―――キスして、エリオ。



 運命は悪戯だ。故に、その日、機動六課の一角で睨み合う少女たちがいた。片や手にバスケット――中身はビスケット――を持った聖王候補生、ヴィヴィオ。片や四角い缶――こちらの中身はクッキー――を抱えた竜召喚師、キャロ。
 両者は相手に向けて威嚇的な視線を投げ合っていた。険悪かつ剣のように鋭い空気が彼女たちの周囲に立ちこめている。

「何しに来たのかな―――年増」
「エリオ君に会いに来たんだよ―――貧乳」

 この場にフェイトとなのはが居たならば、あまりの痛々しさに泣きだしていただろう。女の戦いを繰り広げる二人は、六歳と十歳。確かに六歳から見れば十歳は年上であり、身体がいくぶん発育した十歳から見れば六歳は発育不良だろう。けれど、この罵り合いはあんまりにあんまりだった。

「知ってる? エリオ君っておっぱいが揺れるといつもそっちを見るんだよ。私のだって―――まだまだ小さいけど―――エリオ君は見てるんだから」
「う、ううぅ」

 初手のジャブから続けて繰り出されたストレートが突き刺さりヴィヴィオはぐうの音も出なかった。どうやら、第一ラウンドはキャロが征したようだ。ただ、悔しそうにキャロを睨み付けるばかりである。

「くすくすくす。ばいばい♪」

 勝者にのみ許される余裕の笑みを浮かべてエリオの部屋の扉に手を掛けるキャロ。その足取りは羽のように軽く、今にもスキップしながら歌いだしそうだった。
 だか、その余裕―――言い換えれば油断―――がキャロの足元を掬うこととなる。

「でも……エリオは、ヴィヴィオを一生追い掛け続けてくれるって言ったもん!」

 嘘は言ってない。

「―――ッ。そんな、プロポーズ!?」

 キャロに大ダメージ。あまりの猛打によろめいた彼女は己の足につまづいて転んだ。

「あ―――」

 咄嗟にヴィヴィオの肩を掴み、床へのダイブの道連れにしながら……!

「ああ―――ッ!?」

 巻き込まれたヴィヴィオもまた咄嗟に掴んでいたものがあった。それは、エリオの部屋の扉を開くものだった。
 落ち行く彼女たちの視界にエリオの部屋の中の光景が収められる。

「あの……本当にいいんですか?」
「うん……いいよ」

 ヴィヴィオとキャロは見た。なのはをベッドに押し倒したエリオの姿を……!

「そ、そんなぁっ!?」
「なのはママぁっ!?」

 ヴィヴィキャロショック。回復不能の大ダメージ。

「へ……? え、ヴィヴィオにキャロ!? ち、違うの! これは違うの!!」

 凹んだ少女たちに気付いたなのはが弁明の声を上げるが手遅れだった。
 なにせ、すでに彼女たちは気絶していたのだから。

「えーっと。……はあ」

 眼前の惨事に近い未来の騒動を予見したエリオが溜め息を零した。
 今日も前途は多難である。




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