雰囲気に流されたっ!?
 協力を確約した途端に、先ほど流した涙が嘘だったようにけろりとしたカリムが、うきうきと準備をし始めた。
 彼女の様子に、エリオはがっくりと肩を落す。
 分かってはいた。予感はしていたんだ。でも、放っておけなかったんだ……。
 そういった人の良さこそが彼の美点であり、また欠点でもある。
 エリオは天を仰ぎ、深い深い溜め息をつきながら、呟いた。

「はめられた……」

 ご愁傷様です。

「実は、既に仲間はほとんど集め終わっているんですよ!」

 ローテンションなエリオとは対照的に、ハイテンションなカリムは、執務机に設えられた赤いボタンをぽちっと押した。
 手動ドアが自動で開き、二つの人影が入室してくる。
 カリムが、彼らの紹介を始めた。

「まずは、二丁拳銃を操るツンデレガンマン!」

 オレンジ頭のツインテールが入ってきた。

「がんばるわよ、エリオ! 途中で挫けたら承知しないんだからね」

 機動六課スターズ4、ティアナ・ランスターだった。超知り合いだった。しかも、彼女に似合わず超やる気だった。
 逆らったら教育上不適切なおしおきをされてしまいそうである。

「は、はい……よろしくお願いします」

 彼女の剣幕に気圧されて後退ってしまう。おかしい、彼女はこんなキャラじゃない。
 しかも、ツンデレとか言われたら絶対に突っ込みを入れるか、どうしたらいいか分からない表情を浮かべて困るかの反応を示すはずなのに、何故か完全にスルーしている。

「あれ……?」

 よく観察したエリオは、不幸にも違和感に気づいてしまった。最初はやる気があり過ぎて微妙に空回りしているように見えたのだけど、よくよく観察してみると何かに震えているような感じがする。

「が、ががが、がんばるわよっ! が、がんばらなきゃいけないのよ!」

 ―――これは、脅されている者の反応だっ!

「続いて、白い悪魔!」

 背筋に、ぞくり、と。冷たい何かが滑り落ちる。
 反射的に膝が崩れ落ちそうになったエリオの耳に、にゃはー♪ なんて陽気な声が入った。
 機動六課の鬼教官が上機嫌で登場していた。

「短い間だけどよろしくね、エリオ。みんなでがんばろう♪」

 ―――おかしい。
 絶対におかしい。
 彼女に『白い悪魔』なんて言った日には、ブラスタービット大放出の超級星光破砕砲が華麗なエフェクトで発動するはずなのに。

「にゃははー♪」

 そんな気配が微塵も感じられない。っというか、この上機嫌さがおかしすぎる。
 がたがた震えるティアナをなるべく視界に入れないようにしながら、エリオは、疑問点に突っ込もうと口を開く。
 だが、彼が言葉を発する前になのはが喋った。

「仲間はね、もう一人いるんだよー。にゃははー♪」
「最後の仲間はとある場所に捕らえられています。彼を救出しなければ世界の崩壊は止められません」

 一人でくねくねとし始めたなのはのことは放って置いて、真面目に語るカリムへと向き直る。どうやら、最後の仲間は世界を救うにあたってとても重要な人物らしい。

「彼の名は『ユーノ・スクライア』。無限の知が眠る場所の管理者にして、恐らく襲いくる滅びの正体も、世界を救う鍵も、そのどちらの情報も持っているはずの人物です」

 紡がれた名前には聞き覚えがあった。

「ふっふーん♪ 久々にユーノ君と一緒にお仕事ができるよ〜♪」

 ついでに、なのはが不自然に上機嫌な理由も分かった。
 どうやら彼と彼女は深い仲らしい。また、中々会えない間柄でもあるらしい。
 子供らしからぬ状況を読むスキルで、エリオはそれらを感じ取った。

「けれど。どうしてユーノさんはこの場にいないんですか?」

 降って湧いた、当然の疑問。かつ、素朴な疑問。

「……………」

 それを口にした時、ティアナの表情がさっと青ざめ、部屋の隅に逃げて頭を抱えた。

「それはね、エリオ」

 さらに、先ほどまでとは打って変わって声から抑揚を失った砲撃魔導師殿が静かに言葉を流す。言葉という名の冷たい流水を流す。

「ユーノ君が、攫われたからだよ……?」

 部屋の温度が、急激に下がった。部屋の隅から、がちがちという、歯を震わせる音が届いた。

ユーノ君が攫われたからだよっ!

