その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7






† He called lightning HERO ! †


「事件ですよライトニングヒーロー……ッ!」

過去ログが掲載されていないネタを振らないでくださいカリムさんっ!

「三丁目で迷子が発生しました!」

「それはお巡りさんに任せてくださいよっ!」

「出動ですライトニングヒーロー!」

僕の話を聞いてくださいよっ!

嫌ですよ!

そんなぁっ!?







†He called Lightning HERO !†

「事件ですよライトニングヒーロー!」

「だからその恥ずかしい名前で呼ばないでください、カリムさん!」

「だめですか?」

「小首を傾げたその姿はとても可愛いらしいですが、かと言って許すわけにはいきません!」

「可愛いだなんて、そんな。いやんいやんいやん」

「あぁもう扱い難いなぁこの人ぉっ!?」

「ところで。事件です。事件なんですライトニングヒーローエリオ」

「末尾に名前を付け足せばいいという話ではなく!」

「えっへん!」

「子供みたいに胸を張らないでください!」

「はやては無理ですが、私やシグナムが胸を張ると服の前が大変なことになるんですよ。ほら、ぱっつんぱっつんです」

「これもよがしに強調しないでいいですから! あぁ、もう。恥ずかしいなぁ……」

「くすくすくす。顔が真っ赤ですよ?」

「いいから! ……で、事件って何が起こったんですか?」

「盗難です」

「……どこで起こったんですか?」

「聖王教会です」

大事件じゃないですか! 聖王教会ってかなり危険なものも保管されていましたよね……?」

「ええ。教会の奥深くに封印処置を施されたそういった品はあるようです。けれど、今回盗まれたものはそう危険なものではありません」

「一体、何が盗まれたんですか?」

私の下着です」

「…………」

「…………」

「…………」

「お気に入りだったんですよ?」

「さ、捜すんですかっ!? 下着泥棒の犯人を捜すんですかっ!?」

「はい、お願いします。見事下着を取り戻せたあかつきには……被られるのは流石に恥ずかしいですが、嗅ぐくらいならしてもいいですよ……?」

「しませんよそんな変態的な行為!」

「私……魅力ないんでしょうか……」

「そういうことを言っているのではありません!」

「なら。エリオは、私を見てムラムラしますか?

「ぐ、ぐむ……」

「ムラムラしてくれないんですね……」

「あぁもう。そんな悲しそうな顔をしないでくださいよっ!?」

「だって……だって……いいんです、いいんです。レアスキル持ちだ美人だもてはやされても、しょせんは聖王教会のひきこもり。雪のような白い肌なんて言われることもありますが、ただたんに日の光を浴びていないだけ。不健康です。このまま私は誰に娶られることもなく女としての盛りをすぎていくんです。だって私、女としての魅力が無いんですもの……よよよ」

「……そんなことないですよ」

「慰めはよしてください。惨めになっちゃいますよ」

「慰めなんかじゃありません!」

「なら、何だって言うんですかっ!」

「本心ですよ! 僕は貴女に初めて会った日のことを忘れません。窓から差し込む柔らかな陽光に包まれた貴女は、木の葉の間から覗く太陽光よりも穏やかな笑みを浮かべていて……聖女がこの世にいるなら、それはカリムさんみたいな人なんだろうなって、思ったんです」

「え、エリオ・モンディアル……?」

「だから、魅力がないだとか、そんな悲しくなることは言わないでください。僕は、貴女みたいに綺麗な人はこの世で2人しか知りません」

「2人……? もう1人が誰なのか聞いてもよろしいでしょうか?」

フェイトさんに決まってるじゃないですか

「…………」

「…………」

「なんか、もう、下着はいいです…………」

「えっ!? ど、どうしてですかっ!?」

「あの下着よりももっとムラムラさせられる下着を探してこないと!」

「やめてくださいっ!?」







†He called Lightning HERO !†

「事件ですよライトニングヒーロー!」
「ずっと気になっていたんですが、テンプレートなんですかその始まり方は!?」
「ええ」

 しれっと肯定するカリム。
 脱力したエリオは肩をがくっと落とした。

「で……今日はどんな事件が起こったんですか?」
「誘拐です」
「また、飼い猫が居なくなったみたいなオチなんでしょう……?」

 普段が普段だけの疑心暗鬼になっているエリオ。
 カリムは、頬に手を当てて「あらあら」なんて言いながら暢気に口を開いた。

はやてが攫われました
「どうして八神部隊長がぁっ!?」
「はやて、7歳くらいの姿になっているんですよ」
「どうしてですかぁっ!?」
「失敗魔法の影響です。しかも、魔法まで使えなくなっています」
「どんな魔法を掛けようとしたんですかぁっ!?」

