆発するとかいうのはないよね?」
「そんなアンフェアなことはしませんよ」

 エイミィの言葉にすずかは拗ねたように答える。

「それに――」
「それに?」

「いえ、なんでもないです」

 言い直して、すずかは空を仰いだ。
 もう3月の半ばだというのに、雪が降りそうな曇り空だった。




「それで? 料理なのはわかったけど何を作るんだ?」

 アレックスは靴紐を結び直しているアリサに聞いた。

「肉じゃがよ!」
「なんで……。まあ、OKだ」
「よし! そんじゃあ行くわよ! 制限時間は1時間! スタート!」

 そう言い放つとアリサは走り出した。

「え? ちょ、アリサちゃん! というか材料はっ!?」

 材料という言葉を自分で口にしてからはっと気付く。

「……冗談だろ?」
「材料は自分で調達するに決まってるでしょー!」
「……マジか」

 アレックスは本日3度目のため息をついた後、アリサの後を追って走り出した。




 アレックスが見えなくなってからはっと気付いたようにすずかは問う。

「アレックスさん、こっちのお金持ってるんですか?」
「……」

 不安になったランディがアレックスに念話を繋ぐ。

「どうだった?」
「ちゃんと持ってるそうだ。こっちで食事とかもするからいつも5千円くらい持ち歩いてるんだと」
「よかった」

 ランディの言葉でエイミィは胸を撫で下ろす。

「それにしても、なんで肉じゃがなんだ?」
「家庭的な料理ってことらしいですけど」
「……というか料理の審査は誰がやるの?」

 エイミィの素朴な疑問にすずかは固まる。

「決めてなかったのか?」
「き、きっとアリサちゃんが決めてると思います」

 そういうことをアンフェアと言うんじゃないかとエイミィは思ったが黙っておいた。

「と、ところで、アレックスさんは料理できるんですか?」

 突然訪れた3人の間の沈黙を破るようにすずかは口を開く。

「まあ、それなりにできるほうだな。士官学校で仕込まれたし」
「だね。ま、私ほどじゃないけど」
「エイミィ……お前は別格だから」
「まあね。ところでアリサちゃんのほうはどうなの?」

 エイミィの問いに顔を伏せるすずか。

「まさか」
「いや、アリサちゃんも料理できますよ? ……フェイトちゃんよりは」

 ランディはため息をつく。
 そりゃあ、フェイトちゃんの料理の腕と比べたら誰だって上手いだろう……
 この前は普通に小麦粉と砂糖を間違えたし。いや、あれは砂糖を普通に大袋に入れて保管してる艦長が悪いかったのかもしれないが。