 剣幕に、窓ガラスが割れた。
「私は絶対に許さないの。ユーノ君を攫ったやつらを、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って、撃って! 撃つのっ!」

 ―――世の中ってさ? 聞かなきゃよかったってこと、あるよね。

「ユーノ・スクライアは結界で封印された無限書庫にいます。彼の協力が無ければ、世界の滅びを止めることはできません」

 極力なのはとティアナに目を合わせないようにしながら、カリムがエリオの手を握る。

「彼を助け……世界を救いに出向いてくれませんか?」

 何度かされた問い。『世界を救って欲しい』という、規模が大きすぎて漠然としすぎている問い。

「お願いします……貴方が……貴方が、希望なんです……」

 自分の手を握る彼女の手は、固く握られていて。本気で、自分なんかに頼んでいるんだと伝わってくる。世界の危機なんて大事を、まだ騎士見習いの自分に託そうとしている。

「一つ、お聞きしてもいいですか?」

 ……正直な話。冗談が混じりすぎて、危機感とか、焦燥感とか、そういったものを持てないでいる。
 これは壮大な仕掛けを施した釣りで、自分は目論見どおりに引っかかった獲物なんじゃないか? と、思ってしまったりは、する。

「はい。なんでもお答えします」

 けど、それがどうだって構わない。……と、思う。

「世界、どうやって守りましょう……?」

 ただ、そこに。

「ふふふ。簡単なことですよ? あなたの仲間を信じてください。そうすれば必ず道が開けますよ」

 危機にさらされている命があるというのなら、本気で守るのもありだと思う。
 釣りなら釣りでも構わない。危険に襲われた人はいなかったのだから、僥倖というものだ。

「分かりました。それじゃあ……世界、守りますね」

 ―――返した言葉に喜んで、微笑んだカリムは。

「あ……窓ガラスがある執務室も私的に世界なので、どうにかしていただけませんでしょうか?」

 割れた窓ガラスを見て、とても悲しそうな顔をした。

「じゃ。世界、守ってきますね!」

 エリオは、何か言われる前に、仲間二人を引き連れて撤退―――じゃなくて、旅立ち―――することにした。





    ◇    ◇    ◇





 ユーノさん救出劇は、地獄絵図でした。
 あまり口に出したくないので大まかなことしか言いませんが、そうすると、何と言うか、虐殺の一言につきます。
 僕、エリオモンディアルは。砲撃魔導師――ひいては、なのはさん――を怒らせてはいけないと、心に深く刻みました。