 カリムは視線を窓に移し、流れる雲を眺めて溜め息をついた。

豊胸です
「…………」
「女の子は悩むんですよ?」

 エリオは、なんとも言えない表情ではやて救出に向かったのだった。







†He called Lightning HERO !†

 エリオは、ビルに立て篭もっていた誘拐犯グループを叩きのめした。

「助けに来ました八神部隊長。もう大丈夫ですよ」
「…………」

 エリオよりも年下の姿になったはやては、よほど怖い思いをしたのか身体を小刻みに震わせていた。
 小さな手がエリオの服の裾を掴む。

「ありがとうな、おにいさん。でも、なんであたしの苗字を知ってるん? それに、部隊長って何や……?」
「へ?」

 冗談で言っているわけではなさそうだった。
 エリオは困った。

「おにいさん警察の人には見えへんし……。あたし、身寄りがおらんから誰かが助けに来てくれるとも思えへん。おにいさんは誰なん?」

 か細い声で紡がれる不安に揺れた声に。恐ろしい思いをしたせいで恐怖に揺れる瞳。
 そして、弱々しい力で必死に服の裾を掴む小さな手。

「えっと……」

 そこには、普段知っているエネルギッシュな年上の女性ではなく、まったく知らない病弱で儚げな年下の少女がいた。

「き、君を守りに来た騎士です」
「騎士さん……? なんや、騎士って言うよりは王子様みたいやね」
「王子様は柄じゃない……かなぁ」
「ふふ♪ ありがとうな、騎士さん」

 苦し紛れに口に出した一言はどうやら気に入ってもらえたらしい。
 はやては安心したように力の抜けた笑みを見せ、朗らかに言った。

「ほな、今日一日はあたしを守ってな♪」
「へ?」

 キザなセリフはそうそう言うもんじゃないよね。







†He called Lightning HERO !†

 そろそろ夕陽が落ちる頃。
 エリオは、遊び疲れたはやてをおぶって聖王教会に向かっていた。
 水を得た魚のように元気になったはやてに振り回されたエリオはくたくただった。

「……記憶が無くなったのも失敗魔法の影響なのかな」

 もちろん、真実は分からない。
 魔法を掛けた当人なら分かるかもしれないから聖王教会に向かっているわけだが。

「ん〜……むにゃむにゃ……たのしかったよ〜……」

 うなじに掛かる吐息がくすぐったい。背中越しに感じる体温はじんわりと温かい。
 そして、背負った部隊長は思ったよりも随分と軽かった。

「どういたしまして。僕も、久々に気楽に楽しませていただきましたよ」

 寝言に生真面目に返すエリオ。自分のそんなところがおかしくて、彼は苦笑いを浮かべた。
 まあ、こんな経験はもうないだろう。貴重な体験をしたと思えば苦笑いも良い思い出になるか。
 思考をそう取りまとめて、エリオはふと空を見上げた。