「で、でもアリサちゃんは時々成功しますよ!」

 その言い方だとフェイトが毎回失敗してるように聞こえるのは気のせいだろうか。尤も、事実ではあるが。

「料理に”時々”っておかしい気がするんだけど」

 エイミィがすかさず突っ込む。

「それが、なんというかアリサちゃんのは漢の料理というか」
「計量カップとか使わないの?」
「あはは……」

 そりゃ失敗するよ、とエイミィはため息をつく。

「でもそれじゃ、アレックスの圧勝かな」
「そうなるだろうな」

 二人の言葉にすずかも小さく頷く。

「わたしも、そう思います……」




「へっくしゅん!」

 アリサは大きなクシャミをした。
 誰か噂でもしてるのかしら。

「風邪かい?」
「大丈夫よ」

 アリサはさっきからアレックスと併走している。

「なんでついて来んのよ」
「俺、こっちのスーパーの場所知らないし」
「それくらい調べときなさい」
「いや……まさか料理対決なんて予想もしてなかったし」


 5分後、二人はスーパーに着いた。

「はあ、はあ……」
「大丈夫か?」

 アリサが肩で息をしているところにアレックスは手を差し伸べるが、払いのけられる。

「……大丈夫。ほら、行くわよ」

 アリサがスーパーの自動ドアをくぐる。

「気遣ってやろうとしたら手を払いのけるくせに、スーパーには一緒に入ろうとするのか」

 アリサは自分に対して優しいのか優しくないのか。
 ……きっと優しくないんだろうな、と思いつつアレックスもドアをくぐった。





「それにしても……今日はなんでこんなに寒いのかね」
「天気予報では雪が降るそうですよ?」

 エイミィとすずかが当たり障りのない話をしている目の前で、アリサとアレックスは戦っていた。
 既に二人は材料の調達を終えて調理に入っている。

「く、アレックス! なんでそんなに野菜切るの早いのよ!」
「昔仕込まれたからな」

 アレックスはてきぱきと準備を進めていく。
 小さな鍋の中に水を張り、調味料を用意する。

「……圧倒的だな」
「というか、アレックスさん早すぎません?」

 すずかが驚くのも無理はない。
 調理を開始してからたった3分で全工程終了。

「確かに、今日のアレックスは気合入ってるな」
「3分って……キュー○ー3分クッキングじゃないんだから」

 ランディとエイミィもこの早さには驚いているらしい。

「ちょっと! あんた魔法使ったんじゃないでしょうね!」
「残念。俺は魔法は使えない」

 本当は簡単な防御魔法とか念話とかできたりするのだが、ややこしいので黙っておいた。
 アリサはアレックスの早さに疑問を感じながらも野菜を切り終え、鍋に放り込む。
 そして――


「アリサちゃん……」

 アリサの次の動作を見て、すずかが驚嘆する。


 アリサの手には、計量カップが握られていた。


 アリサちゃん……。やっぱり恋してるんだね。恋してる女の子は素敵に変身するんだね。今までの漢の料理は卒業したんだね。
 すずかは一人感動していた。




「アリサちゃん、出来たか?」
「もうオッケーよ」

 アレックスが煮込み終わってからしばらくして、アリサも完成させた。

「んで? 審査は誰がするんだ?」
「それはもちろん……あなたにお願いします!」

 アリサはエイミィを指差す。

「え? わたし?」
「だって今いる人の中で1番しっかりした味覚を持ってそうですし」
「う、うーん? 料理は得意だけどそれは味覚が発達してるってことには……」

 エイミィはそんなことを言いながら二人の料理を見比べる。
 片方は野菜が小さく切られた普通の肉じゃが。
 片方は少し野菜が大きい気がするような肉じゃが。

「……食べ比べてみればいいの?」

 おそるおそるエイミィは野菜が大きいほうの肉じゃがを口に運ぶ。

「……どうですか?」

 アリサが上目使いで尋ねる。
 やっぱりこっちがアリサちゃん作だったのか、と妙に納得しつつ評価を告げる。

「良くも悪くも普通。まあ、家庭の味って意味ではいいんじゃないかな?」

 エイミィの言葉にアリサは小さくガッツポーズを決める。

「それじゃ、アレックスのほうね」

 今度は恐れる様子もなく口に運ぶ。

「……!」
「どうだ?」
「アレックス、これ何入れたの?」
「りんごジャム」

 なるほど、とエイミィは再び納得する。

「んで? 評価は?」
「アレックスの勝ち」

 エイミィはあっさりと判定を下した。
 その評価にうむ、とアレックスは頷く。

「ちょっと待て。肉じゃがとりんごジャムの組み合わせは旨そうに聞こえないんだが」

 ランディのツッコミにエイミィは無言で箸を手渡す。

「食ってみろってか?」

 エイミィは首を縦に振る。

「――!」
「納得した?」
「ああ。それよりアレックス、後でコレのレシピ教えてくれ」

 すずかがそのランディの様子を見て尋ねる。

「そんなに美味しいんですか?」
「ものすごい旨いか、と言われればそうでもないが肉じゃがでこの発想はなかった」
「……というか、アリサちゃんは?」

 エイミィの言葉に一同ははっとする。
 アレックスは周囲を見回すが彼女の姿はどこにもなかった。

「おい、コレ」

 ランディがメモを一枚持ってくる。

「アリサちゃんが使ってたキッチンの上に乗ってたんだが……」

 アレックスはランディからそのメモを受け取る。

『あたしの負けよ』

 ただ、そう走り書きしてあった。




 午後4時。
 晴れていれば綺麗な夕焼けが見える時間なのだが、今日は生憎の曇り……だけでは天気の神様は飽き足らなかったようで、雪まで降ってきた。

「ったく、どこにいるんだよヴィータちゃんは……」

 エイミィの情報によれば近くの公園でゲートボールをしている、ということだったが。

「この雪じゃなぁ」

 念のためその公園にも行ってみたが、案の定誰もいなかった。

「直接はやてちゃんちに行くのはアレだが……」

 行くしかないんだろうな、とアレックスは歩みを八神家へ向けた。



 ピンポーン。

「はい、どなたですか?」

 呼び鈴を押したらはやてが出た。
 インターホン越しに自分の名を告げる。

「アレックスですけど」
「あ、はい。今ヴィータが出ます」

 まだ何も用件は伝えてないんだけどな……。アレックスは苦笑した。
 おそらくヴィータちゃんの想いは家族に筒抜けなんだろう。まあ、バレンタインの一件があったし。
 そんなことを考えているととヴィータが玄関の扉を開けて出てきた。