    ◇    ◇    ◇





「やめて砲撃やめてくろすふぁいあーがやめてスバルたすけていやぁっ」

 ティアナは、絶賛トラウマ発動中でどうしようもなかった。

「ごめんね、ボクが弱いせいでみんなに苦労をかけさせちゃって」

 申し訳無さそうに呟いたユーノの言葉を、彼の手を取ったなのはが引き取る。

「ううん。苦労だなんて思ってないよ、ユーノ君。それにね、私ね。ユーノ君と久々に会えて……嬉しいんだ」

 そのまま彼の背中へと腕を回し、熱い抱擁を交わす。
 ユーノの方もまんざらでもなさそうで、なのはを抱き締め返していた。

「そっか、ありがとうなのは。でも、久々って言っても三日前に会ったばかりじゃないか」

 ユーノの言葉になのはが涙を浮かべて、彼の胸元に顔を飛び込ませた。

「ユーノ君に会えない三日間は、ずっと一緒に居た一年間よりも長かった……! 寂しいの! 離れたくないの! 一緒に居られない時間が……怖いの」

 胸に抱えた思いの丈をぶちまけるなのは。それに困り顔をしながらも、彼女の頭を優しく撫でるユーノ。

「…………」

 そんな光景をうっかり見ていたものだから、突っ込みを入れるタイミングを逃してしまった少年が一人、なんだかもう何もどうでもよくなった顔で佇んでいた。

「救出するところ、完全にカットされたなぁ…………」

 突っ込めなかったのでコメントにしてみた。

「私、ユーノ君と離れたくないよぅ…………っ」
「ボクもだよ、なのは。でも、ボクに引っ付いたままじゃお仕事できないし。今、なのはがしてるお仕事はなのはの夢が叶った形なんだし。だから、がんばって欲しいんだ」
「砲撃怖い。砲撃怖い。砲撃怖い。砲撃怖い。砲撃怖い」

 ……虚しくなった。

「あ、あの、ユーノさん……」
 けど、主人公として話を進めないといけない。よく分からない義務感からくる感情に押され、抱擁を交わす二人に言葉を投げかけた。

後にしてっ!

 引っ込んだ。怖かった。なのはさんが超怖かった。
 けど、後に引くと本気で世界がピンチなので勇気を振り絞って再アタックを敢行する――

「い、いちゃつく前にすべきことはやるべきだと思います!」

 ――前に、命知らずの執務官志望が死亡フラグを立てた。
 僕は、彼女の震えるツインテールを忘れない。エリオは、そう思った。

「……そうだね。救わなきゃならないものが、あるもんね」

 だったのに、なのはがアクションを起こす前にユーノがティアナの言葉を肯定した。

「みんな、これを見て欲しいんだ」

 首になのはを引っ付けたまま、ユーノが器用に魔法を展開する。四角い光が中空に現れた。
 それは何かの資料だった。
 エリオには読めない文字と、理解できそうにない図が広がっている。

「カリムさんに頼まれて急いで調べたんだ。そしたら、こんなものがでてきてね」

 考古学者でもあるユーノは、みみずがのったくったような文字や謎の幾何学図形が意味するものを理解できるのだろう。
 中空に浮かべられた資料に書かれていることを、彼は丁寧に説明していく。

「これは“漆黒の魔王”に関する文献なんだ。文献によると、魔王は100年と少し前に突然この世界に現れて、暴虐の限りを尽くしたみたい」

 ―――漆黒の魔王。それは、カリムの予言にも出ていた単語だ。
 曰く、世界を滅ぼすものだと。

「途方も無い魔力の持ち主で当時としてはどうしようもなかったんだけど。あるものを使って辛うじて封印することができたみたいなんだ」
「それなら、もう一度それを使って封印すればいいんじゃないですか?」

 ティアナの言葉に、一瞬、ユーノの表情に翳りが差した。
 ほんのまばたきするほどの間だったので確信は持てないが、確かにエリオは彼がそうしたと思った。
 ユーノが首を振る。

「それは無理なんだ。当時取った方法は今では再現不可能なものでね。―――夜天の魔導書を使ったんだ」

 彼の言葉を聞いて、エリオは、ユーノの表情に翳りが差していたと確信した。
 夜天の魔導書とは、すなわち、管理局が長年追い続けてきたロストロギア『闇の書』である。
 機動六課の隊長陣たちを始めとする多くの人間に関係深いそのロストロギアは、既に失われていた。

「それじゃあ、どうしようもないんじゃぁ……」

 『闇の書』が強力無比なロスロトロギアだったということくらいは、エリオも聞き及んでいた。それが『夜天の魔導書』であった時代だとしても、性能は代わらないだろう。
 太古、今よりも発達した技術が詰め込まれたロストロギア。
 それを用いてすら辛うじて封印できたものを、たった4人でどうにかできる道理は存在するのだろうか?