「もうすぐ夜かな。冷え込んで八神部隊長に風邪を引かせちゃう前に急ごう」

 背に負った人を起こさないように気をつけながら、エリオは聖王教会への道を足早に歩いていった。
 長く伸びた影法師がだんだんと夜闇に混じり、消えていく。

「ごめんな〜……」

 はやての呟きも、夜闇の寒風に呑まれて消えてしまった。







†He called Lightning HERO !†

 それは、エリオがはやてをカリムに預けて帰ったあとの話。

「エリオ振り回すの楽しいなぁっ!」
「そうでしょう? ふふふ」

 開口一番、テンション高くそう言った。
 先ほどまでの殊勝な態度は宇宙の彼方に飛んでいた。

「騙したのはー……ちょっとだけ、ごめんなさいやけどね」

 はやては、ばつが悪そうにこめかみを掻いた。
 カリムがくすくすと笑う。

「今度は騙さずにデートしたいのかしら?」

 不意打ちなカリムの言葉に、はやてはぼっと顔を赤くした。

「女の子扱いされるって嬉しいもんなんやね」

 それだけ告げて、はやてはぷいっと顔を背けてしまう。
 カリムはくすくすと笑い続けていた。

「うー……うー……」
「でもね、はやて」

 ふと。真面目になったカリムが真摯な視線をはやてに送る。
 まだ小さな姿のままなはやては、背筋をぴんと伸ばして身構えた。

「エリオ・モンディアルは渡しませんっ」

 沈黙が3秒。
 3秒経つと、はやてがからからと笑った。

「取らへん、取らへんよー。一目惚れやったんよね、カリム?」
「はい……」

 今度はカリムが赤くなる番だった。恥ずかしさに顔を伏せ、か細い声でぼそぼそと何かしらを呟いている。
 はやてはカリムの声を拾おうと耳を澄ませた。

「でも、私って彼からすればすごく年上ですし。そもそも殿方との接し方が分からなくて、彼が反応してくれるからついつい苛めるみたいなことになっちゃうんですけど、私だってもっと普通に接せるならそうしたいんですよ……」
「…………」

 魔法の世界に飛び込んでから縁を得た姉のような女性は、一見完璧超人に思えて実は不器用らしかった。
 彼女のそんな姿を微笑ましいと思いながら、はやては思いついたことを口にした。

「今度、お茶に誘ってみたらええんやないかな?」

 カリムははっとして顔を上げ、口元に軽く握った拳を当てて思案を始めた。どうやら、エリオをお茶に誘った姿を想像しているようだった。
 ややあって、カリムの顔から「ぼんっ!」という音が上がった。
 真っ赤な顔で両手をばたばたと振り、あたふたと慌てふためいた。

「前途は多難やなぁ」

 微笑ましい多難だった。







†He called Lightning HERO !†

 そして次の日。

「じ、事件ですよライトニングヒーロー!」
「はいはい。今日は何があったんですか? あと、そのライトニングヒーローはやめてください」
「今日のライトニングヒーローは冷たいです……」

 やり取りもすっかり慣れたエリオと、今日はどこか緊張した面持ちのカリム。
 いつも通りに見えて、今日は少々違う様子だった。

「あ、あのですね。きょ、今日はですね……!」

 顔を赤くしてあっぷあっぷしているカリム。
 エリオも彼女の様子のおかしさに気づくが、かと言って原因が分からないためにどうしようもない。

「お茶が…………」
「お茶がどうしたんですか?」
「お、お茶がですねぇっ!?」

 どきどきを通り越してばくばく鳴る心臓を抑えて、カリムは勇気を振り絞って口を開いた。

「実は特に事件は無いんですけど私とお茶をしま―――」
「騎士カリム、事件です! 聖遺物保管室に賊が侵入しました!」
「―――もう、いいです」

 突如として飛び込んできた本当の事件の存在にカリムのなけなしの勇気は粉々に打ち砕かれてしまった。
 暢気にお茶している場合ではない。聖遺物に何かあったなら一大事だ。

「エリオ・モンディアル。聖遺物保管室に向かってもらえませんか? 私も準備をしたらすぐに行きます」

 よよよと崩れ落ちそうになる気持ちを抑制して、凛とした表情を作ったカリムはエリオに依頼を告げた。
 流石の緊急事態にエリオも文句を言わずに仕事を引き受け、すぐにカリムの執務室を後にしようとする。
 しかし、執務室から出る直前でエリオはカリムに振り返った。

「事件が早めに片付いたら一緒にご飯でも食べませんか? 美味しいお茶を期待したいのですが」

 エリオの言葉にカリムは表情をぱっと明るくした。

「はい―――自慢のお茶を用意しておきますね」
「ええ。その時は―――フェイトさんも是非
「…………」

 前途はだいぶ、多難だった。





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