「あ、アレックス。な、なな、何の用だ?」
「バレンタインの時の答えを言おうと思ってさ」
「え、あ、いや、それは……」

 実のところバレンタイン以降、アレックスはヴィータとあまり話していない。
 本人曰く『なんというか気まずい。前日にチョコ貰っちゃったし』とか。

「だから、コレ」

 アレックスはヴィータに小袋を手渡す。

「あ……!」

 ヴィータはお礼を言おうとしたが、アレックスは走り去った後だった。



「お! ヴィータ、どないやった?」

 リビングに帰ってきたヴィータに問いかけたが、返事は返ってこない。

「ヴィータ?」
「う……、うわああああああああああん!」

 ヴィータは急に泣き出して、小袋を投げ出しリビングから出て行ってしまった。
 シャマルはヴィータの小袋を手に取る。

「クッキーと……何か紙が入ってますね」
「紙?」
「ええ、何か書いてありますけど」




「『ごめん。君とは付き合えない』、か」
「ああ」
「お前は相変わらず不器用だな」

 悪かったな、とアレックスは目の前のワインをぐっと飲み干す。

「他に相手がいるんだからしょうがないじゃないか」
「二股でもかけりゃあ面白かったのに」

 ランディもワインを口に含み、アレックスの言葉の意味に気付いて吹き出した。

「ちょっと待て。アレックス、相手いたのか?」

 ランディの言葉にアレックスは顔をしかめる。

「口が滑った」
「オイオイ、誰なんだよ? ヴィータちゃんを裏切ってまで好きな子って」
「裏切る言うな」

 そこで二人が口論を始めようとしたとき、一人の少女がラウンジに入ってきた。

「あ! アレックスさん、ランディさん。こんにちは」
「こ、ここここんにちは、なのはちゃん。な、何か用かな?」

 ……ランディは自分の視覚を疑った。
 何か目の前の相棒の顔が赤い。
 ……きっとワインを飲んだからだよな。うん。そうに違いない。

「はい。ヴィータちゃんどこにいるか知りませんか? エイミィさんに聞いたらアレックスさんが知ってるって……」
「…………はやてちゃん家にいるんじゃないかな?」
「そうですか。ありがとうございます!」

 それだけ言うとなのはは走り去って行った。

「別に人の趣味ついてどうこう言う気はないが」

 ランディが口を開いた。

「いくらなんでも望みが薄すぎるんじゃねーの?」
「うるさい」
「しかも今ので修羅場フラグ立ったし」
「うるさい」
「……まあ、頑張れ。それなりに応援してやるから。無理だとは思うが」
「……ああ」



 そのころ一方八神家リビング。

「あの男、ヴィータの気持ちを踏みにじるとはどういうことだっ!」
「そうね……ちょっと私達の力を教えてあげましょうか?」
「そうだな」
「ちょ、シグナムにシャマル! そんなんダメや。二人だけなんて許可せえへんよ」

 ふふ、と笑ってはやてはゆっくり告げた。

「そういうことは私もまぜて、な?」




 ――後日、某オペレーターの悲鳴が海鳴に響き渡ったが、それはまた別のお話。




−−−−−−−−−−−−−−−
あとがき

アリサがわざわざ苦手な料理で勝負した理由はご想像にお任せします。


どもども、ここまでお読み頂き感謝感謝です。柳です。

本当は別のSS書いてたんですが、俺はアリサが出演しない話は書くのが苦手らしく……
ならアリサを出そうぜ! と書いた話がこの話。だけどアリサ噛ませ犬。おかしい。

ところで、作中で肉じゃが+りんご(ジャム)という組み合わせを出してますが、深い意味は考えないで下さい。
決して釘宮釘宮ーとか言いたかったわけではありません。
……いや、意味がわからない人はわからなくていいと思いますよ?

それと、肉じゃが+りんごは実際に試さないで下さいね。どんな味なのかよくわからんですし。





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