「正直な話、対処法は分からないよ。でも、魔王の居場所だけは分かっているんだ。だから――」

 もったいつけるように言葉を区切り、全員の視線を改めて集めてから、ユーノは言う。

「――完全に復活する前に全力全開の魔法でぶっ飛ばしちゃおう」

 顔に似合わず過激な作戦だった。
 当然のようにぽかんとするティアナとエリオ。
 だが。
 だがっ。
 たった一人だけ諸手を上げて喜ぶ少女が、不幸なことにこの場には存在していたっ!

「さっすがユーノ君! わっかりやすーいっ!」

 我らがなのはさんはる気だった……っ!
 ぶっ飛ばす気まんまんだった。
 臨戦状態のレイジングハートが、ぎらり輝いている。

「…………あ、あの、それで」

 先ほどまでユーノを攫った組織――恐らくは、魔王配下の者たち――本拠地で阿鼻叫喚の悲鳴を上げさせていたなのはだが、まだまだやり足りないらしい。
 エリオはついぞ聞くことはなかったが、もしもなのはに『そこまでやらなくてもいいんじゃないですか……?』と問うていれば、『私とユーノ君の邪魔をした罪はミッドチルダより重いの!』という、ネジが飛びきった回答を返してくれただろうリターン。
 何があったんですか、なのはさん。

「その、漆黒の魔王はどこに封印されているんですか?」

 むしろあんたが魔王やと言いたい恐ろしい状態の高町隊長から一刻でも早く離れるべく、魔王の所在を尋ねるユーノ。
 標的の居場所は、エリオが予想もしていなかった場所だった。

「過去から現在まで魔法的な力を有していて、常に魔王を監視し続けられる場所。―――聖王教会、だよ。不幸にも教会の人々は魔王の存在を――もしかしたら彼の配下の工作もあって――忘れてしまっているようだけどね」

 ユーノが言い終える前に、エリオは駆け出していた。





    ◇    ◇    ◇    ◇





 苦しむ胸を押し切って急行した聖王教会は、あちこちから煙を噴き、ところどころが燃えていた。
 そこかしこからは金属が打ち鳴る戦闘音が響き、耳障りな爆音が状況が切羽詰っていると告げている。

「邪魔をしないでください―――ッ!」

 踊りかかってきた曲がり角に潜んでいた敵を電光石火の早業で殴り倒し、エリオは迷わず十字路を駆け抜けた。
 カリムに呼び出される中でいつの間にか見慣れてしまった教会は、エリオにとって家にも等しい場所になりつつあった。
 地図を見なくても間取りが分かるのである。
 十字路を抜けた先の丁字路でも、エリオは迷わず、左に曲がった。

「ストラーダ!」
《SonicMove!》

 機械が鳴らす合成音が響き、エリオの身体が白光に包まれる。
 進路の先には大量の敵の姿が見えたが、エリオはその全てを無視することに決めていた。タイムロスが惜しかった。
 突如として出現した眩い光は当然のことながら敵の注視を引くが、ただ、それだけだった。

 ―――何故なら、光は誰にも捕まえられないから。

 エリオを見た悉くは何が起こったか理解できなかった。
 一条の雷光――ああ、雷光だ。白光は紫電を帯び物理界を駆け抜けたのだから――が視界の端を過ぎったかと思えば、背筋に氷刃が滑り落ちたような悪寒に身を震わせた。いや、身を震えさせられた、、、、、、、
 それは恐怖である。
 恐怖とは直感であり、生物的本能が発する警鐘である。
 生物的本能とは―――生存である。

