唸りを上げて迫り来る無数の弾丸を前に、エリオ・モンディアルはどこまでも冷静だった。個々の弾丸それぞれの軌道を読み切り、疾風のような勢いで針穴より小さい活路に飛び込んだ。
 掠った弾丸が肌を浅く裂き、耳元を通り過ぎた弾丸は不愉快な音を残していく―――が、エリオは全ての銃弾を避け切っていた。

「やれる! 行ける! 突撃するよストラーダッ!」
《Dusenform, Speerangriff!》

 軽く着地を決めると獰猛な唸り声を上げる愛槍の推進力と全身のバネを解放して銃撃の主に突撃を敢行し、

「必殺、私の必殺技! リボルバーァァァァッナッコォォオオオッ!」

 顔面に横合いから飛び込んできたスバル・ナカジマの拳撃が突き刺さり、ボールのように跳ね回りながら地面を転がっていった。
 やがて訓練場の脇に植えられた木に激突して停止した。―――なんか、痙攣してる。

「エリオ君しっかりして! スバルさんは急いでシャマル先生を呼んできてください! ティアナさんは―――エリオ君の無事を祈ってください!」

 慌ててエリオに駆け寄ったキャロ・ル・ルシエがてきぱきと指示を下していく。スバルはマッハキャリバーを全開にして医務室に走っていき、ティアナ・ランスターは黙祷を捧げていた。
 キャロは、青い顔をして白目をむいているエリオに懸命に語りかける。

「エリオ君はこんなとこで挫けちゃだめだよ! だから、しっかりして! 目を覚ましてエリオ君!」

 だが、必死の呼びかけも虚しく。エリオの痙攣が納まったかと思うと―――首が、がくんと垂れ下がった。

「エリオ君―――!?」

 休日の機動六課にキャロの悲鳴が響き渡ったのだった。





     ◇     ◇     ◇     ◇





 駆けつけたシャマルのおかげで一命を取り留めた人騒がせなエリオとその一行は昼食を摂るべく食堂にやってきていた。
 顔が非常に不恰好な仕様となっていたが、それは致し方ないことである。
 全員が昼食を持って着席したことを確認すると、ティアナが代表して口を開いた。

「エリオ、まだ続けるの?」

 続ける、とは。エリオの懇願によって開始された二週間限定の特訓である。
 初日から数えて折り返し地点に当たる今日の成果を思うと、とても『目標』に追いつけるとは思えなかった。
 もっとも、続行の是非を訊ねたティアナはエリオの返答を半ば予想しており、

「はい。……ご迷惑でなければ最後まで手伝ってくれると嬉しいです」
「まあ、あんたが諦めない限り手は貸すつもりだけど」

 予想と寸分違わぬ返事を受け、ティアナは溜め息を零した。
 相談を受けた時からエリオの決意が固いことは分かっていたが、改めてそれを理解した上で状況を考えると頭痛がしてくる。彼が立てた『目標』は随分と遠く、一週間で達するのは不可能だろう。
 だが、戦うなら不可能も可能にしなければならない存在が―――ストライカーである。

「ひとまず作戦を練り直そうと思うんです。奇をてらうにしても弾幕の正面突破は後に続けられないみたいで」
「エリオだとどんなパターンを試しても弾幕を抜けた後で潰されちゃうみたいね」
「うーん、弾幕は掻い潜れるようになったのにねー」

 新しい案を作るべく反省会を始める面々。ここ一週間は一対一における奇襲を試しており、弾幕の正面突破は三つ目の案だった。
 他にはカウンターや、ティアナ指導のもと極々簡単な幻術魔法のプログラムを組み込んで運用試験を行なってみたが、今一効果が無かった。
 土台、小手先の技で切り崩せる『目標』ではない。

「あの。私、思うんですけど」

 今までなりゆきを見守っていたキャロが口を開いた。3つの視線が一斉に彼女へ集まる。
 キャロは――まだ、考えあぐねているのだろう――慎重に言葉を選びながら続けた。

「やっぱり、エリオ君の持ち味を生かすべきだと思うんです」
「でも、相手もエリオも長所は被ってるわよ?」
「自分より強い相手には相手よりも自分が強い部分で勝負すべき、なんだろうけど。向こうの方が速いんだよねー」
「はい。でも、エリオ君とまったく同じわけではないと思うんです」

 そこまで言うとキャロは言葉を区切った。周囲の目を確認するように視線を巡らし、『相手』がその場に居ないことを把握した上で再び口を開いた。

「だから―――フェイトさんにスピード勝負を挑みましょう」

 驚愕に目を見開いた三人を前にキャロは小さく苦笑いを浮かべると、ここ一週間考えていた作戦を切り出していった。





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