 ―――さて、ソニックブームと呼ばれる現象がある。

 物体が移動すれば、大なり小なりその物体は音を発する。
 通常、物体が音源となった時、音は空気を媒介にして放射状に波を広げる。
 移動する物体が音源となった時には、物体の進行方向の波間隔は狭く、進行方向と逆の方向では波間隔は広くなる。
 間隔が狭い音の波は、高く強く聞こえる。対して、間隔が広い音の波は、低く弱く聞こえる。迫ってくる救急車のサイレンと去っていく救急車のサイレンの、その音の違いを思い出していただければありがたい。
 さて。周囲の温度によって差異は生まれるが、音は秒速340mという凄まじい速度で空気を伝わる。銃弾より速いという触れ込みの世界最速地上走行自動車ですら秒速約152m―――時速550km―――であり、音の半分ほどの速度も出ない。
 故に、通常なら起こりうるはずがない、、、、、、、、、、現象がある。
 全ての物体を置き去りにするはずの音ですら置き去りにする物体が存在したら、どうなるか?
 物体の進行方向で発生する波は、とうの音源である物体に押され、波の間隔を限界まで狭めていく。
 そして、とうとう限界を超え、物体が音を越え、音波を追い抜いてしまった瞬間。
 常を超えたありえない現象、超常現象が起こる。

 ―――即ち、ソニックブーム。

 最速のはずの己を追い抜かれた音なる敗者は、遠くに背中を見せる勝者の後ろで地団駄を踏み、周囲に暴虐の嵐を巻き起こす。
 音は波であり、空気を媒介――支配――にして伝わるものである。乱れた音は空気を掻き乱し、不可視の牙で全てを薙ぎ払う。
 牙の名は、誰しもが聞いたことがあるだろう。
 その名を“衝撃波SonicBoom”という。

 ―――エリオには、理由がなかった。

 彼の道を阻もうとする敵たちと槍を突き合わし、一人一人と戦う理由など、エリオは持ち合わせていなかった。
 ただ、彼が雷光となって駆け抜けてしまいさえすれば、その後ろには、何も残らないのだから。

 ―――いいや、ただ一つだけ残るものがある。

 空気とは絶縁体である。強大なエネルギーを秘めた雷が地上を全てを焦土に変える大破壊を及ぼさないのは、空気という絶縁体が雷の膨大なエネルギーを封じているからである。
 雷とは、電気とは、電子に依存するものであり。すなわち、微小な物体の移動に伴って発生する現象である。
 電子の移動が阻害されれば雷はその力を削がれてしまう。そして絶縁体とは電子の移動力を殺いでしまうものである。
 空気とは絶縁体である。

 ―――今、エリオは、光となって駆け抜けた。

 彼の小さな身体はソニックブームを起こすほどの速度で動いており、それは彼の身体で空気を掻き分けているに等しかった。
 当然のことながら、掻き分けられた瞬間には、そこに空気が存在しない空間――真空――が生まれる。
 エリオの光速は真空の瞬間を一直線に繋げていた。
 そしてエリオは雷光を―――イカズチを―――纏っていた。
 空気が―――絶縁体が―――存在しない空間に、雷が疾ったのだ、、、、、、、

 ―――ある聖女は言った。

 人よりも、車よりも、風よりも速く走る赤髪の少年が、どんな職人が志向を凝らして造った電飾よりも美しい紫電スパークを引き連れる様を見て。
 一目で心を奪われ、初心な少女のように胸を高鳴らせた聖女は賞した。

 ――― He is a LightningHero.

 エリオ以外の誰も、その廊下で何が起こったのかは分からなかっただろう。
 いいや、もしかしたらエリオすらも分からないのかもしれない。
 そこでは、暴虐な破壊が一瞬で行われた。

 ―――エリオには理由が無かったのだ。

 長く伸びた胴をうねらせ龍のように暴れる雷を凌ぐ術も、理不尽な八つ当たりで破滅の牙を振るう音を防ぐ術も持たない彼らと戦う理由なんて。
 雷光の槍騎士には粉微塵も存在していなかった。

 ―――悲鳴も絶叫も、崩れ落ちる音も。エリオに追い縋ることはできなかった。





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